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第二百話 ゼオラの本というもの

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 ゼオラ・ハイマイン。
 確か声の大きい町の警護団であるギリアムさんが、もしかしたらゼオラはそうではないか? という話をしていたことがある。
 本人は記憶にないと言っていたけど、どうやら本当かもしれない書物が出てきた。

「ゼオラ、ちょっといいかい?」
【うひゃひゃ、この論文を書いた奴は頭がおかしいな】
「ゼオラー!?」
【お? どうしたウルカ?】

 僕達の驚きをよそにゼオラはなにかの本を読んで爆笑していた。とりあえず真偽を確かめるため呼びつけた。

「これ、この本なんだけど著者がゼオラ・ハイマインになっているんだ。書いた覚えある?」
【んあ? また古い本だな……あたしの名前……!?】
「だからそう言ってる」
「大丈夫かあ……?」

 炭酸の抜けたコーラみたいな顔をしたゼオラが驚愕し、ステラが素早いツッコミを入れた。フォルドの心配もわかる。
 そんな中、ゼオラは僕から本を受け取り、ページをめくっていく。神妙な顔をしていた彼女がふと目をカッと見開いた。

【これは……!】
「おお……!」
【覚えがあるようなないような……】
「なんだよ!?」

 するとなんとも曖昧な話が返って来た。ただ、とあるページを開いた状態で僕達に見せながら言う。

「……全然読めないんだけど」
「ミミズが書かれているのー?」
【いや、この部分は古代文字で書かれているんだよ。先生はこれが読めるか?】
「先生、ゼオラ師匠がこのページ読めるか聞いている」
「え? ええー……?」

 ステラが先生にそう言うと、本に目を向けた。だけどすぐに首を振って肩をすくめる。

「分からないわ。かなり古い本だし、ここだけ旧時代の文字なのもよくわからないし……」
「読めないみたいだね」
【だな。でも……あたしは読める】
「え?」

 ゼオラが神妙な顔でそう口にすると、書かれている内容を読み始める。

【『人に仇なす邪神は倒されず、身体を四つに分けて逃亡した。我等はそれを追い封印することに成功。だが、滅するまではいかなかったため、いつか封印が解けることだろう。そのいつかに備えて術を施すことにした。邪神討伐ができる四人は朽ちてなお邪神の分体を監視するために』】
「これは……ゼオラのこと?」
【恐らくな。そのあたりの記憶は曖昧だが、この記述で思い出したことがある】
「ほんとうー?」
【ああ。あたしは四人で旅をしていた。それこそこの邪神を倒すためだろう】

 おお……!
 ついにゼオラの記憶が蘇った? 今までそれっぽいことを言っていただけでただのゴーストとあんまり変わらなかったし、少しでも謎が解けるといいんだけど。

「それで?」
【え? 邪神を倒す旅をしていたんだけど……】
「いやいや、仲間の名前とか性別とかあるだろ!? 分身みたいなやつをどこに封印したのかとか!?」
【ああ、そういうのか。その辺はダメだった。記憶を探ろうとしても靄がかかったみたいになって顔とか出てこないんだわ】

 フォルドのツッコミに対して、うへへと笑いながら頭をかくゼオラ。書いてあることが本当であればゼオラは20歳くらいで邪神と戦い、その監視を担ったわけだ。
 ん……? 待てよ。

「ゼオラ……もしかしてその邪神の分身って僕が襲われたあの蛇なんじゃ……?」
【……あ!?】
「なにそれ?」
「蛇に襲われたのー?」

 ステラとアニーが首を傾げたところでゼオラが小さく頷いていた。頬と額には微かに汗が浮き出ている。

【そ、そうだ……なんで忘れていたんだろう。邪神グリエールの分身の一体があいつだ】
「やっぱり……」

 どうやらそこは思い出したらしい。するとゼオラは浮いたままあぐらをかき、腕を組んで目を瞑った。

【……ふうむ】
「どしたのーししょー?」
【いや、それを思い出したのは良かったのか悪かったのか……ってな。あいつは確かに倒した。だが、残りは3体いるってことになる。封印がひとつ解けるとなし崩しに次から次へと……ということも考えられるだろ?】

 ゼオラが片目を開けて人差し指を立てるとアニーの言葉に対してそんなことを言う。そこでステラが小さく頷いて口を開く。

「確かに。その蛇はウルカ君が復活させたのかもしれないけど、もしかしたら封印そのものが弱かった可能性もある」
【ああ、ステラの意見も考慮するべきだ】

 なるほど、あれは僕が触ってああなったけど実は封印が弱まっていた可能性もあるのか。

「邪神……マジかよ」

 フォルドが冷や汗をかきながらごくりと喉を鳴らす。確かに邪神と聞けば恐ろしいことこの上ないし、僕も襲われたからわかる。

 だけど――

「まあ、どこに封印があるかわからないし近づかなかったら大丈夫じゃない?」
【それもそうだな】
「確かに」

 僕の言葉でゼオラが真剣な顔で頷き、フォルドが間違いないと言う。
 五年前の蛇は不可抗力だけど、そうそう邪神の居るところに足を踏み込むことはないと思う。

「どこに居るか知っている?」
【いやあ覚えてねえな】
「ししょー忘れてるの」
【しょうがねえだろ、なんせ500年前の話だからな!】
「きゃー♪」

 アニーが煽るような笑みをしてゼオラを指さすと、ゼオラがアニーを抱っこしてくるくると回り出した。
 
「まあ、なんか物騒な話だったけどゼオラが古代文字を読めるのと書いていたのが発見だったね」
「そうね。この本、持って帰りたいんじゃない?」
【いや、ここにあればまた読めるだろ? いいさ】
「ちなみに先生、この本いくらだった?」

 ステラが先生に聞いてみると、呆然としていた先生がハッとして目をパチパチさせた。

「ハッ!? 邪神とか物騒な!? え、えっと、本? 値段? 確か金貨六十枚だったかしら……? 古くて貴重な本だから高かったって学長が言ってたわね」

 六十枚か。それくらいなら買えそうだなあ。
 それにしてもゼオラが本を書いていたのか……邪神を封印した一人というのも驚きだ。
 封印した後に書いた本ならその後、どうして幽霊になったのか……? しかも若いし。

【あははは!】
「ひゃあー!」

 まあいいか。
 ゼオラは幽霊だし、僕達も邪神を倒すとかそういう話はないだろうからね。

 そんなことを考えながら、残りの作業を終える僕達だった――
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