偽りの愛 ー 真実かどうかなんて、なぜわかるのでしょうか

苺 迷音

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過去編

4 約束 -Chapter セレイナ【回想】

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 その後、セレイナは街の図書館で、偶然ヴァルター公爵に再び会った。

 セレイナが書籍を探していた棚の前で、ヴァルター公爵も同じく書籍を手に取ろうとしていたのだ。

 二人は同じ棚の前で、顔を合わせた。

「セレイナ嬢。ここで会うとは」

「ごきげんよう。公爵様も、本がお好きなのですね」

 セレイナは、丁寧に、控えめに応答をする。その後も度々、二人は幾度となく顔を合わせるようになり、自然と二人で過ごす時間を持つようになった。

 ヴァルターはその度に、セレイナに領地のこと、民のこと、政務のこと、そして自分の夢を話した。その語り口には、誠実さに満ちていた。領地を守ることへの使命感。民の生活を守ろうとする責任感。

 ヴァルターの話を聞きながらセレイナは、徐々に惹かれていき、彼の全てが、セレイナを捉えていった。

 何度目かの逢瀬のとき、セレイナは自分の心の中に生まれた感情に気づいた。

 自分は、この人に恋をしている。そして愛し始めている。

 その気づきは、セレイナの心の中を甘やかに満たしていった。

 それまでセレイナが経験したことのない感情。男性たちの身体を舐めまわすような視線に、嫌悪感を覚えていた彼女が、初めて心から向き合いたいと思えた人。

 ヴァルターは容姿ではなく、セレイナという一人の女性の中身を見てくれた。そのことがセレイナにとって、彼の存在を唯一無二のものにした。

 時間が経つにつれ、二人の会話はより深く、親密になっていった。セレイナも自分の思いや考えを、公爵に話すようになった。図書館での議論や街歩きでの何気ない会話。そして、宴でのダンス。全ての時間が、セレイナにとって大切なものだった。

 ヴァルターと過ごす時間の中で、セレイナは初めて自分の求めていたものを理解した。それは見ず知らずの男性からの求婚ではなく、お互いが思いあえる愛。相手を理解し、一緒にいたいという純粋な愛情。

 ヴァルターの傍こそが、セレイナが本来の自分でいられる場所になっていた。



 ある夜、ヴァルターがセレイナを城内の庭園に招いた。

 月明かりの中、二人は並んで歩く。

 セレイナの心臓は、鼓動が高鳴ってゆく。何が起こるのか。その予感は、期待と不安を同時にもたらしていた。

 庭園の奥へ進むと、ヴァルターは立ち止まった。

 月光が彼の顔を優しく照らしていた。整った顔に浮かべるその表情は、普段の彼よりも硬い。

 ヴァルターは、セレイナの手を握った。彼の手は僅かに熱を持ち、小さく震えていた。

「セレイナ。俺は、君を愛している」

 ヴァルターの口から紡がれるその言葉が、セレイナの胸に響き渡る。

「領地の紛争も、大局を迎えている。隣国との和平に向けての話し合いを持つんだ。これが整ったら、必ず婚姻しよう。君とこれからの人生を、共に歩みたい。それまで、待っていてくれないか……?」

 セレイナはその言葉を聞き、嬉しさが溢れ、気づいたら涙を零していた。

 長い間、自分の心の中で育んできた感情。それが、相手からも返されたのだ。

「私も、貴方を愛しています。だから……お戻りになられることを、待ちます」

 セレイナの声は、涙で震えている。

「どんなに長くても」

 二人は月明かりの中で、静かに抱き合った。

 公爵の唇が、セレイナの唇に優しく触れた。それは、約束を誓うキスだった。

 その瞬間のふれあいは、二人の間にある全ての感情を込めたものだった。

 愛。約束。未来への希望。

 その時間は、セレイナにとって永遠のように感じられた。



 その後セレイナは、改めて全ての求婚を断り、夜会へ足を運ぶことも辞めた。

 彼との約束を待つために。

 それ以上の理由は、セレイナには必要なかった。
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