堕天使様との恋は前途多難です!〜この恋は筋書きにありません!〜

明夏 向日葵

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囮作戦

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玉座の間は重苦しい空気に包まれていた。
深紅と黒が溶け合う美しいドレスを纏ったスカーレットは、ラファエルと並んで玉座に進み出る。
彼女の胸は強く鼓動を打ち、今にも張り裂けそうだった。

その隣に立つラファエルは黒の燕尾服にルビーの装飾をあしらい、堂々たる姿で王に一礼する。
二人はまるで王侯の婚姻を控えた新郎新婦のように見え、傍らの重臣たちすら息を呑んでいた。

カリオス王が玉座から二人を見下ろす。
「申立したいこととはなんだ?」

ラファエルが前に出て、声を張る。
「陛下、オルビア・アリア・スカーレット。彼女こそ真の聖女にございます!」

ざわめく重臣たち。
王の瞳が鋭く光る。
「どういうことだ?」

ラファエルは一歩進み、毅然と語った。
「陛下はセレフィーネ様をご存じでしょうか?」
「当然だ。この国を建てた聖女を知らぬ者などおらぬ。」
「そのセレフィーネ様が持っていたとされる“ノクシア”の加護…それをスカーレットも宿しているのです。彼女は月の聖女にございます。」

続いてスカーレットも、勇気を振り絞り声を上げた。
「私は死にかけた時、セレフィーネ様に救われました。あの時、女神のような御方が私に力を与えてくださったのです。」

ラファエルが彼女の手を握り、言葉を重ねる。
「陛下、セレフィーネ様が彼女を救ったという事実は、彼女を聖女と認めた証ではありませんか?」

重臣たちはざわつき、王は深く考え込む様子を見せた。

その時、朗々とした声が割り込む。
「陛下! そのような偽りに惑わされてはなりません!」

純白の衣を纏ったマリアが、堂々と現れる。
その後ろにはセシル王子が控え、愛する人を守るかのように立ちはだかった。
「マリアを侮辱する者は、僕が許さない!」
セシルの鋭い視線がラファエルとスカーレットに注がれる。

マリアはすぐさま王に進言する。
「もし彼女が本物だというのなら、癒しの力を見せていただくべきですわ。」

王はゆっくりとうなずいた。
「ふむ…確かに。」

するとマリアが用意していたかのように、傷だらけで闇に侵食された兵士を連れてきた。
その姿は禍々しく、謁見の場にざわめきが広がる。

スカーレットはすぐに兵士へと駆け寄ろうとするが、ラファエルがその腕を掴んだ。
「……本当にノクシアを使うつもりか? 使えばお前が消えてしまう気がして…怖いんだ。」
震える声に、スカーレットは微笑んで彼の手を握り返す。
「大丈夫ですわ。貴方にも力を与えましたが、私はこうして生きているでしょう?だから、信じてくださいな。」

ラファエルは苦悩の末に手を離す。
スカーレットは兵士の手をとり、祈りを捧げた。
「天にまします我らの神、セレフィーネ様。私のノクシアを削り、彼の命を救い給え…!」

瞬間、彼女の掌から月の紋章が浮かび上がり、眩い光が謁見の間を包む。
闇に覆われていた兵士の傷がみるみる癒え、彼は正気を取り戻した。
「俺は一体……なぜここに?」
スカーレットは優しく兵士に声をかける
「お目覚めですか?どこか痛むところは?」
「僕を助けてくださったのですね。ありがとうございます。陛下の元に急いでいる時に怪我を負っていて困っていたのです。目が覚めたらまさかの王宮でびっくりしましたよ!
は…!こんなことしてる場合じゃなかった!」
彼は王に向き直り、告げる。
「僕の名前はラムスと申します。辺境から参りました。陛下に辺境部隊が勝利を収めたとご報告をしに参りました。」
「そうか。それはご苦労であった。盛大な凱旋パレードを開くつもりだ。騎士団長にもそう伝えてくれ。」
「畏まりました。」
そういうと、ラムスは陛下に一礼し去っていく。

王は唸るように言った。
「確かに…これは疑いようもない。」

しかしマリアが叫ぶ。
「加護を削ってしか人を救えぬなど、欠陥聖女ですわ!」
その声にセシルも同調するように叫ぶ。
「そうだ! マリアこそ真の聖女だ!」

重臣たちも動揺し、場が荒れ始める。

ラファエルは前へ進み出た。
「陛下、ではもう一つの真実をお話ししなければなりません。」

彼の声が謁見の間に響く。
「先日の王城破壊――あれは私の罪にございます。だが、その原因は“レーヴ・オブスキュール”という闇の力に操られたため。私はその傀儡とされ、愛する婚約者を刺してしまったのです。」

重苦しい沈黙が広がる。
ラファエルの手を、スカーレットが強く握り返した。

王の瞳が厳しく二人を射抜く。
「なるほど……。朕もあの夜の記憶が欠落していた。王妃やセシルも同様だったな。……その“レーヴ・オブスキュール”を操る者が宮廷に潜んでいるというのか。」

「はい。必ずいるはずです。陛下、人民に被害が及ぶ前に、共に探し出していただきたいのです!」
ラファエルの必死の声に、王は深く頷いた。

そして王はスカーレットへ視線を移す。
「……お主は彼を許したのか? 自分を刺した男を。」

スカーレットは真っ直ぐにラファエルを見上げ、力強く言った。
「許しました。彼は私を裏切ってなどいません。闇に操られていた彼を救うことこそ、私の使命だと思いました。」

ラファエルは彼女の手を握り、声を震わせた。
「俺は彼女を心から愛している。だからこそ、彼女を婚約者にしてくださった陛下に、感謝しているのです。」

王は長い沈黙の後、重々しく告げた。
「……そうか。ならば朕の見る目は、間違ってはおらぬようだ。」

その瞬間、マリアの顔が怒りと焦燥に歪み、謁見の場の空気が一変していくのだった――。
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