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本編〜アリアベル編〜
35.御披露目会
しおりを挟む王家主催の御披露目会で、王妃と王太子妃の懐妊と、第二王子の婚約が発表されると参加者たちからは割れんばかりの拍手と言祝ぎが寄せられた。
「この度後継問題で皆に焦慮させた事と思う。だが、今回王妃と王太子妃に子授け鳥が訪れ、第二王子もようやく婚約が整う事となった。
これからも王家に力を貸してほしい」
国王が告げると、王太子が前に出る。
「私たちが仲良過ぎるせいか、子授け鳥が嫉妬して中々訪れられなかったらしいが、ようやく来てくれた事を嬉しく思っている。
王家の後継問題はこれからも議題に上るだろうが、変更点を述べておく」
今回の件で、変わった制度がある。
「一つ、側妃制度を廃止する。
一つ、王太子に子がいなくても即位できるものとする。
一つ、後継がいない場合、王族年鑑を遡り縁者の中から後継者とする。
一つ、側妃の子である第二王子にも正式に継承権を与えるものとする。これにより、前述の王族年鑑に家系が記載される」
それは、創世記からあるものを覆すもので、参加している貴族たちはざわめき立った。
「今回、私と妃の間に子を授からず、様々に困難を迎えまたそれに巻き込み迷惑をかけてしまった者もいる。
これから先、望まぬ事を強いられる者が出なくて良いように、人の心では無く制度を変える方に注力していこうと思う」
王族とて一人の人間。感情を優先させる事は禁忌だが、どうしても譲れないものもある。
例え滑稽だ、無責任だと言われようが、テオドールはアリアベル以外を選べない。
身体的な問題以外でも、おそらくリディアとの閨を成し遂げてしまっていたら、そこから綻びが出て不幸の連鎖に陥っていただろう。
他の女性の移り香でアリアベルがテオドールを拒否したように。
閨事の為に離宮に赴いた事を知ったオズウェルが一瞬にして顔色を悪くしたように。
オズウェルを好きなまま王太子に抱かれていたら、リディアとてそのままではいられなかったかもしれない。
理解しても割り切れない思いは残り、王妃のようにずっと心に残り続けてしまうだろう。
全ての関係が連鎖的に壊れるくらいなら、別のものを壊せばいい。
凝り固まった考えを捨て、新しい制度を作れば良い。
「これからも、リトス王国は変化していかなければならない。人の思いを尊重し、未来ある国造りを共にしていこうではないか」
王太子の言葉に、参集した者たちは割れんばかりの拍手を送った。
その後、王妃は体調を考慮して椅子に座ったまま国王と共に挨拶に来る貴族たちの相手をした。
王太子夫妻、そして第二王子たちは会場にて挨拶回り。
今回は周辺国の要人も招いての大規模な会だった。
「ベル、体調はどうだい?辛くなったらすぐに言ってくれ」
「ありがとう。安定期に入ってるから今の所大丈夫よ。辛くなったら言うわ」
「心配だなぁ。本当は横抱きにして回りたいところだけどね」
お腹が膨らみ始めたアリアベルは、ゆったりとしたドレスに身を包み挨拶回りをしていた。
傍らには常にテオドールが寄り添い腰を支えている。
「こんにちは。相変わらずご夫妻は仲がよろしいですね」
話し掛けて来たのは周辺国の要人だった。
王太子夫妻の仲の良さを見て外交を進めている国である。
「この度は妃殿下の御懐妊、まことにおめでとうございます」
「ありがとうございます。ようやく待望の子を授かることができました」
「先程の宣言も素晴らしいものでした。しかし、よく側妃制度の廃止ができましたね」
顎に手を当てる要人の国は一夫一妻制。リトス王国の側妃制度に理解は示していたが、それゆえ一歩引いた態度であった。
「私が側妃を取れなくなってしまいまして。
妻以外との行為が無理なのですよ」
その言葉に要人は目を見開いた。
「よほど愛が深いのですね」
「ええ。これからも遠慮なく妻だけを愛せる事が嬉しくてたまらないのです」
外国の要人相手に遠慮無くのろけるテオドールに、アリアベルの顔は赤くなる。
「ふむ。……もしや、初夜に二人の間に約束事をなさいませんでしたか?」
要人に問われ、二人は顔を見合わせた。
記憶を辿り、ある言葉を思い出す。
『比べないで。他の女性とは、しないで……』
『しない。ベルとだけ。ベル以外いらない』
思い当たる言葉を思い出した二人に、要人は微笑んだ。
「初夜の約束事は『初夜の誓い』として効力を発揮するのですよ」
「初夜の誓い?」
「結婚式に互いに愛し合う事を誓いますでしょう?
初夜での約束も女神は聞いているんですよ。
おそらくお二人は『貞操の誓い』をなされたのでしょう。まあ、これもお互い初めて同士でないと無効なのですがね」
二人の愛に気を良くした要人は、国に報告し益々の交流に力を入れると約束し、テオドールは固く握手をした。
「貞操の誓いなんてものがあるんだな」
御披露目会を終え、二人は自室で寛いでいた。
アリアベルの足の浮腫を取るためテオドール自らマッサージをし、今日の出来事を振り返る。
「それが本当なら、テオは本当に……初めてだったのね」
「信用してなかったの?……ちょっと傷付くなぁ」
手を止め拗ねるテオドールに、アリアベルは慌てて否定した。
「そういうわけではないけれど、女性と違って男性は分からないじゃない?
女性は……破瓜の証があるけど、男性は……出血するわけでもないし」
「男が出血したら怖いよ」
自身の先端から出血する様を思い浮かべ、テオドールは身を震わせた。
だが証明する事ができないのもまた事実で。
「……テオは……その。私以外とはできないじゃない?……後悔とか、してない?」
男性はその本能から子孫を残す為惹かれる女性に根付かせたいと願うもの。
だがテオドールが交合できるのは偶然誓いが発揮されたアリアベルのみ。
他の女性としてほしくはないが、できない事を惜しむのではないかと不安になってしまった。
俯くアリアベルを見て、テオドールは眉根を下げ、隣に座る。
「何度でも言うよ。俺はベル以外はいらない。
触れたいのも、一つになりたいのもベルだけだ。
他の女性とできない事を後悔した事なんか無い」
不安そうに見上げるアリアベルに、そっと口付ける。
そして冷たくなった手を温めるように包み込んだ。
「大多数の世の中の男性が他の女性に目が行く事をしても、俺みたいな少数派もいるんだよ。
こんなにも愛する女性に出逢えて、結婚できて、子どもまで授かって。世界一幸せな男だと思ってる」
「それは大げさでは?」
「じゃあ聞くけどベルは?世界一幸せじゃない?」
問われてアリアベルは目をそらした。
「幸せ……だよ。テオがいて、この子がいて、毎日嬉しくてたまらない。
こんなにも幸せでいいのかな、って思う」
目を伏せ、今までの事が脳裏に過る。
辛い事も、苦しい事も、嬉しい事も、全てがかけがえのない記憶として残っている。
「ベル、愛してる。これからも、ずっと愛し続けると誓うよ」
「私も。貴方を変わらず愛し続けると誓います」
二人の顔が近付き、誓いの口付けを交わした。
――いつもならば、始まる甘やかな時間。だが。
「あっ、今動いたわ」
お腹に手を当て笑う妻を抱けないのは少し寂しいが、幸せそうに笑うアリアベルにつられてテオドールも自然と口元が緩んだ。
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