偽りの愛 ー 真実かどうかなんて、なぜわかるのでしょうか

苺 迷音

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28 情報 -Chapter エリオス

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 昼下がりの執務室に、軽いノックが響いた。
 エリオスが視線を上げると、旅装の上着を纏ったままのオクターブが入ってきた。背筋を伸ばし、封をした厚い書類束を恭しく差し出す。

「ただいま戻りました。これが王城に勤める者の名簿です。重臣から官吏・下級職、官女に至るまで。出自・勤続年数・出入りの許可証、全て記してあります」

 エリオスは受け取ると、ざっと目を走らせた。
 一覧の一角、リージェリア王太子妃付きの官女の欄に二つの名前が並んでいる。
 指先が止まり、眉がわずかに寄る。

「……ミネルバ・アルサとテリサ・ドミエナール。ナルヴァ国の出身か」

「はい。二名とも王太子妃殿下が王都入りの際に、国から伴われた者です」

 オクターブは「失礼します」と言葉を置いた後、机上に置かれた書類の束の中から、詳細記録を抜いた。
 
 ミネルバは没落した元貴族の娘で、今では既に血縁者がいない。
 テリサは平民との混血で、才覚を買われて登用されたという。

「どちらも、逆らう理由を持たぬ身の上だな」

「はい。命令には、従順でしょう」

 エリオスは紙に指を添え、二つの名の上で静かに止めた。

「セレイナが言っていた。配膳していたのはこのどちらか、あるいは両方だ。食事に何かを混ぜた可能性が高い」

「直接、問いただしますか?」

「……いずれは。だが今ではない。城での裏付けを整えてからだ」

 エリオスは書類を閉じ封筒に入れると立ち上がり、部屋の奥にある棚の中に入れた。
 オクターブは黙って頭を垂れ、報告を終える。

「ご苦労だった。暫くは彼女の療養を優先しよう。今は、静かな時間を与えたい。新しい芽吹きが訪れる頃までは、水面下で動く」

「御意に」

 執務室の扉が閉じられる。
 
 窓の外から見える大木は、その太幹の足元に葉をほとんど落としていた。枝の先に残る数枚が、風に揺れては静かに留まる。
 冷たい季節が、すぐそこまで来ている。

 新年が過ぎ、暖かな陽ざしと芽吹きが訪れる頃には、セレイナが前向きに過ごせるようになっていてほしい。

 エリオスは棚の扉を閉め鍵を掛けながら、その願いを胸に留めた。
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