堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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知らない素顔

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午後四時。
毎日欠かさず、セレスタイン城で行われる監視ティータイム。

スカーレットは、窓辺に頬杖をつきながら、重いため息をひとつついた。

(……自分で「毎日顔を合わせていれば誤解も解ける」って言い出したけど……)
(ほんっっっとうに、会話が続かないのよね……!)

無言の時間が続けば続くほど、相手の冷たい目が刺さるようで居心地が悪い。
それでも「やめよう」と言い出せないのは、きっと意地と、それから――少しだけラファエルのことが気になっているからだ。

スカーレットは視線を落とし、膝の上をそっと見やる。

そこでは、小さな魔物が丸くなって眠っていた。

漆黒の体毛。
額には小さな角がひとつ。
片方の翼には白いガーゼが巻かれ、うっすらと滲んだ赤が痛々しい。

(名前……“コルネ”でいいわね。角があるし。可愛いし)

この子を初めて見たのは、天井裏――城の屋根の崩れた先に迷い込んでいたところだった。
ひどく怯えて、羽根からは血を流し、近づけば小さな牙をむいて威嚇してきた。

それでも。

(放っておけるわけ、ないじゃない)

柔らかなガーゼを巻いたときも、最初はプルプルと震えていた。
だが今では――こうして膝の上でぐっすりと寝息を立てている。

「……コルネ」

小さく呼びかければ、ピクリと耳のような突起が動く。

「私、そろそろ“監視ティータイム”に行かないと怒られちゃうのよね。……でも、君を置いていくのは心配だし」

スカーレットは、コルネをそっと抱き上げる。
軽くて、ぬくもりがあって――不思議と胸の奥が、ほんのりあたたかくなった。

「……もう、連れて行っちゃおうかしら。ラファエル様が何か言ったら、“監視されてる側の自由”って言ってやるわ」

くすっと笑いながら、スカーレットは立ち上がる。

その腕の中で、小さな魔物――コルネは、気持ちよさそうに尻尾を揺らしていた。

いつものように、セレスタイン城の応接間には静かなティータイムの時間が流れていた。

……と言いたいところだったが、今日のスカーレットには、いつもと少しだけ違う“荷物”があった。

彼女の腕の中、ふわふわの毛並みを揺らしながら、ぬいぐるみのような小さな魔物――コルネがすやすやと眠っている。

(この子、意外と図太い神経してるわよね……こんなに人の腕の中で熟睡できるなんて)

クッションの上にそっと寝かせてやり、用意されたティーカップの前に腰かける。

そして……。

「……遅い」

黒衣の男が現れたのは、その数秒後だった。

漆黒のマントを翻し、冷たい眼差しで彼女を見下ろす男――ラファエル。

「……またギリギリだ。お前は一体、どれだけ“監視”という言葉を軽んじている」

「その言い方、まるで時間に厳しい執事みたいですわね。……それとも、ティータイムに期待してたとか?」

「……は?」

思わず口から出た挑発気味な台詞に、ラファエルの眉がわずかに動いた。
その時だった。

「ぴいっ」という小さな鳴き声がして、クッションの上でコルネがむくりと起き上がる。

その金色の瞳がぱっとラファエルを捉えた――次の瞬間。

「ぴぃぃぃ!」

ばさっと小さな翼を羽ばたかせ、嬉しそうにラファエルへと駆け寄っていくコルネ。
その様子に、スカーレットが目を丸くしたのは当然だった。

(えっ……!?)

だって、ラファエルはあの冷酷無比な堕天使様なのだ。
人間にも、まして魔物にも一切の情を見せないと噂される彼が――

「……怪我は、もういいのか」

そう呟いて、ラファエルは自然な手つきで、コルネをひょいと抱き上げた。
そして、小さな背をぽんぽんと優しく撫でる。

コルネは気持ちよさそうに目を細め、喉を鳴らしていた。

その光景に、スカーレットの思考は一瞬、停止した。

(……なに、この優しい顔)

思わず、ラファエルを見つめてしまう。

(この人……こんな顔、できるんだ……)

目の奥に宿る鋭さはそのままに、けれどその手つきも、表情も――
まるで慈しむような温度があった。

彼の内に、こんな穏やかな一面があるなんて思いもしなかった。

そのとき、ラファエルはふと視線をスカーレットへ向けた。

「あの屋根裏で見つけたのか。……この個体、珍しい“黒羽の幼体”だ。おそらく絶滅種に近い。角も……稀少種の証だな」

「え……そうなの?」

「普通なら、すぐに貴族の間で噂になり、高値で取り引きされる。翼がある魔物は特に金になる」

「……っ!」

思わず、コルネを抱き寄せそうになったスカーレットの様子に、ラファエルの瞳が細められる。

「だが、お前は売るどころか、ここまで世話をして……。馬鹿か?」

「……そう思うなら、助けてくれたときに見捨てればよかったじゃない」

「……放っておけば死んでいたぞ」

「でも、あなたは――助けてくれた」

小さく呟いたスカーレットの声に、ラファエルは沈黙する。

その視線が、すんすんと彼の胸に顔をこすりつけるコルネへと戻った。

(誰も魔物になど目を向けやしない……。特に、この“黒羽”は魔王直属の守護種とされる存在。
貴族に狙われる危険を、ジルベール様も何度も懸念していた。)

(だが、この女――スカーレットは、そんなことなど関係なく、手を差し伸べた)

「……他の貴族とは、違うみたいだな」

そう呟くラファエルの声音は、ほんのわずかに――揺れていた。
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