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過ち
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「土砂崩れとか、山崩れとか、大丈夫かな」
「社の周りはそういうことは起こったことは無いって爺さん達から聞いてる。消防団と青年団は見回りを始めているはずだし」
「そう」
耕平の腕の中で小さく頷いたが、安堵には繋がらない。
「落ち着いてください」
まだ中学生にそんなことを言われる自分が悔しくなって晶が顔を上げると、頬を摘ままれた。
「表情、硬い。さっきまで俺を馬鹿にしてたくせに」
「うるひゃい」
晶も耕平の頬を摘まんだ。
昔はこういう遊びをしていた。どっちが我慢できるか、弟の潤も含めた三人で戦っていたのだ。頬が赤くなっても根を上げなかったのは、晶だった。
雷光が差し込み、電気が消えた。灯油ストーブが部屋を暗闇から救ってくれる。
お互い頬から手を離したのは、社の方から男とも女ともつかない咆哮なようなものが聞こえてきたからだ。
「……」
呼ぶような声に、ぞっとして晶は竦んだ。
村にはたくさんの不思議がある。わかっている。だけど、怖い。
パニックになりかけたところで、耕平の手が頬を包んだ。
「晶さん」
唇が重なる。普通の皮膚より柔らかい感触に目を見開いた。
「落ち着いて。動物ですから」
「動物」
唇がまた重なった。なぜキスをしているのかはわからない。ただ重ねて、離して、重ねる。何度も、何度も繰り返される。
抗わなかったのは、重なった瞬間は怖さを忘れられたから。
重ねる内に、少しずつ深くなり唾液が触れ合い始めた。
耕平から迷いを感じられない。たどたどしくも唇を奪い続け、味わおうとするその態度が、晶の身体の中にぽっと火をつけた。
「耕平、もう、大丈……」
言葉を塞ぐように顔を傾けて唇が深く重なった。
頭がくらくらして、自分の中にわきおこった飢えに戸惑った。胸の先端は張り詰めて、両脚の間に熱が集まっていく。
耕平はゆっくりと自分を畳に仰向けにさせた。背中の畳の感触に逃げ場が無くなったと感じた。
身体を駆け抜ける、いい子じゃない自分への欲望。結婚相手も、学校も、職業も選べない自分の反抗。
外からの雷鳴や咆哮は気にならなくなっていた。耕平の肩に指を食い込ませる。続けて欲しいという意思表示だった。
「晶さん……」
耕平の手がシャツの裾から入り、ブラジャー越しの胸を包み込んだ。
「んっ」
晶が小さく喘ぐと耕平はブラジャーを押し上げて身を屈めると先端を口に含んだ。
耕平の舌の感触が、唾液のぬるつきが、知らなかった興奮を刺激した。胸を突き上げるように背中を弓なりにさせる。
自分の中の火が大きく燃え上がり、晶は恐怖と期待に身体を振るわせた。
耕平は大胆になっていき、くちゅくちゅと先端を舌で扱きながら、その手をスカートの中、太ももに這わせた。だが、その手は止まってしまう。
「耕平、やめないで」
「晶さん、俺、もう」
耕平の指が、脚の付け根、湿った下着越しに指が秘裂触れた。一瞬の戸惑いの後に下着の下に指が滑り込んでくる。
晶はさすがに本能的に身を捩ったが、熱を帯びた体は緩んでいた。試すように、ゆっくりと指が一本はいって来る。
僅かに冷たく感じたその指が、容易く飲み込んだ蜜洞の中を動く。中を確かめるように、晶の反応を確かめるような優しい動きだ。
「……痛く、無いですか」
「大丈夫……っ」
首筋を舐められて、言葉は喘ぎ声になった。
「晶さん……っ」
熱い息を吐きながら、耕平が指を動かす。
一本、二本、優しさとぎこちなさ。渇望と背徳感。
耕平がズボンの下をくつろげ、脚を持ち上げた。
親への反抗心だとわかっていた。耕平が何を思ったかは知らない。けれど、もう晶も止められなかった。
「俺、初めてだから」
「私だって……」
目が合った。耕平の目の中に欲よりも喜びが見えたのは、自分が見たかったからかもしれない。
貫かれた時、ひときわ大きな稲光が社に差し込み雷鳴が轟いた。
深く、さらに深く。最後には二人で横になってがむしゃらに与え合った。ストーブはお互いの裸を照らしていたが、恥ずかしくはなかった。
小さいときは一緒にお風呂にだって入っていたのだ。成長してお互い身体に変化が出ただけだと感じた。
晶は何度も昇って、弛緩する。耕平は、何度も晶の腹の上に白濁を吐き出した。
終わらなかった。体が粉々になる。それなのに輝く美しい世界がそこには広がっていたのだ。
セックスは痛いと、夏休み明けのクラスメイト数名が話していた。絶対に嘘だと、耕平と溶け合いながら思った。
***
屋敷の人がやってきたのは翌朝、明るくなってからだった。
朝に一度だけ与え合った後、身支度は整えていたからお互い普通に大人たちに接した。
社へ続く道に木が倒れ塞いでおり、暗い中で登って来ることができなかったらしい。
耕平と情熱と悦楽を与え合ったのは本当だったのかと思うくらい、二人ともすっきりと乾かした衣服に身を包んでいた。
社の中には非常用の毛布や衣類、防災グッズが揃えてあったのを知っていたのを、大人たちは知っている。耕平が淡々と大丈夫だったと答えた時は、誰も疑わなかった。
濡れたお互いの体液で汚れた服は、社務所にある洗濯機が洗い流してくれていた。情事の匂いなど、どこにもなかった。
夢で無いとわかるのは、じくじくと下半身のせいだ。
毛布にくるまれたまま、被害を確認する村の青年団を眺めていると、耕平が顔を覗き込んできた。
自分だけに聞こえる小さな声だった。
「……すみませんでした」
なぜ謝罪をされるのだろう。あんなに素敵だったのに。
耕平が続いて何かを言おうと口を開いたが、晶は首を横に振った。
目の前が真っ暗になっていた。謝られたことに、ナイフで切り付けられたように心が痛んでいた。
高校生になって都会に出たら付き合おうとか。そういうのを期待していたことに気づいて恥じ入る。
冷静になれば、これ耕平にとって過ちでしかない。
せっかく深山の当主に気に入られ、全面バックアップで都会に出ることができるのだ。
お互い未成年でセックスしたなんて大人にバレたら、深山の娘が騒ぎ立てたら、耕平の将来は終わる。
耕平の気の良い両親の顔が浮かんだ。彼の祖父母の顔も頭に浮かんだ。唇は勝手に動いていた。
甘い考えを持っていた。あまりにも素晴らしい体験で高揚し我を忘れていた。
ちゃんと自分が拒否しないといけなかったのだ。
「一緒にいてくれたありがとう。お陰で、怖くありませんでした」
周りの村人が聞き耳を立てているのがわかった。きっと何かあったと勘ぐる大人はいる。だから、深山のお姫様として完璧な回答をした。
「晶さん」
耕平がどんな顔をしていたかはわからない。心配しましたと泣くお手伝いのウメを宥めるために背を向けたせいだ。
それ以降、耕平と顔を合わせても、必要事項以外は喋らなくなった。
余計な望みも、何もかも捨てるには、それくらいの距離が必要だった。
「社の周りはそういうことは起こったことは無いって爺さん達から聞いてる。消防団と青年団は見回りを始めているはずだし」
「そう」
耕平の腕の中で小さく頷いたが、安堵には繋がらない。
「落ち着いてください」
まだ中学生にそんなことを言われる自分が悔しくなって晶が顔を上げると、頬を摘ままれた。
「表情、硬い。さっきまで俺を馬鹿にしてたくせに」
「うるひゃい」
晶も耕平の頬を摘まんだ。
昔はこういう遊びをしていた。どっちが我慢できるか、弟の潤も含めた三人で戦っていたのだ。頬が赤くなっても根を上げなかったのは、晶だった。
雷光が差し込み、電気が消えた。灯油ストーブが部屋を暗闇から救ってくれる。
お互い頬から手を離したのは、社の方から男とも女ともつかない咆哮なようなものが聞こえてきたからだ。
「……」
呼ぶような声に、ぞっとして晶は竦んだ。
村にはたくさんの不思議がある。わかっている。だけど、怖い。
パニックになりかけたところで、耕平の手が頬を包んだ。
「晶さん」
唇が重なる。普通の皮膚より柔らかい感触に目を見開いた。
「落ち着いて。動物ですから」
「動物」
唇がまた重なった。なぜキスをしているのかはわからない。ただ重ねて、離して、重ねる。何度も、何度も繰り返される。
抗わなかったのは、重なった瞬間は怖さを忘れられたから。
重ねる内に、少しずつ深くなり唾液が触れ合い始めた。
耕平から迷いを感じられない。たどたどしくも唇を奪い続け、味わおうとするその態度が、晶の身体の中にぽっと火をつけた。
「耕平、もう、大丈……」
言葉を塞ぐように顔を傾けて唇が深く重なった。
頭がくらくらして、自分の中にわきおこった飢えに戸惑った。胸の先端は張り詰めて、両脚の間に熱が集まっていく。
耕平はゆっくりと自分を畳に仰向けにさせた。背中の畳の感触に逃げ場が無くなったと感じた。
身体を駆け抜ける、いい子じゃない自分への欲望。結婚相手も、学校も、職業も選べない自分の反抗。
外からの雷鳴や咆哮は気にならなくなっていた。耕平の肩に指を食い込ませる。続けて欲しいという意思表示だった。
「晶さん……」
耕平の手がシャツの裾から入り、ブラジャー越しの胸を包み込んだ。
「んっ」
晶が小さく喘ぐと耕平はブラジャーを押し上げて身を屈めると先端を口に含んだ。
耕平の舌の感触が、唾液のぬるつきが、知らなかった興奮を刺激した。胸を突き上げるように背中を弓なりにさせる。
自分の中の火が大きく燃え上がり、晶は恐怖と期待に身体を振るわせた。
耕平は大胆になっていき、くちゅくちゅと先端を舌で扱きながら、その手をスカートの中、太ももに這わせた。だが、その手は止まってしまう。
「耕平、やめないで」
「晶さん、俺、もう」
耕平の指が、脚の付け根、湿った下着越しに指が秘裂触れた。一瞬の戸惑いの後に下着の下に指が滑り込んでくる。
晶はさすがに本能的に身を捩ったが、熱を帯びた体は緩んでいた。試すように、ゆっくりと指が一本はいって来る。
僅かに冷たく感じたその指が、容易く飲み込んだ蜜洞の中を動く。中を確かめるように、晶の反応を確かめるような優しい動きだ。
「……痛く、無いですか」
「大丈夫……っ」
首筋を舐められて、言葉は喘ぎ声になった。
「晶さん……っ」
熱い息を吐きながら、耕平が指を動かす。
一本、二本、優しさとぎこちなさ。渇望と背徳感。
耕平がズボンの下をくつろげ、脚を持ち上げた。
親への反抗心だとわかっていた。耕平が何を思ったかは知らない。けれど、もう晶も止められなかった。
「俺、初めてだから」
「私だって……」
目が合った。耕平の目の中に欲よりも喜びが見えたのは、自分が見たかったからかもしれない。
貫かれた時、ひときわ大きな稲光が社に差し込み雷鳴が轟いた。
深く、さらに深く。最後には二人で横になってがむしゃらに与え合った。ストーブはお互いの裸を照らしていたが、恥ずかしくはなかった。
小さいときは一緒にお風呂にだって入っていたのだ。成長してお互い身体に変化が出ただけだと感じた。
晶は何度も昇って、弛緩する。耕平は、何度も晶の腹の上に白濁を吐き出した。
終わらなかった。体が粉々になる。それなのに輝く美しい世界がそこには広がっていたのだ。
セックスは痛いと、夏休み明けのクラスメイト数名が話していた。絶対に嘘だと、耕平と溶け合いながら思った。
***
屋敷の人がやってきたのは翌朝、明るくなってからだった。
朝に一度だけ与え合った後、身支度は整えていたからお互い普通に大人たちに接した。
社へ続く道に木が倒れ塞いでおり、暗い中で登って来ることができなかったらしい。
耕平と情熱と悦楽を与え合ったのは本当だったのかと思うくらい、二人ともすっきりと乾かした衣服に身を包んでいた。
社の中には非常用の毛布や衣類、防災グッズが揃えてあったのを知っていたのを、大人たちは知っている。耕平が淡々と大丈夫だったと答えた時は、誰も疑わなかった。
濡れたお互いの体液で汚れた服は、社務所にある洗濯機が洗い流してくれていた。情事の匂いなど、どこにもなかった。
夢で無いとわかるのは、じくじくと下半身のせいだ。
毛布にくるまれたまま、被害を確認する村の青年団を眺めていると、耕平が顔を覗き込んできた。
自分だけに聞こえる小さな声だった。
「……すみませんでした」
なぜ謝罪をされるのだろう。あんなに素敵だったのに。
耕平が続いて何かを言おうと口を開いたが、晶は首を横に振った。
目の前が真っ暗になっていた。謝られたことに、ナイフで切り付けられたように心が痛んでいた。
高校生になって都会に出たら付き合おうとか。そういうのを期待していたことに気づいて恥じ入る。
冷静になれば、これ耕平にとって過ちでしかない。
せっかく深山の当主に気に入られ、全面バックアップで都会に出ることができるのだ。
お互い未成年でセックスしたなんて大人にバレたら、深山の娘が騒ぎ立てたら、耕平の将来は終わる。
耕平の気の良い両親の顔が浮かんだ。彼の祖父母の顔も頭に浮かんだ。唇は勝手に動いていた。
甘い考えを持っていた。あまりにも素晴らしい体験で高揚し我を忘れていた。
ちゃんと自分が拒否しないといけなかったのだ。
「一緒にいてくれたありがとう。お陰で、怖くありませんでした」
周りの村人が聞き耳を立てているのがわかった。きっと何かあったと勘ぐる大人はいる。だから、深山のお姫様として完璧な回答をした。
「晶さん」
耕平がどんな顔をしていたかはわからない。心配しましたと泣くお手伝いのウメを宥めるために背を向けたせいだ。
それ以降、耕平と顔を合わせても、必要事項以外は喋らなくなった。
余計な望みも、何もかも捨てるには、それくらいの距離が必要だった。
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