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偽聖女と、新たなダンジョン

見習い冒険者?

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あれから幾日が経っただろうか。
 俺達はいつもの通り穏やかな日常をすごしていた。

 だがそれでも、ただただのんびりしていたわけではない。

 黒人形を使って新しい階層を探索し、構造の把握や人間の痕跡を探すのは勿論のこと、宝箱を久しぶりに見るべく探したりをしていたのだ。
 リリスとシロは、新しい階層には果実どころか草木も実っていないため、ほとんど興味を示さず付いてこなかったが、アンスは度々付いてきていた。
 けれども、余り長く離れると料理が食べられないのでリリスとシロに反対され呼び戻されていしまい、大半は黒人形一人での活動になっていた。

 ちなみにだがこの階層の魔物は森以上にゴブリンがメインとなっており、目新しい物はなかったりする。それに宝箱も見つけることはできなかったので結構退屈であったことは言うまでもない。


 そんなある日である。
 いつものように俺は黒人形を出しダンジョンを探索していた。

(あー、本当にゴブリンしかいないな。やっぱり入り口に近い階層だからか、難易度も下がってるのかな?)

 ここは道が入り組んでいるため、木が生茂っていた森以上に視界が悪い。そのためゴブリン達は森以上に俺に気づくことはなく、曲がり角でばったりと遭遇することが増えたのだ。

 そのため、ゴブリンを倒すのはもう手慣れた物。
 出会い頭で即座に魔粒子を流し込み一撃だ。
 ゴブリン達は声すらあげることなく、呆気なく死んでいく。
 当初は集めていた魔石も、ずっと同じ魔石はもう要らないか、となり集めていなかった。

(いい加減ゴブリン以外も見たいんだけどなぁ――――ん?)

 そんな見飽きた光景に飽き飽きしていた時である。
 どこからか、人の足音や話し声が聞こえた気がしたのだ。
 それは最近、余り寄っていなかった入り口の方から聞こえた気がしたのだ。

 別にそれがどんな相手で、直ぐに契約するために連れ帰ろうなどといったことは無い。
 それでも、待望の人間であるだろうので俺はその音の方へと直ぐに向かった。

◆◇◆


(思ってたのと違ったけど、確かにいたな)

 急いで向かった俺の目の前には、やはり人間がいた。
 これがあの時見た足跡の主かどうか分からないが、それでもやはりやって来ていたのだ。

 それらは3人の少年、少女だった。
 何かの皮で出来た装備を身に纏い、2人の少年は剣を、少女は錫杖のような杖を持っている。一見すると駆け出しの冒険者のような見た目だ。
 だがしかし、それはもはや装備としての役割を果たしているか分からない程に酷くボロボロであった。
 この場所を確認し、再びここに戻ってきてるのだからもう少しベテランで歴戦の冒険者のような人が来ると思っていたので若干拍子抜けだ。

 俺はそれは天井に引っ付きながら観察している。
 エルフですら気が付かなかったんだ。
 当然このような子供には見つけられる筈も無く、彼らはゆっくりと足取りで慎重に歩いているのをじっくりと観察する。

(あのエルフ達と違って隙だらけだな)

 俺は彼らの会話を取り敢えず聞いてみることにした。

「うっ、、、駄目だよ、やっぱり引き返そうよ…」
「何故です? これは院長先生の、そして神父様からの私たちに課された試練なのですよ? これを超えることで、ルークとアレクの私たちは神に認められ力を授けられるのです。」
「で、でも……」
「おいおい、ルーク、あんまりびびるなよ!俺が魔物を倒してやる!心配するな!」
「……うぅ、わかったよ」
「では行きますよ!」

 そんな会話をしていた。
 話の流れ的にどうやら彼らは見つけた本人ではないらしい。
 院長はまだしも神父に言われてだとかなら宗教関係か?
 なんだか面倒臭そうな香りがぷんぷんする。

 取り敢えずは特にちょっかいなどもかけず、このまま彼らの事を観察することに決めた。

 契約をするにしても、アンスの時のように戦闘力や何かしらの魅力がなければ……
 敢えてこの子供達にこだわる必要は無いのだから。

「よし、行くぞ!俺についてこい!」
「はい!」「わ、わかったよ、気をつけてよね。」

 そんな掛け声と共に、アレクと呼ばれた少年を先頭に彼らはどんどんダンジョンの中へと入っていく。
 それに他の2人がついていく様を、俺はじっと見ているのだった。


◇◆◇

(なんでこんな自信満々だったんだ…、弱すぎるでしょ…)

 彼らは直ぐに魔物と相対し、必死に戦っていた。
 まさにお互いが全力と言った有様だ。

 このような戦闘が起こり始めたのはつい先程からだ。
 事態は少しだけ遡る


 彼らは最初、正に怖い物知らずと言ったように、魔物を警戒することなくずんずんと進んでいっていたのだ。
 そのため、こんなにも近くにいた魔物の存在などには当然気が付くことも出来ず、曲がり角でばったりと遭遇した。

 ゴブリンは2体と少なかったが、それでも彼らにとっては充分以上に脅威であるようだ。

「ひっ!? ゴ、ゴブリンだ!!」
「だ、大丈夫だ! 俺が倒してやるんだ!」

 最初に言っていたことを、有言実行とばかりにアレクが勇み声を挙げ剣を構える。
 ルークもそれに倣い剣に手を掛けた。
 だがそれでも手は震え後ずさりし、とてもじゃないが戦える様子では無い。

(ゴブリン程度でこの反応って……。ダンジョンに向いてないにも程があるでしょ)

 そんな事を思いながらも、当然俺は手助けなどする訳も無くそのまま様子を見続ける。

「「ぐぎゃぎゃぎゃ!!」」

 ゴブリン達も彼らが余りに弱そうだとでも思ったのか、馬鹿にしたように笑っている。

「大丈夫です、私達には神のご加護がありますから!!」
「うああああああ」

 そんな状況で、胸前で杖を握りしめながら少年達から一歩引いた位置にいた少女がそう言う。
 それに奮起してか、アレクは大声を出しゴブリンに突っ込んでいく。

「ぐぎゃぎゃや」

 ゴブリンも流石に笑うのを止め武器を構えた。
 だが相変わらず馬鹿にした表情はは隠そうとしておらず、取り敢えず構えたといった様子で一切アレクを脅威に感じていない。

「しねぇぇ!!」

 だが少年はそのようなゴブリンの態度に気が付くこともなく、そう叫び走りながら剣をゴブリン達へと振り下ろした。

――――――ブンッ
「ぐっ、なんだって!?」

 だがそれは直撃することなく空を切った。
 勢いこそ一見あったものの、実際はその剣を振る速度はあまりに遅く、後ろに引くことでゴブリン達は余裕を持って躱したのだ。

 呆気なく躱されたことに驚き声をあげてしまったアレクだが、両手を使って力一杯振りかぶったため、その勢いのまま体勢を崩し転げてしまった。
 
「ぐぎゃぎゃ!」「ぎゃぎゃぎゃ!!」

 目の前で転げる相手だ。いかに知能の低いゴブリンであろうと見逃すはずがない。アレクに向けて一斉に襲いかかろうとする。

「く、くるなぁー!」

 腰が抜けたようにして地面に座りながら、アレクは剣をゴブリンに向けている。だがアレクは明らかに冷静ではなく半ば狂乱状態でゴブリンにやられるのは秒読みだと思われた。

「あ、、あ、危ない!!」
「ぎゃっ!?」

 咄嗟に怯えていたはずのルークが、剣を振りながら倒れる少年とゴブリンの間に飛び込んでいったのだ。
 ゴブリン達は後ろで震えていた少年がまさか自分達の前に出てくるとは思わなかったのか、驚き一瞬足が止まったものの、すぐに大したことないと再び向かっていく。

 だが少年達にとっては幸運なことが起きた。

「――――――――ギャ!」
(おー、運いいなぁ)

 使い慣れてないのか不規則で乱暴に振り回された剣は、前にいた一匹のゴブリンの腕に当たったのだ。
 切れ味は良くなく、腕力もたいしてない。それにその剣の振るう速度も酷く鈍いため、腕を切り落とすなどと言った致命傷は与えられない。
 それでもゴブリンの腕を傷つけ血を噴き出さし、手に持つ武器を落とさせることは出来たのだ。

 見るからに弱そうで、そして馬鹿にしていた相手に傷を付けられたことで、ゴブリンは怯み足を止め、未だ振り回し続けられている剣を警戒しだだす。

 この間に少年は立ち上がり体勢を立て直している。
 だが初めての戦闘だったのか、アレク、ルーク共に顔を青くしていた。

(うーん、こいつらはもういいかな。このダンジョンは森の中にあったってアンスは言っていたし、こいつらのこの程度の実力でここまで来れるなら、他にもう少しまともな奴らが来てるかも知れない。それならそっちを探した方が良いかもな)

 彼らの戦いはほんの始まったばっかりだが、それでもこのゴブリン程度の存在に彼らが勝てる未来が見えない。

(あー、もうやられそうだし、なんで戦闘経験も無く年端もいかない彼らをダンジョン探索にいかせたのだろうか? 数ある内の1つか?)

 そんなことを考えてる間にも、戦闘は再開していた。
 先程よりも慎重になっているのか今度は何も考えずに突っ込むことなく、不格好ながら剣を構えてゴブリンの動きを待っている。ゴブリンも先程より彼らを警戒し、醜い金切り声をあげながらじりじりと距離を詰めている。

 そうしてゴブリンは再び襲いかかったのだ。

 だがゴブリンの動きも単調であるので、アレクは振り下ろされる棍棒を剣の腹で受け止める。だがその勢いは受け止めることが出来ず後ろに吹き飛ばされてしまっていた。

(よし、なんだかんだ見てたけど、もうそろそろ移動するか)

 何度か不格好ながらに振り回す剣と棍棒をぶつけ合い、かろうじて戦闘といえる行為を繰り返していた。戦況は圧倒的にゴブリン優勢であり、気が付けばアレクだけでなくルークもボロボロになっている。
 そんな状況が変わることはないので、流石にもう良いかと、俺は今度こそこの場を後にしようとした。

 その時だ。
 後方で一人待機し、戦闘に参加していなかった、なんだか存在を忘れかけていた少女の突然魔力が噴き出してきたのだ。

(っ、なんだ!?)

 俺は帰りかけていた動きを止めた。
 再び天井に息を潜め、少女の突然の変化を俺は最後に見る。

「っ!! 準備が出来ました。【神聖なる我が神よ、祝福を賜り、我らに加護を与え給え。】”ブレッシング”」

 そのまま少女は杖を握りしめ、詠唱のような呪文を唱えたのだ。
 その瞬間、杖から出た淡い光が、目の前で戦っていた二人だけをピンポイントで包み込んだ。 

「はぁ、はぁ、、よし!! これならいけるぞ!! 力が湧いてくる!」
「い、いやぁぁああああ」

 するとどうだ、二人の動きが見違えるように良くなったではないか。
 先程までは完全に力負けしていた二人だったが、淡い光を纏いながら振るった剣は、今では立場は逆転しゴブリンを吹き飛ばすほどになっていた。
 これはもはやバフなどと言ったレベルではなく、完全別人のようにしてしまっている。

(な、魔法か?)

 俺は直ぐにこの状況を作り出した少女の方を見る。

「よ、良かったです……。これこそ、神の思し召し、で、す。」

 少女はアレクとルークの戦い振りを見て満足したように呟き、ふらつき、そのまま壁へともたれ掛かっていた。額からは大粒の汗を流し息も絶え絶えで酷く消耗している。

(この消耗の大きさといい、それにあの詠唱。 一体何の魔法なんだ、これは?)

 彼らに興味が完全に失せかけていたのだが、この状況に少しだけ興味が湧いてきた。……いや、少年二人は相変わらずどうでも良いのだが。

 そんなことを考えてる間にも、ゴブリンと彼らの戦いは佳境を迎えていた。

「うおおおおお、くたばれええ!」
「ぐぎゃぎゃっ――――――ぐぎゃ」

 アレクが目の前の相対するゴブリンを蹴り飛ばした。その力も先程とは比べものにならないほど強く、疲労状態であったゴブリンは棍棒を手放し転がった。その隙を逃さないよう、アレクは一直線に向かって剣で何度も突き刺したのだ。

 ルークの方はもっと簡単だ。腕を傷つけられたことで、ゴブリンは動きが鈍くなっていた。そのような鈍い動きの隙を付くことができ、ルークの振り回す剣がぱっくりと、その負傷していたしていた腕を切断したのだ。
 この痛みで悶絶するゴブリンに対し、ルークは急いでとどめを刺した。

 結果的、あんなに苦労していたのはなんだったのかと思える程、少女の魔法を受けてからは一瞬で片が付いたのだった。
 だがそれでも、少女の魔法を受ける前にはゴブリンから攻撃を受けていたため、アレクとルーク共にボロボロ。
 そして少女も疲れ果て満身創痍だ。

「はぁ、はぁ、やったぞ。俺達はゴブリンを、魔物を倒したんだ。よっしゃあ!」
「はぁ、はぁ。……取り敢えず魔石をとって休憩しようよ」
「ああ、そうだな!」

 そうしてゴブリンを倒した彼らは喜んだ後、ゴブリンの死骸の胸を切り開き、小さな魔石を取り出してその成果に嬉しそうにする。
 そのまま疲れ果てた少女の元に行き休憩をするのだった。
 
(もう少しだけ見てみるか。この少女となら契約しても良いかも知れないな)
 
 別にこれからも手助けをするつもりはないが、このままダンジョンを探索するつもりなら、もう少し見てみようと思うのだった。


 
 
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