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「この水、変ですよね」
さっきの口から漏れた独り言の言い訳をしてみる。
「そうだね。でも、きっと大丈夫でしょ」
彼の声は柔らかく、落ち着いていた。
それでも、何を話せばいいのかわからずに、思いついた適当な話題を振ってみる。
「そういえば……昨日の雷、凄かったですよね」
「うん、あんな音、久しぶりだったな」
「電車、揺れましたよね。……ちょっと怖かった」
「あの音で、目が覚めた気がした。そいえば、駅から、歩いて帰ってるの?」
「はい。15分くらい。ちょうどいい運動になってます」
「ああ、あの坂の途中に信号がやたら長いとこ、あるよね」
「わかります! 私、よく引っかかるんです。あそこ」
「俺も小さい頃、あそこでよく信号にひっかかって、持ってたアイス溶かしたことあったなぁ」
「家に着く前に食べたらよかったのに」
「うん。一緒に居た女の子にもそう言われたよ」
「へぇ? 仲良かった子なんですか?」
「うん。とても。昔にね大事な約束をした子」
「そうなんですね」
「でも今はなかなか会えなくてね。話すこともあまりなくて。寂しいよね」
そう言った光太さんは、少しだけ微笑んだけど寂しそうな眼をする。
私はと言うと、胸の奥がチクリとした。
昔の話なのに。今日初めて話した人なのに。
『大事な約束をした子』
その小さな女の子にちょっとしたやきもち……してるんだなって自分でもわかった。
その後、駅前で見かけた浴衣の話から、昔いった盆踊りの話をお互いにしたり。
川べりで魚釣りをしたり、ざりがにを取った話をしたり。
どうやら地元が同じみたいで、共通の話題が多くてとても楽しい。
他の人が聞いたら他愛もない話を重ねていく。
気づくと、あっという間に葉月駅のアナウンスが流れた。
「着いたみたいだね」
「はい」
「話相手になってくれてありがとう。あっという間だった」
「こちらこそ。お話出来て楽しかったです」
お互いに顔を見て、微笑みあう。
電車の降り際「じゃあ」と言いあい、やっぱりお互いの場所へと戻ってゆく。
改札口を出て、自宅まで歩いてる最中。
もしかしたらまた、あの車両で会った時に、もう少しお近づきになれるかも。
そんな期待感が、私の中で仄かに生まれてた。
ちょっと嬉しくなって、知らず知らず頬が緩んでいた。
*
その翌日。
今日もいつもの時間に車両に乗る。
ただ、少し変化があった。
「今、帰り?」
光太さんが、声を掛けて来てくれた。
「はい。光太さんもですか?」
「うん。久しぶりにね。懐かしい人たちと会ってたんだ」
そんな風に話してると、いつものように動き出す電車。
なのにまた、寒気がしてきて――
足元をみたら床に水が張っていた。
「え? また?」
どんどん水が流れ込んできて、車両の中に水が溢れてくる。
あっという間に水位が、足首まで達していた。
これは……異常だ。絶対におかしい。
なのに周りの乗客は誰も気にしていない。普通に座って、普通にスマホを見て、普通に眠っている。
水の中に足を突っ込んでいるのに。
「この車両……おかしいですよね?」
光太さんに真剣に話しかけた。
「そうだね」
あっさりと言う。
「どうしてそんなに冷静なんで――」
「落ち着いて」
彼は私が全部言い終わる前に、そう言い微笑んだ。
「大丈夫だから。彩佳は、心配しすぎ」
その笑顔がなぜか胸に響く。
暖かくて、安心できる笑顔。
でもこのまま、ここに居てはいけない気がしてならない。
「でも……。私、次の駅で……降ります」
そう伝えた瞬間、光太さんの表情が変わり
「駄目だ!」
急に、私の腕を強く掴んできた。
さっきの口から漏れた独り言の言い訳をしてみる。
「そうだね。でも、きっと大丈夫でしょ」
彼の声は柔らかく、落ち着いていた。
それでも、何を話せばいいのかわからずに、思いついた適当な話題を振ってみる。
「そういえば……昨日の雷、凄かったですよね」
「うん、あんな音、久しぶりだったな」
「電車、揺れましたよね。……ちょっと怖かった」
「あの音で、目が覚めた気がした。そいえば、駅から、歩いて帰ってるの?」
「はい。15分くらい。ちょうどいい運動になってます」
「ああ、あの坂の途中に信号がやたら長いとこ、あるよね」
「わかります! 私、よく引っかかるんです。あそこ」
「俺も小さい頃、あそこでよく信号にひっかかって、持ってたアイス溶かしたことあったなぁ」
「家に着く前に食べたらよかったのに」
「うん。一緒に居た女の子にもそう言われたよ」
「へぇ? 仲良かった子なんですか?」
「うん。とても。昔にね大事な約束をした子」
「そうなんですね」
「でも今はなかなか会えなくてね。話すこともあまりなくて。寂しいよね」
そう言った光太さんは、少しだけ微笑んだけど寂しそうな眼をする。
私はと言うと、胸の奥がチクリとした。
昔の話なのに。今日初めて話した人なのに。
『大事な約束をした子』
その小さな女の子にちょっとしたやきもち……してるんだなって自分でもわかった。
その後、駅前で見かけた浴衣の話から、昔いった盆踊りの話をお互いにしたり。
川べりで魚釣りをしたり、ざりがにを取った話をしたり。
どうやら地元が同じみたいで、共通の話題が多くてとても楽しい。
他の人が聞いたら他愛もない話を重ねていく。
気づくと、あっという間に葉月駅のアナウンスが流れた。
「着いたみたいだね」
「はい」
「話相手になってくれてありがとう。あっという間だった」
「こちらこそ。お話出来て楽しかったです」
お互いに顔を見て、微笑みあう。
電車の降り際「じゃあ」と言いあい、やっぱりお互いの場所へと戻ってゆく。
改札口を出て、自宅まで歩いてる最中。
もしかしたらまた、あの車両で会った時に、もう少しお近づきになれるかも。
そんな期待感が、私の中で仄かに生まれてた。
ちょっと嬉しくなって、知らず知らず頬が緩んでいた。
*
その翌日。
今日もいつもの時間に車両に乗る。
ただ、少し変化があった。
「今、帰り?」
光太さんが、声を掛けて来てくれた。
「はい。光太さんもですか?」
「うん。久しぶりにね。懐かしい人たちと会ってたんだ」
そんな風に話してると、いつものように動き出す電車。
なのにまた、寒気がしてきて――
足元をみたら床に水が張っていた。
「え? また?」
どんどん水が流れ込んできて、車両の中に水が溢れてくる。
あっという間に水位が、足首まで達していた。
これは……異常だ。絶対におかしい。
なのに周りの乗客は誰も気にしていない。普通に座って、普通にスマホを見て、普通に眠っている。
水の中に足を突っ込んでいるのに。
「この車両……おかしいですよね?」
光太さんに真剣に話しかけた。
「そうだね」
あっさりと言う。
「どうしてそんなに冷静なんで――」
「落ち着いて」
彼は私が全部言い終わる前に、そう言い微笑んだ。
「大丈夫だから。彩佳は、心配しすぎ」
その笑顔がなぜか胸に響く。
暖かくて、安心できる笑顔。
でもこのまま、ここに居てはいけない気がしてならない。
「でも……。私、次の駅で……降ります」
そう伝えた瞬間、光太さんの表情が変わり
「駄目だ!」
急に、私の腕を強く掴んできた。
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