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最終部:タワー・オブ・バベル

その231 足音

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 <バベルの塔:二十階>

 「すまないがここまでだ。後は自分たちで救援を呼んでくれ」

 『分かったわ』

 騎士達が皆を降ろし、床へ寝かせているとフレーレが騎士二人に声をかけていた。

 「……ありがとう、ございます……でも、今度は負けませんから……!」

 きょとんとなる騎士二人が、その言葉を飲み込むとフッと笑いながらフレーレに答える。

 「心は折れていないようで安心した。しかし我が王も、そちらの魔王殿もかなりの実力者。そう簡単には階段を譲ってはくれまい」

 「君に一つ。どうやら君は聖と魔両方の気を使えるし、簡単な攻撃魔法も使える。さらに回復魔法も完璧だ。だけど、仲間を守る魔法って無いのかい? 魔王の娘さんが補助魔法を使えるからと見向きもしないって感じがする。君だけじゃなく一度、全員の戦い方を見直してみてはどうだろう?」

 それだけ言うと、騎士達は階段を登り戻って行った。

 『気持ちは分かるけど、今のままだとまた返り討ちに合うわ。とりあえず下に援護を呼びに行きましょう』

 「……はい」

 アルモニアに促され、ひとまず十九階へと向かい、居合わせたイリスに事情を説明すると快く拠点まで運んでくれた。ざわざわとする拠点にディクラインやチェイシャ達が何事かと現れ、惨状を目にして愕然としていた。

 「アイディールは治ったというのに、何てことだ……俺も行くべきだった……」

 「次は連れて来れるだけ連れてくるように言ってました。カイムさんやアイディールさん、セイラも回復を待った方がいいと……思います」

 「分かった。とりあえず今はみんなを休ませよう」

 女性陣は小屋へ。レイドとカームも急増した小屋へと運ばれ安静となり、その日は目を覚ますことが無かった。次の日の朝、示し合わせたかのようにルーナ達は目を覚まし、小屋の一つを使って集まる事にした。ビューリックからはエリックとイリスが。サンドクラッドからはモルトとミトも話し合いに参加することになった。


 ◆ ◇ ◆

 
 「――ということを言われました」

 翌日、目を覚ました私達はすぐに会議。そこでフレーレが騎士達に言われた事を、集まっている全員に話すと、全員気落ちした状態になってしまった。当然私も。
 特に意気揚々と参戦したウェンディと、久しぶりに戦闘になったのに負けてしまったカルエラートさんが悔しそうに俯いていた。
 そこにアルモニアさんからの追い打ちがかかる。
 
 『観覧席であのよく分からない忍びや牛男に聞いたけど、ヴァイゼはアネモネが消滅してしまった事が腑に落ちないってぼやいていたそうよ。キチンと対処すれば、キルヤなどディクライン一人でも倒せる相手のはずだった、どうしてあそこまでさせる必要があったのか、ってね。気が緩んでいると思われたんじゃないのかしら?』

 「う……」

 「もっともと言えばその通りか……」

 「で、でも私がやられたせいで……」

 「わたしも攫われてなければ……」

 カイムさんが呻き、薬ですっかり良くなったママとフレーレが擁護しようとするが、パパはそれを制して首を振った。

 「ありがとう。でも、それならそれで早く倒すべきだったんだ。どこかで力を温存しようとしていたんだろう……そこが気に入らないんだ多分」

 『であれば、最初から全力。戻って回復をして次へ、というのを徹底した方がいいかもしれないね。先にいるボスが寛大なヤツがいると考えない方がいいし、負けても別の人間で再戦は可能だろうけど最初に入った六人はイコール死亡ということになるしね』

 「となると、僕も行こうかなー。拠点はイリスが居れば団はまとまるだろうし、最悪アンジェリアを呼ぼうー」

 「おじい、私も行っていい?」

 「言うと思った。でもお前はダメだ、俺が行く」

 エリックとモルトさんが次は行くと言いだした。それでも拠点を疎かには出来ないので、モルトさんにはソキウスとチェーリカと共に残ってもらう事になる。

 <わらわは次から行くぞ。バス、お主も来い。代わりにリリーは残るのじゃ>

 <私は構わないにゃ。リリーは元々戦闘向きじゃにゃいし、いいと思うにゃ>

 拠点に居残り組も居ないといざこざがあった時に困るということで、クラウスさんやシルキーさん、ソキウスにチェーリカ達はそのまま残留となった。


 「しかし数がたくさんいても六人までしか入れない、というのは思いの外厄介だな。軍を率いても、意味が無い」

 「そこが狙いなんだろう。六人ずつなら確実に殺せると考えての制限だ。特に演説を堂々としているんだから国が軍を動かすのは目に見えているしな」

 レイドさんとパパが話していると、エリックが横からその会話に着いて話し始めた。

 「もしかして、なんだけどー。軍を動かすのは別の意図があったんじゃないかなー? ほら、人が集まるとくだらない喧嘩や国が違うとかで揉めるでしょ? お二人の会話で。もしかしてそういうのも狙ってるんじゃないかと思ったねー」

 「エリックがそれっぽいことを……」

 「酷いねルーナちゃんー? 僕はいつも賢く生きているつもりだよー?」

 「隊長は性格が悪いですからな……」

 ウェンディにジト目で見られ、肩を竦めるエリック。そこにブラウンさんが慌てて小屋に入って来た。

 「リ、リーダー!? ま、また騎士団が……!」

 「んだと? どこの国だ?」

 「サンドクラッドかのう?」

 「時期的に、そろそろ蒼希からも援軍が来るはずですけど……」

 ブラウンさんの言葉にモルトとカイムさんが口を揃えて言う。だが、そのどちらでも無かった。

 「……ヴィオーラ国です」

 するとカルエラートさんの顔色が変わり、ぼそりと呟いた。

 「……あの国王が軍を出したのか? まさか……」

 <……>

 「もうすぐ近くまで来ています、と、とにかく外へ」

 

 ブラウンさんに促されて外へと急ぐ私達。神裂を倒す味方が増えるなら歓迎だよね、とこの時は思っていたけど、実際に遭遇してカルエラートさんの顔色が変わった理由が分かった。
 
 ちなみにどうしてブラウンさんが軍が来ているのが分かったかというと、いつの間にか物見やぐらを作っていたからである。人が増えてきて、なおかつビューリックの騎士は壁の外に居ることも多いので、魔物の接近などを知らせるために作ったそうだけど、今回はそれが役に立った。
 
 それはさておき、入り口を出て数十分ほど歩くと、前から騎馬がずらりと綺麗に並んで向かってくるのが見えた。私達の所まで来ると、全体が止まり、先頭の騎士が馬上から叫んできた。

 「我等はヴィオーラの聖騎士団である! 我が王の進行を阻むとは、貴公等死にたいのか!」

 「うわ、威圧的……」

 「ルーナ達は下がってろ。この先には塔の制覇を目指す者達が協力して作った拠点がある。念のためそれを伝えに来た」

 パパが騎士に向かってそう言うと、鼻をならして私達を見まわした。

 「なるほど。みればビューリックやサンドクラッドの者も居るようだ……ゴミ国同士が集まって何ができるというのか」

 「お初ーってとこかな?」

 「おじい、あいつ嫌い」

 エリックが適当に手を上げて後ろへ下がるって行った。
 私がいちいち腹の立つ言い方をする男だと思っていると、後ろから豪華な鎧を着た人が威圧的な男に話しかけてくる。

 「良い、平民にいちいち腹を立てていても仕方が無かろう? ……ん? お前は……」

 「ストゥル王。ですが……」

 下卑た目で見てくる豪奢な鎧を着た太った男がどうやら王!? 貴族以外は人として認めません! みたいな雰囲気を醸し出している。敵だけど、黄金の騎士の方が理知的だったわね。
 
 そして、カルエラートさんを見て王とやらが口を開く。

 「貴様、カルエラートか? 勇者を追いかけると国を出て行った愚か者がこんなところにいるとはな……! おい、貴様の婚約者がこんな泥臭い娘に成り下がっているぞ! はっはっは!」

 「……久しぶりだな。その男のどれかが勇者とやらか?」

 「その物言い、相変わらずだなホイット。私が国から出た後結婚できたのか? それとも、言い寄っていた娘に逃げられたか?」

 「くっ……減らず口を……この汚らしい売女が……」

 「貴様と一緒にするな。私は処女だぞ!」

 ぶー! っと、あちこちから噴き出す音が聞こえる。モルトさんはミトの耳を素早く塞いでいた。カルエラートさん、そういうのは言わなくていいから……。

 「ふん、どうだか……王、迂回しましょう。汚らわしい者達を相手にする必要もありますまい」

 「そうだな。何やら頑張っているようだが、我々がカンザキとかいう者を倒すのをゆっくり待つがいい」

 私達は道をあけ、移動する騎士達を見送ろうとした。その時、ストゥル王がレイドさんを見て立ちどまった。

 「? なんでしょうか、ヴィオーラの王?」

 珍しく不機嫌な様子でレイドさんが睨み返すと、ストゥルは目を大きく見開いてレイドさんへと叫んだ。

 「貴様……! ま、まさかアーティファの子ではあるまいな……!」

 「ん? 亡くなった母の名を何故あなたが知っているんだ……ですか?」

 「やはり! 聖女だと騒がれていたので私が結婚してやろうと思っていたのに国から逃げ出した愚かな女だ! 呪いの矢が当たっていたと聞いていたが子を産んでいたとは……」

 「な……!?」

 「え!? レイドさんのお母さんって聖女だったの!?」

 「い、いや、俺も初耳だ……セイラも多分知らない、村長さんはそんな事言っていなかった……! そ、それよりも貴様が父さんと母さんを……!」

 急な話にレイドさんが慌てる。とりあえず、分かったのはこの王がレイドさんのお母さんの死に関わっていた、ということだ。

 「セイラ……? 貴様もしかして妹が居るのか? それはいい……」

 ストゥルがニヤリと笑い、言葉を続ける。

 「妹を差し出せ。そうすれば母親が私から逃げた罪は許してやろう、男のお前がそれなりの顔立ちなら妹も悪い顔ではあるまい? さ、どこにいる?」

 ギリっと歯ぎしりをしながらレイドさんは言い放つ。

 「……ここには居ない。遠くの村で暮らさせている……」

 「ほう、そうか。ならば……拠点とやらを探しても問題ないな?」

 「……!」

 「チラリと拠点を見たな? 私に嘘をつくなら堂々としていることをオススメする。騎士達に告ぐ! あの汚らしい村もどきを蹂躙してセイラという娘を探せ! 抵抗する者は殺しても構わん!」

 何言いだすの!? 塔を登りに来たんじゃなかったの! そこにパパが憤慨しながストゥルへと叫んだ。

 「馬鹿な!? 今はそれどころじゃないだろうが! それに塔を目指すなら味方だぞこっちは!?」

 「うるさい! 行け!」

 「くそ、戻るぞ!」

 「待って! ≪フェンリル・アクセラレータ≫!」

 私は全員にとりあえず足の速さを補助し、拠点を目指す。相手は馬、拠点に戻るのがほぼ同じか……そう思っていると、突然先頭を走っていた騎士達が何人か落馬した。

 「今の内に早く! すぐに態勢を立て直せないだろうから、拠点で待ち構えるよー!」

 見ると、エリックが木にロープを引っかけて、それを罠代わりに使ったようだ。それを見て一目散に拠点へと足を運ぶのだった。

 あーんもう! こんなことしてる場合じゃないのに!
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