落としものを拾ったら、ヤンデレ公爵に執着されました

涙乃(るの)

文字の大きさ
2 / 4

王妃の憂鬱①

しおりを挟む
(王妃視点)

「ねぇ、最近ウィリアムを見かけないけれど、何か知ってる?」

私は侍女を呼び止め問いかける。

「王妃様、実は……ウィリアム様は、その……」


いつもはっきりと話すのに、珍しいわね。

言い淀む侍女にしびれを切らした。

「どうしたの? はっきりとおっしゃい!」


「はっはい! ウィリアム様は公爵邸に引き篭もっていらっしゃるそうです!」


「まさか、体調でも悪いの? 何も報告がないけれど、どうしてかしら。何か知っているのなら、教えてちょうだい」


「はっ、はい、私も、噂程度のことしか存じ上げないのですが……、実は一一」


侍女から聞いた話は衝撃だった。

なんですって? ウィリアムが女性を閉じ込めているですって?

どういうことなのかしら。 

幼い頃はちょろちょろと近づいてきては、小さな目をキラキラさせて話しかけてきてたわよね。

なのに、大きくなるにつれて、素っ気なくなって……。

最近は突拍子もないことをしていて、理解に苦しんでいたけれど、ついには誘拐?軟禁?しているというの?


大丈夫かしら。はぁ……やはり、血は争えないのかしらね。

「ちょっと、お相手のご令嬢はどこの家の方? 苦情が何もきてないけれど……いいわ、私が直接ウィリアムに聞くから。今すぐ、ウィリアムを呼び出してようだい。緊急よ!」


「はい!!!」


慌てふためき退室した侍女の後姿を見送る。

「はぁ……」

アメリア、あなたの心配していた通りになってしまったわ。 ごめんなさいね。

遠い記憶が呼び起こされる。


✴︎ ✴︎  ✴︎
ウィリアムが生まれてしばらく経った頃、エドワーズ公爵邸に招かれた。

「王妃様、よく来てくださいました」

「アメリア、久しぶりね。元気だった?もう、そんな他人行儀はやめてちょうだい、私たち友達でしょう?」


「王妃様……」


「あぅ、あぅー、あぅー」


「あら?この子がウィリアムね。やっと会えたわ!はじめまして、ウィリアム、あなたのおばさまですよー、あぁ、かわいいわね、アメリア?どうしたの?」

ベビーベッドで無邪気に手足をバタバタさせて、ご機嫌のウィリアムと対照的に、アメリアの表情には陰りがさしている。


「アメリア、何か悩みがあるのなら話してくれないかしら。 本当はもっと早くに会いたかったのだけれど、アメリアは嫌だった? 何度も手紙をおくったのだけれど、いつもリチャード(国王の弟)から、断りの返事がくるのよね……。結婚式以来じゃないかしら、こうしてあなたと会話したのは」

「王妃様……はっ、馬車の音だわ、王妃様、ごめんなさい、今日はもうこれ以上話すのは無理だわ。伝令を飛ばすわ、だから、今日はもうお引き取りを、急いで!」


「アメリア?ちょっと」

アメリアから背中を押されて、文字通り部屋から押し出されると、バタンと扉が閉められる。


いったい、アメリアは何を悩んでいるのかしら。

伝令を待つことにしましょう。


王宮に戻った私は、その日の業務をこなして、早めに寝台へと入った。

うつらうつらとまどろみ始めた時に、ぼんやりとした光の玉が室内に現れて目を覚ます。

この光の玉は、アメリアの伝令ね。

光の玉を手で受け取ると、アメリアの幻影が現れた。

「王妃様、どうか、リチャードを恨まないで。 私が悪いの……全部、私が悪いの……。 私はリチャードのものなのに……
ウィリアムにつきっきりで過ごしてしまったから……

ゴホッ、ゴホッ、王妃様、ゴホッ、

ウィリアムのこと……託せるのは王妃様しかおりません。どうか、昔馴染みの最期お願いです……ウィリアムを……お願いします……決して甘やかさないで、厳しくしてほしいの……

甘やかしてしまったら、自己肯定感が高くなる。勘違いするかもしれない……全てが思い通りになると……そうしたら、第二の私みたいな……。

番なんて見つからなくてもいい、だから、どうか厳しく……ゴホッ」


「アメリア?大丈夫⁉︎ 煙が見えるけど、アメリア! 待ってて、すぐ行くから!」

光の玉がパリンと音をたてて割れるのと同時に、アメリアの幻影も消滅する。



急いで近衛兵を率いて、国王と共にエドワーズ公爵邸へと向かった。

公爵邸の一室で、倒れているアメリア達を発見した。リチャードがアメリアを抱きしめていた。

耐火の魔法をかけられているので、邸が燃えることはない。火事など起こらないはず。

けれど、密封された室内、暖炉の火が魔力を込められて不自然に燃えており、
二人は一酸化中毒で亡くなっていた。

「リチャード……やはり……」

「あなた、何か知っているの!? どうしてこんなことに! アメリア、アメリア!アメリアーーー!」


国王から聞かされたのは、リチャードの歪んだ愛情表現だろうということ。

それ以上のことはだんまりだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

憐れな妻は龍の夫から逃れられない

向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜

涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください 「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」 呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。 その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。 希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。 アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。 自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。 そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。 アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が…… 切ない→ハッピーエンドです ※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています 後日談追加しました

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

処理中です...