堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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堕天使様の不器用すぎる謝罪

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夜の帳が落ちたセレスタイン城。
廊下のランプは優しく灯り、静けさの中に微かな足音だけが響いていた。

ラファエルは、スカーレットの部屋の前で立ち止まった。
拳を軽く握り、何度も扉をノックしようとしては、手を下ろす。

(何をしている……)

自分でもわからなかった。
謝りたかった。ただ、それだけだったはずなのに。

言葉が出ない。

(……どうやって、謝るんだ?)

こんなことは初めてだった。
たった一人の女に、たった一言を告げるのが、こんなにも難しいなんて。

「……スカーレット」

しばらくの沈黙の後、ようやく声を出した。
けれど、それは思った以上にぎこちなく、情けないほどに小さな声だった。

「その、……さっきのことだが……」

扉は閉ざされたままだ。返事はない。

(やはり、怒っている……)

だが、諦めかけたそのとき――

「……ラファエル様?」

中から、おずおずとした声がした。
やがて、扉の向こうで気配が動き、鍵が外される音が小さく響く。

そして、扉の隙間から、スカーレットの声が届いた。

「……先ほどは、私、言いすぎましたわ。ごめんなさい」

ラファエルの胸が、不意に熱くなった。
まさか、先に謝られるとは思っていなかった。

「……っいや、俺の方こそ……」

言いかけて、言葉に詰まる。
彼女の顔が見えないことで、逆に言葉がうまく出てこなかった。

「お、俺も……君のことに、色々……口出しして、悪かった……」

ようやく絞り出すように言葉を重ねると、扉の向こうから、ふっと笑うような気配が返ってきた。

「……ふふ。なんだか、私たち……下手ですね」

「……そうだな」

ラファエルは、初めて素直にそう認めた。

それでも――

(……これで、少しは前に進めただろうか)

扉越しに交わされた小さな言葉。
それは、ぎこちなくとも確かに二人を近づける“何か”だった。

「じゃあ……また明日、午後四時。監視ティータイムで」

そう言ったスカーレットの声は、少しだけ柔らかかった。

「ああ……遅れるなよ」

今度は、ラファエルの声にも、かすかな微笑がにじんでいた。

***

午後四時。
今日も、セレスタイン城の一室で“監視ティータイム”が始まった。

ラファエルは先に席に着き、黙ってカップを手にしていた。
スカーレットが扉を開けたとき、二人の間に微妙な気まずい空気が流れたのは、言うまでもない。

(……昨日のこと、ちゃんと謝り合えたはずなのに、なぜか目を合わせづらい)

スカーレットは、ぎこちない笑みを浮かべながら席に着いた。

「……今日は、いい天気ですわね」

「……ああ」

「……紅茶、入れますね」

「……頼む」

それだけの会話を終えると、沈黙。
カップに注がれる紅茶の音だけが、静かな室内に響いていた。

(だ、駄目だわ。このままだと“監視”どころか“沈黙の刑”よ……!)

どうにかこの場を和ませようとスカーレットが考えを巡らせていたそのとき――

「……クゥ」

彼女の膝の上にいた小さな魔物・コロネが、くるりと丸くなって甘えるように鳴いた。

「あ、コロネ……」

スカーレットがその頭を優しく撫でてやると、コロネは嬉しそうにくるくると尻尾を振り、やがて――ぽふっ、とラファエルの膝の上にジャンプした。

「……!?」

ラファエルが軽く身を引いたが、コロネはしっかりと前足で彼の膝を掴み、そのまましっぽを揺らして満足そうに彼の脚の上で落ち着いてしまった。

「……気に入られたみたいですわね」

「……なんで俺のところに来るんだ」

ぼそりと呟くラファエルだが、その指は無意識にコロネの頭を撫でていた。

「ふふ……優しいのね、あなた」

「……うるさい」

赤くなった耳を隠すように、ラファエルはカップを持ち上げた。

そこへ――コツコツ、と窓の外から軽快な音がした。

「……ナイト?」

窓辺に止まったのは、白くふわふわした羽を持つ梟・ナイトだった。

「まぁ、来てくれたのね」

窓を開けると、ナイトは上品に羽ばたいてスカーレットの肩に乗り、くるっとラファエルの方を向いて一鳴きする。

「クルゥッ」

「……なんだその目は」

ラファエルがじっとナイトを見返すと、ナイトは得意げに羽を膨らませた。
コロネはコロネで「こっちこそ先に乗ってるのに!」と言いたげに小さく唸る。

「ふふ、やきもちかしら。可愛い子たちね」

スカーレットの頬に、ようやく自然な笑みが戻る。

ラファエルも、それを見て――小さく、だが確かに口角を緩めた。

(……これで、いいのかもしれない)

口には出せないが、少しずつ、ふたりの間の空気は変わっていく。

紅茶の香りがふんわりと広がる中、魔物たちが場を和ませ、ふたりの距離を少しずつ近づけていった。
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