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サバゲーに行こう!
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しおりを挟む顔を上げてみると、何かが音羽の頭からすっぱり覆いかぶさっている。
「フーセンパイ」
「集中しろ。アウトなら見えるはずだ」
全身黒尽くめのフーが、静かに言う。かすかに彼女のライフルからぶすすすと、弾の出る音が聞こえた。
「は、はい」
被っているのは、フーが着ていた森と同じ模様が施されたマントだ。それのおかげで正面以外の音がほとんど遮られている。
音羽はふうと息を付いて、教わった通りにエアソフトを構えた。
――弾の音。打つ音。これ、かな?――
狙いを澄ます。その先に、いた。
――黄色の、腕章だ――
それを確認して、ぐっと指に力を込めた。
――すみません!――
ぶしゅ。っという炭酸飲料の蓋を開けるような、空気が一気に噴き出すような音。それと、球体が飛翔する空気の流れ。
「ヒットー」
向こう側。
「あたっ、た?」
「よくやったアウト」
横に顔を向けると、また口角をわずかに上げてぎこちなく笑うフーの顔があった。
よくよく考えると、ふたりが隠れる遮蔽物は、非常に小さい。ほぼ密着していないと、隠れることができない。
「あ、す、すみません!」
「こら、バカ」
その状況を理解して、音羽が慌てて立ち上がってしまう。それを押さえようと、フーも立ち上がる。そして、ばちばちと何かがエアソフトや肩などに当たる音。
「ふえ?」
「残念だが、ヒットだ。もどるぞ」
「え、あ。すみません!」
「両手上げて。撃たれるぞ」
ふんと、少しだけ憮然とした顔で、フーは両手を上げた。
「すみません……」
完全に自分のミスに、フーを巻き込んだ形だ。自責が募る音羽。
「おい! お嬢ちゃん! 1キルだな! おめでとう!」
「初ゲームでキルとったんかい? すごいじゃないか!」
音羽たちと同じようにヒットしたらしい、味方たち。口々になぜか音羽を賞賛していく。
「まあ、そういうわけだ。ミスは誰にでもある」
隣のフーも、ぽんと音羽の肩を叩いた。さっきまでの憮然とした顔はなく、どこか誇らしそうだ。そして動きにくいマントを脱がしてくれた。
「とにかく、もどるぞ」
「はい……」
それでも、釈然としない。ミスを認められない。
セーフティに戻ると、すでに尋がいた。大人たちと楽しそうに話し込んでいる。
「Hi! おとチャン! フーもsetネー?」
ぶんぶんと両手を振って、尋が出迎える。それをでその周りの大人たちも気づいた。
「聞いてくれみんな! このお嬢さん、初陣でキルをとってきたぞ!」
ボルトアクションの男が、その場にいた人たちに向かって叫んだ。
すると敵味方関係なく、歓声が上がった。
「おめでとーう」
「才能あるじゃないか!」
口々に上がる賞賛の声。その中には音羽が撃った相手もいた。
どうしてそうなっているのか、よくわからない音羽に、フーがそっと教える。
「サバゲーは、殺し合いじゃない。楽しみはしても、憎んだり、怒ったりするのは筋違いだ」
「そうなんですか?」
「サバゲーは、スポーツだ。戦争じゃない」
少しだけ誇らしそうなフー。
しばらく続いた歓声、少しずつ収まってきた。
それでも視線が、まだ音羽の方に集まっている。何か言った方が良さそうな雰囲気だ。
「あ、あの。ありがとう、ございます」
ヒットして、戻ってきた人々まで加わり、人の輪が次第に大きくなってきた。
「わたし、得意なこととか、ぜんぜんなくって。今まで、ほめられたこととか、なかったです。勉強も、運動も本当にビリばっかで、先生に怒られてばっかりだったけど、今、すっごい楽しいです!」
その瞬間、先ほどの歓声よりも、数段大きな歓声が上がった。
賞賛するもの、応援するもの。それぞれ違うが、ひとつも批判的なものはない。
今まで経験したことのない状況。
戸惑いと、それ以上に胸がじんと熱くなった。
「ゲーム終了でーす。二回戦の準備お願いしまーす!」
「よーし、それじゃ、第二回戦いってみヨーっ!」
「おー!」
「オーッ!」
応援ありがとうございます!
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