4 / 107
過去編
4 約束 -Chapter セレイナ【回想】
しおりを挟む
その後、セレイナは街の図書館で、偶然ヴァルター公爵に再び会った。
セレイナが書籍を探していた棚の前で、ヴァルター公爵も同じく書籍を手に取ろうとしていたのだ。
二人は同じ棚の前で、顔を合わせた。
「セレイナ嬢。ここで会うとは」
「ごきげんよう。公爵様も、本がお好きなのですね」
セレイナは、丁寧に、控えめに応答をする。その後も度々、二人は幾度となく顔を合わせるようになり、自然と二人で過ごす時間を持つようになった。
ヴァルターはその度に、セレイナに領地のこと、民のこと、政務のこと、そして自分の夢を話した。その語り口には、誠実さに満ちていた。領地を守ることへの使命感。民の生活を守ろうとする責任感。
ヴァルターの話を聞きながらセレイナは、徐々に惹かれていき、彼の全てが、セレイナを捉えていった。
何度目かの逢瀬のとき、セレイナは自分の心の中に生まれた感情に気づいた。
自分は、この人に恋をしている。そして愛し始めている。
その気づきは、セレイナの心の中を甘やかに満たしていった。
それまでセレイナが経験したことのない感情。男性たちの身体を舐めまわすような視線に、嫌悪感を覚えていた彼女が、初めて心から向き合いたいと思えた人。
ヴァルターは容姿ではなく、セレイナという一人の女性の中身を見てくれた。そのことがセレイナにとって、彼の存在を唯一無二のものにした。
時間が経つにつれ、二人の会話はより深く、親密になっていった。セレイナも自分の思いや考えを、公爵に話すようになった。図書館での議論や街歩きでの何気ない会話。そして、宴でのダンス。全ての時間が、セレイナにとって大切なものだった。
ヴァルターと過ごす時間の中で、セレイナは初めて自分の求めていたものを理解した。それは見ず知らずの男性からの求婚ではなく、お互いが思いあえる愛。相手を理解し、一緒にいたいという純粋な愛情。
ヴァルターの傍こそが、セレイナが本来の自分でいられる場所になっていた。
☆
ある夜、ヴァルターがセレイナを城内の庭園に招いた。
月明かりの中、二人は並んで歩く。
セレイナの心臓は、鼓動が高鳴ってゆく。何が起こるのか。その予感は、期待と不安を同時にもたらしていた。
庭園の奥へ進むと、ヴァルターは立ち止まった。
月光が彼の顔を優しく照らしていた。整った顔に浮かべるその表情は、普段の彼よりも硬い。
ヴァルターは、セレイナの手を握った。彼の手は僅かに熱を持ち、小さく震えていた。
「セレイナ。俺は、君を愛している」
ヴァルターの口から紡がれるその言葉が、セレイナの胸に響き渡る。
「領地の紛争も、大局を迎えている。隣国との和平に向けての話し合いを持つんだ。これが整ったら、必ず婚姻しよう。君とこれからの人生を、共に歩みたい。それまで、待っていてくれないか……?」
セレイナはその言葉を聞き、嬉しさが溢れ、気づいたら涙を零していた。
長い間、自分の心の中で育んできた感情。それが、相手からも返されたのだ。
「私も、貴方を愛しています。だから……お戻りになられることを、待ちます」
セレイナの声は、涙で震えている。
「どんなに長くても」
二人は月明かりの中で、静かに抱き合った。
公爵の唇が、セレイナの唇に優しく触れた。それは、約束を誓うキスだった。
その瞬間のふれあいは、二人の間にある全ての感情を込めたものだった。
愛。約束。未来への希望。
その時間は、セレイナにとって永遠のように感じられた。
☆
その後セレイナは、改めて全ての求婚を断り、夜会へ足を運ぶことも辞めた。
彼との約束を待つために。
それ以上の理由は、セレイナには必要なかった。
セレイナが書籍を探していた棚の前で、ヴァルター公爵も同じく書籍を手に取ろうとしていたのだ。
二人は同じ棚の前で、顔を合わせた。
「セレイナ嬢。ここで会うとは」
「ごきげんよう。公爵様も、本がお好きなのですね」
セレイナは、丁寧に、控えめに応答をする。その後も度々、二人は幾度となく顔を合わせるようになり、自然と二人で過ごす時間を持つようになった。
ヴァルターはその度に、セレイナに領地のこと、民のこと、政務のこと、そして自分の夢を話した。その語り口には、誠実さに満ちていた。領地を守ることへの使命感。民の生活を守ろうとする責任感。
ヴァルターの話を聞きながらセレイナは、徐々に惹かれていき、彼の全てが、セレイナを捉えていった。
何度目かの逢瀬のとき、セレイナは自分の心の中に生まれた感情に気づいた。
自分は、この人に恋をしている。そして愛し始めている。
その気づきは、セレイナの心の中を甘やかに満たしていった。
それまでセレイナが経験したことのない感情。男性たちの身体を舐めまわすような視線に、嫌悪感を覚えていた彼女が、初めて心から向き合いたいと思えた人。
ヴァルターは容姿ではなく、セレイナという一人の女性の中身を見てくれた。そのことがセレイナにとって、彼の存在を唯一無二のものにした。
時間が経つにつれ、二人の会話はより深く、親密になっていった。セレイナも自分の思いや考えを、公爵に話すようになった。図書館での議論や街歩きでの何気ない会話。そして、宴でのダンス。全ての時間が、セレイナにとって大切なものだった。
ヴァルターと過ごす時間の中で、セレイナは初めて自分の求めていたものを理解した。それは見ず知らずの男性からの求婚ではなく、お互いが思いあえる愛。相手を理解し、一緒にいたいという純粋な愛情。
ヴァルターの傍こそが、セレイナが本来の自分でいられる場所になっていた。
☆
ある夜、ヴァルターがセレイナを城内の庭園に招いた。
月明かりの中、二人は並んで歩く。
セレイナの心臓は、鼓動が高鳴ってゆく。何が起こるのか。その予感は、期待と不安を同時にもたらしていた。
庭園の奥へ進むと、ヴァルターは立ち止まった。
月光が彼の顔を優しく照らしていた。整った顔に浮かべるその表情は、普段の彼よりも硬い。
ヴァルターは、セレイナの手を握った。彼の手は僅かに熱を持ち、小さく震えていた。
「セレイナ。俺は、君を愛している」
ヴァルターの口から紡がれるその言葉が、セレイナの胸に響き渡る。
「領地の紛争も、大局を迎えている。隣国との和平に向けての話し合いを持つんだ。これが整ったら、必ず婚姻しよう。君とこれからの人生を、共に歩みたい。それまで、待っていてくれないか……?」
セレイナはその言葉を聞き、嬉しさが溢れ、気づいたら涙を零していた。
長い間、自分の心の中で育んできた感情。それが、相手からも返されたのだ。
「私も、貴方を愛しています。だから……お戻りになられることを、待ちます」
セレイナの声は、涙で震えている。
「どんなに長くても」
二人は月明かりの中で、静かに抱き合った。
公爵の唇が、セレイナの唇に優しく触れた。それは、約束を誓うキスだった。
その瞬間のふれあいは、二人の間にある全ての感情を込めたものだった。
愛。約束。未来への希望。
その時間は、セレイナにとって永遠のように感じられた。
☆
その後セレイナは、改めて全ての求婚を断り、夜会へ足を運ぶことも辞めた。
彼との約束を待つために。
それ以上の理由は、セレイナには必要なかった。
2
あなたにおすすめの小説
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
【完結】さよならのかわりに
たろ
恋愛
大好きな婚約者に最後のプレゼントを用意した。それは婚約解消すること。
だからわたしは悪女になります。
彼を自由にさせてあげたかった。
彼には愛する人と幸せになって欲しかった。
わたくしのことなど忘れて欲しかった。
だってわたくしはもうすぐ死ぬのだから。
さよならのかわりに……
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる