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癒しの真実
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ラファエルは魔王城の奥、静謐な書斎に足を踏み入れていた。
背後で扉が閉まる音がしても、彼は一切気に留めない。
重く冷たい沈黙の中、ラファエルは静かに口を開いた。
「……話したいことがある。ある夜のことだ。闇発作が起きた夜……そしてスカーレットの、癒しの力について」
執務机の向こうにいた魔王ジルベールは、いつもの戯けたような笑みを消して、真剣な目でラファエルを見返した。
「ほう、スカーレット嬢が……癒しの力を?」
ラファエルは頷き、語り始める。
あの夜、突如として起きた発作――
黒き獣の姿となり、暴走しかけた自分。
そして、その記憶の最奥に微かに残る、あたたかな光と……彼女の声。
「翌朝、いつもなら刺すような頭痛と身体の痛みが残るはずだった……だが、その夜に限って、俺の身体は軽かった。明らかに“何か”に癒された。それが……彼女だったとしか、思えない」
ジルベールの目が鋭く細められ、やがてふっと開かれた。
「……なるほど。やっぱりか」
「“やっぱり”……?」
「いや、君の話を聞いて確信したよ。
その力は――《ノクシア》だ」
「ノクシア……?」
魔王は頷くと、机の引き出しから一冊の古びた書物を取り出した。
革の表紙に刻まれた銀の文様。それは、月を模した紋章に似ていたが、どこかそれより深く、静かな光を感じさせた。
「この世界には今、四つの力が存在していることは知っているな?」
ジルベールは指を一本ずつ立てながら語る。
「貴族階級が持つ――星の導き《スターパレス》
王家にのみ受け継がれる――太陽の証《ソル・レガリア》
そして魔物たちの根源――闇の力
さらに、闇を唯一打ち消す光――月の加護《ルナリア》
そして……《ノクシア》は、ルナリアの原点とも言われている力だ」
ラファエルの目がわずかに動いた。
「それは……どういうことだ」
「今から二百年前――まだ“力”という概念すらなかった時代に、ある一人の女性が、天から舞い降りた天使に出会ったとされている。彼女は、天使から《癒し》の力を授かり、民を救った。その名は……セレフィーネ。オスベリア王国初代の“月の聖女”だ」
「セレフィーネ……」
「彼女が持っていた力こそ、《ノクシア》。
月の紋章もなく、本人すら最初は力の存在に気づいていなかった。だが、ある時感情の高まりと共にその力が現れ、重傷者を癒し、闇に囚われた者を救ったという。
月の力・《ルナリア》は、後の世でようやく“祝福”として形にされたが、
元は彼女の“祈り”と“愛”が生んだ、無意識の力だったんだよ」
ラファエルは、思わず息を呑んだ。
その話は……スカーレットとあまりにも酷似していた。
「もし、スカーレット嬢がその力を持つとしたら……二百年ぶりの再来ということになる。
だが、ラファエル。君は気づいているはずだ。
この力は――《ルナリア》よりも、深く強い」
「……それが、何を意味する?」
ジルベールは、少しだけ皮肉な笑みを浮かべると、指でラファエルの胸を軽く突いた。
「君が愛する“マリア”の地位が、危うくなるってことさ。
今や、彼女は月の加護を持つ聖女として、国の希望そのものだ。だが、それよりも強い癒しの力――本物の“奇跡”をスカーレットが見せたらどうなると思う?」
ラファエルは答えなかった。
だが、心のどこかでうっすらとその可能性を、認め始めていた。
(あの夜――癒されたのは確かに……あの女の、力だった)
「どうする? ラファエル。
彼女を監視し続けるか? それとも……信じるか?」
ジルベールの問いかけに、ラファエルはただ、黙って天井を見上げた。
迷いと、責任と、そして……
名前のつかない感情が、胸を満たしていた。
背後で扉が閉まる音がしても、彼は一切気に留めない。
重く冷たい沈黙の中、ラファエルは静かに口を開いた。
「……話したいことがある。ある夜のことだ。闇発作が起きた夜……そしてスカーレットの、癒しの力について」
執務机の向こうにいた魔王ジルベールは、いつもの戯けたような笑みを消して、真剣な目でラファエルを見返した。
「ほう、スカーレット嬢が……癒しの力を?」
ラファエルは頷き、語り始める。
あの夜、突如として起きた発作――
黒き獣の姿となり、暴走しかけた自分。
そして、その記憶の最奥に微かに残る、あたたかな光と……彼女の声。
「翌朝、いつもなら刺すような頭痛と身体の痛みが残るはずだった……だが、その夜に限って、俺の身体は軽かった。明らかに“何か”に癒された。それが……彼女だったとしか、思えない」
ジルベールの目が鋭く細められ、やがてふっと開かれた。
「……なるほど。やっぱりか」
「“やっぱり”……?」
「いや、君の話を聞いて確信したよ。
その力は――《ノクシア》だ」
「ノクシア……?」
魔王は頷くと、机の引き出しから一冊の古びた書物を取り出した。
革の表紙に刻まれた銀の文様。それは、月を模した紋章に似ていたが、どこかそれより深く、静かな光を感じさせた。
「この世界には今、四つの力が存在していることは知っているな?」
ジルベールは指を一本ずつ立てながら語る。
「貴族階級が持つ――星の導き《スターパレス》
王家にのみ受け継がれる――太陽の証《ソル・レガリア》
そして魔物たちの根源――闇の力
さらに、闇を唯一打ち消す光――月の加護《ルナリア》
そして……《ノクシア》は、ルナリアの原点とも言われている力だ」
ラファエルの目がわずかに動いた。
「それは……どういうことだ」
「今から二百年前――まだ“力”という概念すらなかった時代に、ある一人の女性が、天から舞い降りた天使に出会ったとされている。彼女は、天使から《癒し》の力を授かり、民を救った。その名は……セレフィーネ。オスベリア王国初代の“月の聖女”だ」
「セレフィーネ……」
「彼女が持っていた力こそ、《ノクシア》。
月の紋章もなく、本人すら最初は力の存在に気づいていなかった。だが、ある時感情の高まりと共にその力が現れ、重傷者を癒し、闇に囚われた者を救ったという。
月の力・《ルナリア》は、後の世でようやく“祝福”として形にされたが、
元は彼女の“祈り”と“愛”が生んだ、無意識の力だったんだよ」
ラファエルは、思わず息を呑んだ。
その話は……スカーレットとあまりにも酷似していた。
「もし、スカーレット嬢がその力を持つとしたら……二百年ぶりの再来ということになる。
だが、ラファエル。君は気づいているはずだ。
この力は――《ルナリア》よりも、深く強い」
「……それが、何を意味する?」
ジルベールは、少しだけ皮肉な笑みを浮かべると、指でラファエルの胸を軽く突いた。
「君が愛する“マリア”の地位が、危うくなるってことさ。
今や、彼女は月の加護を持つ聖女として、国の希望そのものだ。だが、それよりも強い癒しの力――本物の“奇跡”をスカーレットが見せたらどうなると思う?」
ラファエルは答えなかった。
だが、心のどこかでうっすらとその可能性を、認め始めていた。
(あの夜――癒されたのは確かに……あの女の、力だった)
「どうする? ラファエル。
彼女を監視し続けるか? それとも……信じるか?」
ジルベールの問いかけに、ラファエルはただ、黙って天井を見上げた。
迷いと、責任と、そして……
名前のつかない感情が、胸を満たしていた。
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