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堕天使様と初めてのバグ
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セレスタイン城の南庭を見下ろす小さなバルコニーにて――
ラファエルは、珍しく手にしていた魔道具型の「監視録」を閉じた。
しかし、その赤い瞳は依然として、魔石の中に映っていたひとつの映像を反芻していた。
――スカーレットの、あの笑顔。
くしゃっと目を細めて笑い、クラウスと話しながら花瓶を持ち替える姿。
それだけのことなのに、不意に胸の奥がざわついた。
(……なんだ、あれは)
(あんな表情、記録には残っていなかったはずだ)
彼女のことなど、監視対象にすぎない。
「マリアに危害を加える可能性がある」という理由で、王命のもと婚姻し、共に暮らしているだけ。
なのに。
(見間違いだ。俺の気のせいだ。……いや、それ以前に――俺が気にする必要などない)
そう思っていたはずなのに、ラファエルの足は、知らず知らずのうちに階段を下りていた。
* * *
「……あれ? この上、何かあるの?」
スカーレットは、古びた螺旋階段を上がりながら、天井裏へと続く木扉を開いた。
クラウスの話では、長年封鎖されていた屋上の一部――
半壊した屋根の向こうに、小さな祠のような場所があるらしい。
(なんとなく、空気の通り道を見つけたくて……ああ、たまには高い場所に登ってみたくなるのよね)
ギシリ、という音と共に、腐りかけた木板の床がたわむ。
だが彼女は気にせず、屋上の一角まで歩みを進めた。
すると、その先に――
「……!」
瓦の影に、何かが蹲っていた。
小さな体。黒い毛皮。翼のようなものが片方だけ垂れている。
(魔物!? でも……すごく、弱ってる?)
スカーレットは慎重に近づき、その魔物の肩にうっすらと血が滲んでいるのを見て、ひとつ息をのんだ。
「……放っておけば、死んじゃう」
そう呟いて手を伸ばした、その瞬間。
「何をしている、馬鹿女ッ!!」
怒鳴り声と共に、風を裂くような気配が舞い込む。
スカーレットが振り返るより早く、ラファエルが彼女の肩をつかみ、引き戻した。
「危険だと分かっていて、なぜ屋上なんかに……!」
「だって、あの子、怪我してたから……!」
「死ぬところだったぞ! 足場の半分は崩れていた。お前の命がどうなってもいいというのか!」
鋭い声に、スカーレットは思わず言葉を詰まらせる。
「……えっ、助けてくれたの……? 私のこと……?」
ラファエルは何かを言いかけて、口をつぐんだ。
風が静かに吹き抜ける中、彼の瞳がわずかに揺れる。
(……この女は、何なんだ)
(悪役令嬢で、監視すべき存在で、命を奪う候補だったはずだ)
なのに。
どうして――目が離せなかった?
どうして、気づけば助けてしまっていた?
(これは、バグだ……)
彼の中で、ずっと揺るがなかった監視者としての役割。
マリアを守るためという大義。
だが今、その均衡が、静かに崩れ始めていた。
ラファエルは、珍しく手にしていた魔道具型の「監視録」を閉じた。
しかし、その赤い瞳は依然として、魔石の中に映っていたひとつの映像を反芻していた。
――スカーレットの、あの笑顔。
くしゃっと目を細めて笑い、クラウスと話しながら花瓶を持ち替える姿。
それだけのことなのに、不意に胸の奥がざわついた。
(……なんだ、あれは)
(あんな表情、記録には残っていなかったはずだ)
彼女のことなど、監視対象にすぎない。
「マリアに危害を加える可能性がある」という理由で、王命のもと婚姻し、共に暮らしているだけ。
なのに。
(見間違いだ。俺の気のせいだ。……いや、それ以前に――俺が気にする必要などない)
そう思っていたはずなのに、ラファエルの足は、知らず知らずのうちに階段を下りていた。
* * *
「……あれ? この上、何かあるの?」
スカーレットは、古びた螺旋階段を上がりながら、天井裏へと続く木扉を開いた。
クラウスの話では、長年封鎖されていた屋上の一部――
半壊した屋根の向こうに、小さな祠のような場所があるらしい。
(なんとなく、空気の通り道を見つけたくて……ああ、たまには高い場所に登ってみたくなるのよね)
ギシリ、という音と共に、腐りかけた木板の床がたわむ。
だが彼女は気にせず、屋上の一角まで歩みを進めた。
すると、その先に――
「……!」
瓦の影に、何かが蹲っていた。
小さな体。黒い毛皮。翼のようなものが片方だけ垂れている。
(魔物!? でも……すごく、弱ってる?)
スカーレットは慎重に近づき、その魔物の肩にうっすらと血が滲んでいるのを見て、ひとつ息をのんだ。
「……放っておけば、死んじゃう」
そう呟いて手を伸ばした、その瞬間。
「何をしている、馬鹿女ッ!!」
怒鳴り声と共に、風を裂くような気配が舞い込む。
スカーレットが振り返るより早く、ラファエルが彼女の肩をつかみ、引き戻した。
「危険だと分かっていて、なぜ屋上なんかに……!」
「だって、あの子、怪我してたから……!」
「死ぬところだったぞ! 足場の半分は崩れていた。お前の命がどうなってもいいというのか!」
鋭い声に、スカーレットは思わず言葉を詰まらせる。
「……えっ、助けてくれたの……? 私のこと……?」
ラファエルは何かを言いかけて、口をつぐんだ。
風が静かに吹き抜ける中、彼の瞳がわずかに揺れる。
(……この女は、何なんだ)
(悪役令嬢で、監視すべき存在で、命を奪う候補だったはずだ)
なのに。
どうして――目が離せなかった?
どうして、気づけば助けてしまっていた?
(これは、バグだ……)
彼の中で、ずっと揺るがなかった監視者としての役割。
マリアを守るためという大義。
だが今、その均衡が、静かに崩れ始めていた。
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