105 / 107
現在
105 決断 ーChapter エリオス
しおりを挟む
王宮に戻り、エリオスが身だしなみを整え終えるその頃には、日が傾き回廊を橙色に染め上げていた。
靴音を響かせ、背後にオクターブを従え回廊を進むエリオスの歩調は速い。
すれ違う文官や侍従たちが視線を泳がせ、そっと身を引いた。エリオスの纏う怒気に、理由を問う勇気を持つ者はいなかった。
セラフィムの執務室の前に立ち、扉を荒く叩く。
「入れ」
返ってきたのは、力なく辛うじて届く、そんな声だった。
執務室の中から、チャリオットが静かに扉を開けた。
部屋に入ったエリオスの目に映ったセラフィムは、執務椅子に座っていた。だが、執務机に目をやると、そこにある羽根ペンの先は乾ききり、横に置かれている。インク壺の蓋も開けられたままだ。長い時間執務に手を付けず、ただ思考を停止させていたことは一目瞭然だった。
セラフィムは、机の上で手を組み、そこに額を付け微動だにしない。
「セラフィム。兄上」
「エリオスか」
エリオスの声に、セラフィムが顔をやっと上げた。その表情は、笑顔を作ろうとしているのか、それとも何かを言おうとしているのか、口角が歪になっている。
「エリオス。……セレイナのことは、聞いたか?」
「先ほど、会ってきた」
エリオスは執務机の前まで歩み寄り、懐から二本の瓶を取り出した。赤茶色の鈍い光を放つガラス瓶。机の上に並べて置く。
「避妊薬か。二本?」
「そうだ。一本は、ヴァルター経由で手に入れたもの。そしてこっちは、新たにミネルバから直接受け取った」
「ミネルバ……そうか、見つけたのか」
「ああ。確保した」
エリオスは執務机の前にある、ゆったりとした革張りの椅子へ腰を下ろした。オクターブとチャリオットは扉の傍に控えたまま。
「お前の妃付きだった他の三人は、既に消されていた」
「……消された?」
「口封じだろうな。ミネルバだけが、辛うじて逃げ延びていた。東の方へ行こうとしていたらしい」
セラフィムの顔から、更に血の気が引いていく。机に両手を着いたまま、再び俯いた。
「セラフィム、」
「……わかっている。俺のせいだ。全て、俺が蒔いた種だ」
「お前のせいではないだろ」
「いや、俺のせいだ」
セラフィムが顔を上げた。その目には、深い後悔と苦悩がある。
「側妃を持った。リージェリアの反対を押し切って。それが全ての始まりだ。いや……婚約解消したのが、そもそも正しかったのだろうか。俺は、何を選択してきたのか……」
エリオスは何も言わなかった。否定することはできない。だが、責めるつもりもなかった。
「セレイナを、救いたい」
それまでの空気を換えるようにエリオスは、静かに、だが強い意志を込めて言った。
「何をしてでも。彼女の輝きを取り戻す。そのために、俺は動く」
セラフィムは、黙って頷く。
「そこは、同じ思いだ。本来ならば彼女は今頃、正しくあるべき人生を、歩んでいたはずだ。それを歪めたのは、誰でもない……俺だ」
「なら、まず動き出さなきゃ意味ないだろ?」
エリオスは机の上の瓶を、顎で示した。
「その二本の成分が一致すれば、同一の毒だと証明できる。照合はガレーニャに頼む。急ぐ必要はない。証人がいる」
「ミネルバか」
「ああ。護送はヴァルター公に託してある。明日か明後日には、こちらへ到着するだろう。その時に直接、尋問するとしよう」
セラフィムは瓶を見つめたまま、低く呟いた。
「ミネルバは、何と言っていた? 多少は聞き取りをしたのだろう?」
「リージェリア妃からの、直接の指示はなかったとは言っていた」
「……では、証拠にはならないのか」
「いや」
エリオスは、小さく数度だけ首を横に振る。
「彼女はこう言った。リージェリア妃は直接的な指示はしない。だが、それを汲み取るべきだと理解していた。だからこそ官女として傍に仕えることが出来たのだと」
セラフィムは目を閉じた。
その場に居た誰も口を開かず、ただ沈黙の時間が流れてゆく。
その間を縫うように、セラフィムが一言、言葉を落とした。
「……両陛下に、話さなければならない」
「ああ」
「四人で、話し合おう」
☆
夜になり、王宮の奥。王族専用の居住場所、そこの居間に四人が集まった。
父王セリオルドと母后エリザベルナ。そしてセラフィムとエリオス。
燭台の灯りと壁につけられているいくつものランプ灯が、部屋を明るく照らしている。だが、彼らの表情は硬く、重い。
エリオスが、これまでの経緯を説明した。セレイナへの毒、ミネルバの証言、他の官女たちが口封じで消されたこと。
父王セリオルドは黙って聞いていた。時折、深い皺が刻まれた眉間に手を当てながら。
母后エリザベルナは、繊細なレース編みを縁に施された白いハンカチを手に、静かに目を伏せ聞いていた。
全てを聞き終えた後、父王が口を開く。
「リージェリアは、認めると思うか」
「いいえ」
セラフィムが答えた。
「彼女はしらを切るでしょう。直接の指示はしていないと。汲み取ったのは官女たちの勝手だと、そう言うでしょう。実際、そうなのだと思います」
「証拠は」
「この毒の瓶は、証拠になり得る」
エリオスが言葉を継ぎ、それに対して父王は深く息を吐いた。
「厄介だな」
「はい」
セラフィムの力ない返事に、エリザベルナがゆっくりと瞼を開けた。
「リージェリアは狡猾な娘ね。聡明でありながらも、人心掌握は見事なものだわ。あの子は、セラフィムの言う通り認めないでしょうね。けれど、自身に仕えていた侍女たちの、口を封じようとした。それが彼女の凡ミスよ」
三人の視線がエリザベルナに集まった。
「やましいことがなければ、なぜ口封じなどする必要があるのです? ただ国外追放されただけの元侍女たちを、わざわざ消す理由がどこにありますか」
「しかし母上、リージェリアはこうも言うでしょう。自分が与していない間の、隣国で起きたことだと。自分は何も指示していないと」
「ええ、言うでしょうね」
彼女はそこで言葉を一旦切り、手元で握り締めていたハンカチをテーブルの上に置いた。
「けれどもう、彼女の言葉を誰も信じません。セラフィム。あなた自身も、既に信じきれないのでしょう?」
セラフィムは押し黙ったまま、答えなかった。それこそが、肯定の意でもある。
「問題は、どう処罰を与えるかだ。隣国の王女だ。迂闊なことはできん」
横から響いた父王の声は、硬い。五十歳手前の彼は、衰えなど一切感じさせない威厳を保っている。
「はい」
セラフィムがゆっくりと、身体を父王へと向ける。その表情に滲む、迷いのない覚悟が見て取れた。
「父上。一つ、提案があります」
セリオルドが、眉を顰めながらも、真っ直ぐにセラフィムに向き合う。
「王太子位を、返上させてください」
セラフィムが放ったその言葉に、間違いなく、部屋の温度が数度下がった。
エリザベルナが、お気に入りの器に入れられた茶を飲もうとした手が止まる。エリオスは、何かを言おうとしてそのまま口が動かなくなった。
セリオルドだけが、じっとセラフィムをそのまま見つめ続けていた。
「元はといえば、私が蒔いた種です。側妃を持ったこと。リージェリアの心を追い詰めたこと。侍女たちの横領を見過ごしたこと。全て、私の責任です」
「セラフィム」
「私が王太子位を返上すれば、ナルヴァへの体裁も立ちます。リージェリアを処罰するのではなく、私が責任を取る形になる」
セリオルドは何も言わなかった。ただ、息子の顔をじっと見つめている。
「リージェリアとは離縁します。表向きは、彼女を巻き込まないための離縁。側妃を死の直前まで追いやった責任、侍女たちの横領を見過ごした責任。それを私が負う」
「……国内向けには、どう説明する」
「健康上の理由で、一時王太子位を返上すると。しばらくは空席にしていただきたい」
セリオルドは何も言わず、椅子の背凭れに身体を預け、顔を天井に向けたまま瞼を閉じた。
エリオスは再び口を開こうとしたが、やはり言葉を出せなかった。兄の覚悟に、軽々しく口を挟むことを、今はすべきではないと判断したのだ。
長い静寂の後。やがて、父王がゆっくりと目を開けた。
「……王太子の位は、しばらく空席とする。立太子もしばらくは、無しだ。それが隣国への体裁にもなろう」
「父上」
「だが、今ここで決めることではない。リージェリアがどう出るか。それを見てからだ」
セラフィムは深く、深く首を垂れた。
ランプ灯に照らされた金の髪が、サラサラと同じように垂れている。
「ありがとうございます」
「お前が選んだ道だ。まだ時間はある。……難儀なもんだな。王というものも」
セリオルドはそう嘆息すると、息子二人を見て、不意に笑みを零した。
ほんの一瞬、見せた父の顔。
だがそれもすぐに消え、顔はまた厳しいものとなる。
「もしリージェリアが白を切るなら、この方法を採る。だが、もし認めるなら……」
「認めないでしょう」
エリザベルナが静かに言った。
「あの娘は、最後まで認めないわ、きっとね。認めなくても、王太子妃としての責務を果たさなかった。それだけで本来なら処罰対象だわ。その知性を……違う方向に力を発揮できたはずなのに。勿体ないことよ。そしてわたくしの責でもある」
「母上……」
セラフィムが零す言葉に、エリザベルナは眉を下げ、力なく微笑んだ。
エリオスは黙って聞いていた。
王太子位が空席になれば、次の候補は自分だ。
それはわかっている。
エリオスは、来るべき未来に目を伏せた。それを考えるのは今ではない。
まず、セレイナを救い、そして。
本丸であるミレーユを追い詰める。
それが、今やるべきことだ。
靴音を響かせ、背後にオクターブを従え回廊を進むエリオスの歩調は速い。
すれ違う文官や侍従たちが視線を泳がせ、そっと身を引いた。エリオスの纏う怒気に、理由を問う勇気を持つ者はいなかった。
セラフィムの執務室の前に立ち、扉を荒く叩く。
「入れ」
返ってきたのは、力なく辛うじて届く、そんな声だった。
執務室の中から、チャリオットが静かに扉を開けた。
部屋に入ったエリオスの目に映ったセラフィムは、執務椅子に座っていた。だが、執務机に目をやると、そこにある羽根ペンの先は乾ききり、横に置かれている。インク壺の蓋も開けられたままだ。長い時間執務に手を付けず、ただ思考を停止させていたことは一目瞭然だった。
セラフィムは、机の上で手を組み、そこに額を付け微動だにしない。
「セラフィム。兄上」
「エリオスか」
エリオスの声に、セラフィムが顔をやっと上げた。その表情は、笑顔を作ろうとしているのか、それとも何かを言おうとしているのか、口角が歪になっている。
「エリオス。……セレイナのことは、聞いたか?」
「先ほど、会ってきた」
エリオスは執務机の前まで歩み寄り、懐から二本の瓶を取り出した。赤茶色の鈍い光を放つガラス瓶。机の上に並べて置く。
「避妊薬か。二本?」
「そうだ。一本は、ヴァルター経由で手に入れたもの。そしてこっちは、新たにミネルバから直接受け取った」
「ミネルバ……そうか、見つけたのか」
「ああ。確保した」
エリオスは執務机の前にある、ゆったりとした革張りの椅子へ腰を下ろした。オクターブとチャリオットは扉の傍に控えたまま。
「お前の妃付きだった他の三人は、既に消されていた」
「……消された?」
「口封じだろうな。ミネルバだけが、辛うじて逃げ延びていた。東の方へ行こうとしていたらしい」
セラフィムの顔から、更に血の気が引いていく。机に両手を着いたまま、再び俯いた。
「セラフィム、」
「……わかっている。俺のせいだ。全て、俺が蒔いた種だ」
「お前のせいではないだろ」
「いや、俺のせいだ」
セラフィムが顔を上げた。その目には、深い後悔と苦悩がある。
「側妃を持った。リージェリアの反対を押し切って。それが全ての始まりだ。いや……婚約解消したのが、そもそも正しかったのだろうか。俺は、何を選択してきたのか……」
エリオスは何も言わなかった。否定することはできない。だが、責めるつもりもなかった。
「セレイナを、救いたい」
それまでの空気を換えるようにエリオスは、静かに、だが強い意志を込めて言った。
「何をしてでも。彼女の輝きを取り戻す。そのために、俺は動く」
セラフィムは、黙って頷く。
「そこは、同じ思いだ。本来ならば彼女は今頃、正しくあるべき人生を、歩んでいたはずだ。それを歪めたのは、誰でもない……俺だ」
「なら、まず動き出さなきゃ意味ないだろ?」
エリオスは机の上の瓶を、顎で示した。
「その二本の成分が一致すれば、同一の毒だと証明できる。照合はガレーニャに頼む。急ぐ必要はない。証人がいる」
「ミネルバか」
「ああ。護送はヴァルター公に託してある。明日か明後日には、こちらへ到着するだろう。その時に直接、尋問するとしよう」
セラフィムは瓶を見つめたまま、低く呟いた。
「ミネルバは、何と言っていた? 多少は聞き取りをしたのだろう?」
「リージェリア妃からの、直接の指示はなかったとは言っていた」
「……では、証拠にはならないのか」
「いや」
エリオスは、小さく数度だけ首を横に振る。
「彼女はこう言った。リージェリア妃は直接的な指示はしない。だが、それを汲み取るべきだと理解していた。だからこそ官女として傍に仕えることが出来たのだと」
セラフィムは目を閉じた。
その場に居た誰も口を開かず、ただ沈黙の時間が流れてゆく。
その間を縫うように、セラフィムが一言、言葉を落とした。
「……両陛下に、話さなければならない」
「ああ」
「四人で、話し合おう」
☆
夜になり、王宮の奥。王族専用の居住場所、そこの居間に四人が集まった。
父王セリオルドと母后エリザベルナ。そしてセラフィムとエリオス。
燭台の灯りと壁につけられているいくつものランプ灯が、部屋を明るく照らしている。だが、彼らの表情は硬く、重い。
エリオスが、これまでの経緯を説明した。セレイナへの毒、ミネルバの証言、他の官女たちが口封じで消されたこと。
父王セリオルドは黙って聞いていた。時折、深い皺が刻まれた眉間に手を当てながら。
母后エリザベルナは、繊細なレース編みを縁に施された白いハンカチを手に、静かに目を伏せ聞いていた。
全てを聞き終えた後、父王が口を開く。
「リージェリアは、認めると思うか」
「いいえ」
セラフィムが答えた。
「彼女はしらを切るでしょう。直接の指示はしていないと。汲み取ったのは官女たちの勝手だと、そう言うでしょう。実際、そうなのだと思います」
「証拠は」
「この毒の瓶は、証拠になり得る」
エリオスが言葉を継ぎ、それに対して父王は深く息を吐いた。
「厄介だな」
「はい」
セラフィムの力ない返事に、エリザベルナがゆっくりと瞼を開けた。
「リージェリアは狡猾な娘ね。聡明でありながらも、人心掌握は見事なものだわ。あの子は、セラフィムの言う通り認めないでしょうね。けれど、自身に仕えていた侍女たちの、口を封じようとした。それが彼女の凡ミスよ」
三人の視線がエリザベルナに集まった。
「やましいことがなければ、なぜ口封じなどする必要があるのです? ただ国外追放されただけの元侍女たちを、わざわざ消す理由がどこにありますか」
「しかし母上、リージェリアはこうも言うでしょう。自分が与していない間の、隣国で起きたことだと。自分は何も指示していないと」
「ええ、言うでしょうね」
彼女はそこで言葉を一旦切り、手元で握り締めていたハンカチをテーブルの上に置いた。
「けれどもう、彼女の言葉を誰も信じません。セラフィム。あなた自身も、既に信じきれないのでしょう?」
セラフィムは押し黙ったまま、答えなかった。それこそが、肯定の意でもある。
「問題は、どう処罰を与えるかだ。隣国の王女だ。迂闊なことはできん」
横から響いた父王の声は、硬い。五十歳手前の彼は、衰えなど一切感じさせない威厳を保っている。
「はい」
セラフィムがゆっくりと、身体を父王へと向ける。その表情に滲む、迷いのない覚悟が見て取れた。
「父上。一つ、提案があります」
セリオルドが、眉を顰めながらも、真っ直ぐにセラフィムに向き合う。
「王太子位を、返上させてください」
セラフィムが放ったその言葉に、間違いなく、部屋の温度が数度下がった。
エリザベルナが、お気に入りの器に入れられた茶を飲もうとした手が止まる。エリオスは、何かを言おうとしてそのまま口が動かなくなった。
セリオルドだけが、じっとセラフィムをそのまま見つめ続けていた。
「元はといえば、私が蒔いた種です。側妃を持ったこと。リージェリアの心を追い詰めたこと。侍女たちの横領を見過ごしたこと。全て、私の責任です」
「セラフィム」
「私が王太子位を返上すれば、ナルヴァへの体裁も立ちます。リージェリアを処罰するのではなく、私が責任を取る形になる」
セリオルドは何も言わなかった。ただ、息子の顔をじっと見つめている。
「リージェリアとは離縁します。表向きは、彼女を巻き込まないための離縁。側妃を死の直前まで追いやった責任、侍女たちの横領を見過ごした責任。それを私が負う」
「……国内向けには、どう説明する」
「健康上の理由で、一時王太子位を返上すると。しばらくは空席にしていただきたい」
セリオルドは何も言わず、椅子の背凭れに身体を預け、顔を天井に向けたまま瞼を閉じた。
エリオスは再び口を開こうとしたが、やはり言葉を出せなかった。兄の覚悟に、軽々しく口を挟むことを、今はすべきではないと判断したのだ。
長い静寂の後。やがて、父王がゆっくりと目を開けた。
「……王太子の位は、しばらく空席とする。立太子もしばらくは、無しだ。それが隣国への体裁にもなろう」
「父上」
「だが、今ここで決めることではない。リージェリアがどう出るか。それを見てからだ」
セラフィムは深く、深く首を垂れた。
ランプ灯に照らされた金の髪が、サラサラと同じように垂れている。
「ありがとうございます」
「お前が選んだ道だ。まだ時間はある。……難儀なもんだな。王というものも」
セリオルドはそう嘆息すると、息子二人を見て、不意に笑みを零した。
ほんの一瞬、見せた父の顔。
だがそれもすぐに消え、顔はまた厳しいものとなる。
「もしリージェリアが白を切るなら、この方法を採る。だが、もし認めるなら……」
「認めないでしょう」
エリザベルナが静かに言った。
「あの娘は、最後まで認めないわ、きっとね。認めなくても、王太子妃としての責務を果たさなかった。それだけで本来なら処罰対象だわ。その知性を……違う方向に力を発揮できたはずなのに。勿体ないことよ。そしてわたくしの責でもある」
「母上……」
セラフィムが零す言葉に、エリザベルナは眉を下げ、力なく微笑んだ。
エリオスは黙って聞いていた。
王太子位が空席になれば、次の候補は自分だ。
それはわかっている。
エリオスは、来るべき未来に目を伏せた。それを考えるのは今ではない。
まず、セレイナを救い、そして。
本丸であるミレーユを追い詰める。
それが、今やるべきことだ。
20
あなたにおすすめの小説
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
【完結】さよならのかわりに
たろ
恋愛
大好きな婚約者に最後のプレゼントを用意した。それは婚約解消すること。
だからわたしは悪女になります。
彼を自由にさせてあげたかった。
彼には愛する人と幸せになって欲しかった。
わたくしのことなど忘れて欲しかった。
だってわたくしはもうすぐ死ぬのだから。
さよならのかわりに……
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる