姫君殺しの騎士様

淡雪 理依奈

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こくがいついほう

それはいつもと少し違う朝

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その日は、確かカーテンが空いていて昨日より陽が入って早く目覚めた。

その日は、いつも起こしに来る姫が来なかった。

コーヒーの匂いもあまりしない気がした。

ワイシャツのシワが多い気もした。

全部、小さな小さな事。

重なってみて今日は厄日か?
なんて冗談めいて自分で笑って見せた。
そんな小さなズレ。

制服に着替えて、外に出て…姫の部屋に行く間も。

いつも、俺に擦り寄ってくる猫が俺の服の裾を噛み付いてきたこと。

いつも、こっそりと階段裏でサボる給仕が慌ただしく仕事に追われていたこと。

少しが、少しずつ大きくなってきて妙な異物感のような感覚に襲われながら。

まぁ、姫に土産話に話してやろう。
きっと、あのお姫様は笑いながら聞いてくれるはずだ。

頭の中や、心の違和感はそれで吹っ飛び彼女の笑顔が浮かんで胸が暖かいような感覚。

気づくための鍵は転がっていたはずなのに。

姫が、俺より遅く起きることなんて今まで一度もなかったのに。

コーヒーの匂いがしなかったのはもっと強い匂いで鼻が鈍ったからではないか。

いつも、シャツを仕立ててくれる姫がシャツを仕立てることが出来なかったら?

猫が噛み付いたのは必死に俺に異変を伝えようとしたのでないか?

給仕にさえも休む暇もない仕事が与えられていたとしたら?

問いかけと、事実が頭に浮かんでドアを開けてむせかえるような匂い。

答えを、本当は頭の中で理解していたのかもしれない。

この匂い、鉄の匂い。
口を切った時の溢れるような味。
と言うより、戦場をかけて敵の首をとったときのような。

溢れる血の匂い。

そして、ベットに横たわり顔も綺麗に青ざめた彼女。

いつも、綺麗に手入れしていた髪にも血はまとわりつき肌も服も血化粧された様になっている。

剣が胸に刺さっていてベットにまで深く刺さっていて。
頭の中では、現状を理解しようと動くが体は動かない。

体は固まった様に動かない。

姫が死んだ…。のか?どうすればいいのだろうか。

脈を図って…、その後処置が出来るなら処置して…
頭が指示を送るように考えているのになんで動けないんだよ。

頭がおかしくなっていく、こんな状況で追い詰められて動けない体が可笑しいのか。

こんな状況で、正常に頭が働くほうが可笑しいのか。

混ざって、混ざって、ぐちゃぐちゃで分からなくなっていく。

「姫?姫…」

『ねぇ、二人のだけの秘密よ…』

『もしも、辛くてどうしょうもない時はね。』

「どうしようも無い時…は。」

頭の中で昔姫が話してくれた魔法を思い出す。

『下を向いて…』

『深呼吸をたくさんして。』

『すぐ立って首をぎゅっと』

言葉が頭に浮かんで、体はそれにゆっくりとしたがっていく。

頭は、ゆっくりと思考停止して体も動くのをやめるように倒れていく。


僕は、眠る。意識のない倒れ込むような眠り。

寝て、起きる景色で僕は何を見るのだろうか。

そんな事を考えながらゆったりと床に身を任せて瞼が落ちる。
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