堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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黒い予兆

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スカーレットはやっとの思いで一日の業務を終え、寝台に身を沈めようとしていた時だった——どこか胸の奥で、得体の知れない“無言の圧力”を感じていた。

(……この胸のざわつきは……何? まるで、誰かの視線が直接、心に迫ってくるみたい……)

スカーレットは薄く目を閉じ、深呼吸する。だが、その圧力は、静かに、確実に彼女を追い詰める。

その時、寝室の扉が静かに開き、ラファエルが静かに入ってきた。

「お前がいないと寝れない。だから、ここで寝てもいいか?」
スカーレットは慌てて顔を赤らめる。

「そ、そんなに毎日添い寝してたら、私はいつか心臓が爆発して天に召されますが?」

「ぶはっ。それは困るな。だが、この数日の間でお前がそばにいないと寝れない体質になってしまったんだ。その責任をとってもらわないと」

いつのまにか、ラファエルはスカーレットの寝台に潜り込む。

「ラファエル様、話聞いてます?」
「俺はもう疲れた。寝る。ほら、お前も寝るぞ」
「なんて強引な……」

スカーレットはため息をつきつつも、自然とラファエルの背中に抱きつき、彼の温かさを感じながら目を閉じた。
ラファエルの鼓動が胸に伝わり、眠気に包まれる。

だが、夢の中で——
視界が歪む。ラファエルの瞳が赤黒く光り、ダスクファングの力に飲み込まれて暴走している。
獣化した彼の目から黒い涙が流れ、全てを破壊しようとする光景が瞬間的に頭に流れる。

「……ラファエル様……!」

スカーレットの胸は恐怖と切なさで締め付けられる。
夢の中でさえ、ラファエルを守りたい——その思いだけが、彼女の意識の奥で光っていた。

***

明るい月が黒い雲に隠れていた。
それは王妃ヴィラベラとマリアの水面下で進行している計略の影ー。

マリアは、王宮の寝台で微笑みながら言う。

「ゲーム通りなんて面白くないもの。スカーレット、貴方には確実に死んでもらわなきゃ。貴方が一番愛する人に殺される——最高で残酷なエンディングを貴方にあげるわ」

誰も幸せになれない最も残酷で悲しいバッドエンディングへと進み始めていたー。

***

スカーレットは薄暗い夢の中で、ラファエルの瞳から流れる黒い涙と、暴走したダスクファングの姿を目にした。
その瞬間、胸を押し潰されるような圧迫感——まるで“無言の圧力”が、現実の胸の奥まで押し寄せる。

(……この感覚……! 夢……だけど、現実のように重い……!)

スカーレットは目を開ける。
隣で静かに寝息を立てるラファエルの背中を感じながら、夢で見た光景の意味を必死に考える。

(……あの夢……どこかで見覚えがある……)

頭の中で、必死にゲームの記憶をたどる。
そうだ……これは……!

裏サイドストーリー 「堕天使の黒い涙」
ゲーム内でも最も残酷で、誰も幸せになれないバッドエンド。

《内容》:
•レーヴ・オブスキュールにより、傀儡と化したラファエルが、父のように慕っていたジルベールを手にかける。
•正気を取り戻したラファエルは、自らの罪を知り絶望する。
•スクファングがその絶望を察知し、暴走し始める前兆として、ラファエルの瞳から黒い涙が流れる。
•自暴自棄になったラファエルは、オスベリア王国ごと破壊しようとする。
•そのとき、聖女マリアが現れ、ルナリアの力でダスクファングと戦う。
•最終的にダスクファングに飲み込まれたラファエルは、自ら命を絶ち、マリアは姿を消す——

(まさか……あのバッドエンドが、現実に起ころうとしているの!?)

スカーレットはベッドの上で体を起こす。胸の奥で、強い決意が燃え上がる。

「……絶対に、そんなバッドエンドにはさせないわ。
私の全てをかけても、阻止してみせる……!」

窓の外に揺れる月明かりが、彼女の瞳に強く反射する。
月の光は、彼女の覚悟をさらに強く照らす。

スカーレットはベッドから静かに起き上がり、夢の痕跡を胸に刻む。
ラファエルの平穏を守るため、あのバッドエンドを回避するには、彼女自身が動かねばならない——。

(レーヴ・オブスキュール……人心に干渉する力…。あの無言の圧力の正体は、やはりそれなのね……)

魔王城での知識が、彼女の頭の中で次々と結びついていく。
《ルナリアの力》、そして魔王城に残された古文書や禁書の断片。
それらはすべて、相手の精神を操る力に対抗する手がかりを持っている。

(レーヴ・オブスキュールの力に直接干渉されると、ラファエル様が操られてしまう……。でも、月の加護と魔王城の知識を組み合わせれば、何か防御策が見つかるはず)

スカーレットは机に向かい、筆を取り紙に書きつける。
魔王城で覚えた呪文の組み合わせ、月光を取り込む手順、精神干渉に耐えるための符。
どれもまだ完全ではないが、彼女の頭脳はフル回転していた。

(……ここまでの準備が整えば、《レーヴ・オブスキュール》を無効化、もしくは弱めることができるかもしれない)

彼女は深呼吸をして、手のひらにある月紋章の痕を触れる。
あの力は、ラファエルを救うために——、そして自身の大切な人々を守るために使うのだ。

「……絶対に、負けない。私のすべてをかけて、貴方を守る……ラファエル様」

スカーレットの瞳は冷静でありながらも、燃えるような決意に揺れていた。
暗黒の影が迫る中でも、彼女は光となり、ラファエルを救うために立ち向かう——。

窓の外の月光が、彼女の決意をそっと照らす。
その光が、まだ見ぬ戦いの始まりを告げていた。
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