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こらこら、飼い狼たるもの、ご主人様に牙を剥いてはいけませんよ?

アリスのばかあっ! 嫌みったらしの腹黒変態野郎ーッ!

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「ばっ……馬鹿なこと言ってんじゃ……!」

  聖神官の手が、明らかに――

「ふむ……もうそろそろ、年相当な大きさに成長してきても良いものですが、ね?」
  どこふく風で、少々肉付きの足りないラウの胸をナデナデする。

 「あ、うっ!?」
  聖神官は、ラウの頬に甘いくちづけを落とした。そのまま、濃密な微笑みとともに、優しくささやく。

 「可愛い私の狼ラウ。残念ながら……まだまだですね。でも、ぺたんこな貴女も、そうやって怒ってる貴女も、恥ずかしがってる貴女も、悔しがっている貴女も、甘えて、鼻を鳴らしてくれる貴女も……全部、可愛くてたまりませんよ」

 「んっ……!」
  押しのけようとしても身体が変なふうによじれて言うことを聞かない。
 「……ばかっ……昼間っからこんなとこで……!」

  背筋が、ぞくっ……と甘く悶える。

 「”こんなところ”でなければ、もっと? この続きをさせていただいても良かったのでしょうか」
 「……ち、ち……ちが……!」

  びくん、と腰が震える。それもこれもおなかが空きすぎているせいだ。栄養を、足りなくなった魔力を、身体が欲しているせいで……!

 「仕方ありませんね。では、先に行って食べるものを調達してきますか。どうやら今の貴女にはゴハンが必要なようです」
  聖神官は杖を振った。すずやかな笑い声と邪気を祓う月金石の環の音だけを残して、はらはらと散る花吹雪のように消え失せてゆく。
 「くれぐれもつまらない邪気を起こさないように。いいですね、ラウ。もし悪い気を起こしたら」

  優しい声が残響する。

 「今夜は……気持ち良いことしてあげませんよ?」

 「んなこといちいち言うな恥ずかしい!」
  ラウは真っ赤な顔で怒鳴った。思わずほっぺたを押さえ、誰かに聞かれやしなかったかとびくびく周りを見回す。

 「口に出して言わなければ、”されてもいい”のですね?」
 「誰がそんなこと言うかあッ! アリスのばかあっ! 嫌みったらしの腹黒変態野郎ーッ!」

  地団駄を踏んで、足下の石ころを消えゆくアリストラムの影めがけて蹴っ飛ばす。笑い声が吹き散らかされた。またぞろ物哀しいことに、ぺっちゃんこになったお腹と背中がくっついて、くぅぅぅぅ……ともの悲しい音を立て始めた。



 ぐううう。きゅるるるるる。ぐううきゅるるるるるるる。

 ……聞こえてくるのはまたまた凶悪な腹の虫の唸り声ばかり。
 ラウがドッタムポッテン村に到達したのは、あれから数日してからのことだった。必死に目的地までたどりついたは良いものの、今度こそあまりにもハラペコすぎて動けなくなっていたのである。

 とはいえ魔妖の出る村にわざわざ向かおうとする奇特な人間など他にいようはずもない。行き交う旅人も皆無な、ど田舎の街道でぶっ倒れ中のラウに気付いてくれる人は、おそろしいことに丸一日以上もの間、現れなかった。

「あのう……大丈夫ですか?」

 舌足らずさの残る幼い声とともに、おずおずと背に触れる手の感触があった。
「……大丈夫じゃないかも」
 ひょろひょろと頭のてっぺんから漂いだしていたラウの生き霊が無意識に応答する。

「お水、飲めます……?」
 声が聞こえてくる。ラウはあわててまどろんでいた意識を引き戻した。口からヘロヘロと幽体離脱させている場合ではない。人間だ。それもうら若くていかにも柔らかそうな可愛らしい女の子の声。全てにおいて最高級の食料。
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