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ドドソルニア編
王子様
宿の近くのこじんまりとした居酒屋は夕食には少し早い時間にも関わらず沢山の人で賑わっていた。ドドソルニアの食事はお酒と楽しむことが前提なのですこし濃いめの味付けだった。
宿に戻ったときには旅の疲れもあり、シャワーを浴びてすぐに寝た。実はジークが少ししてから部屋まで訪ねて来たらしいが、俺はすでに夢の中だった。申し訳ない。
ぐっすり寝たのでスッキリした気分で目覚め、体力も完全に回復した。やはり寝袋とベッドでは睡眠の質が異なる。
朝の食事はサンドイッチが食堂のカウンターに並べられ、食べたい量だけ取るシステムになっていた。今日は遅い時間だったこともあり人気の肉系のサンドイッチはほとんど残っていなかったので、俺は魚のフライのサンドイッチを選んだ。具が大胆に挟まれていてずしりと重たいので1つでも満腹だ。
朝食後は冒険者ギルドに向かう。ドドソルニアで1番大きいギルドらしく、石造りの建物は依頼の受付から買取、魔獣の解体など全てこの建物内で済ませられるように造られている。
木製の扉を押し開くと短く軽快な電子音が流れた。これはあれだ。現世の"あなたとコンビニ~♪"のあのお店の自動ドアが開いたときにお客の入退店を知らせるあの音楽だ。あまりの懐かしさに感動⋯ではなく違和感が凄まじくて困惑してしまう。これを作った、もしくは作成依頼したのは絶対に同じ世界線の落ち人だろう。微妙な気持ちになりながら中に入ると途端に周りがザワついた。
「おい、一閃だぞ!」
「瞬発と鷹の目も揃ってる!」
「一緒にいるあいつは誰だ?」
「人族か?弱そうだが何でSランクパーティと一緒にいるんだ?」
不躾な目線を送られると辟易するが、覚悟はしていたので俯かずに顔を上げる。俺はパーティの一員だと認めてもらった。自信無さげにしていたら皆に失礼だ。
まっすぐ受付に向かうと窓口にいた小ドワの男性がぱっと立ち上がった。
「ジークさん、お久しぶりです!いつ来られたんですか?」
「昨日入国した。カテドアラの犯罪者護送依頼の完了手続きを頼む。」
「わかりました。暫くお待ちください。あ、新しい方が加入されたんですね!ドドソルニア随一の物造りの街"デント"にようこそ!」
愛想の良い男性職員は挨拶を交わすとすぐに手続きを始めた。その間にギルド内を観察する。依頼ボードでランク別に依頼書が貼られているのはソラレの冒険者ギルドと同じみたいだ。朝のピークは過ぎているので依頼書はほとんど残っていなかった。
「お待たせしました。達成金はいつも通り半分はパーティ用貯金、残りは振り分けて個人貯金に入金させて頂きました。」
「ありがとう。ところでサリュライアはいるか?」
「すみません、ギルマスは本日お休みを頂いています。お急ぎですか?」
「いや、挨拶だけだ。また改める。どうせ旦那と一緒だろう。」
「わかりました。あ、ラーフさん。新しい魔法書がいくつか図書室に入荷されていますよ。」
「本当ですか?すぐ行きます!」
ラーフさんのテンションが急激に上がった。ここのギルドにも図書室があるのか。自分も本が見たいとラーフさんに言って一緒に行くことになった。ジークは俺についてくるつもりだったが他に用事が入っていたらしく、行きたくないとゴネていたが結局はロロさんに引きずられていった。
ギルドの図書室は地下にあり、ひんやりとした空気が漂っていて簡易的な椅子とテーブルが3セット備えられている。俺たちの他に人はおらず、上の階の音が邪魔にならない程度に聞こえてくる。
「ここの本は一冊だけ借りることができるんですよ。」
「え!本当ですか?」
この世界では活版印刷の技術は多少進んではいたが、量産できない本はまだまだ貴重品だ。
ソラレの冒険者ギルドの図書室も部屋からの持ち出しは禁止されていた。なお、書き写すことはオッケーだがそれを売ると犯罪になる。ではなぜ、ここの本は貸し出し可能なのか。それはドワーフの技術力の高さが理由だった。
本の表紙に小さな魔道具が付けられているのだが、ここに本を借りた人の情報と万が一に本を無くしたときの追跡機能が取り付けられている。そして借りた人が本を破損してしまった場合は自動的に修理代を引き落とされる。なので本を借りる人は身分証明書提示と、ギルドの口座を持っている人と条件が付けられる。
ラーフさんは早速目的の本を見つけたようで椅子に座って読み始めた。俺もこの周辺の植物や魔獣の生態について書かれた本を見つけたので近くの椅子に座って読みふけった。
暫くするとラーフさんが思い出したように話し始めた。
「そういえばイオ、夕べはジークと寝ていませんよね?」
「はい、ジークが部屋まで来てくれたみたいですけど俺はすぐに寝ちゃって気付きませんでした。」
「その調子でしばらくは一緒に寝るのは避けて下さいね?」
「?」
一緒に寝るくらいはしてもいいんじゃないかな。だって俺とジークは恋人になったわけだし。うん、照れる。
「イオはドドソルニアは初めてですから色々と見て回りたいでしょう?あの狼に合わせていたら翌日足腰が立たなくなりますよ?」
「え?」
「ん?」
「⋯なぜジークと寝たら翌日動けなくなるんですか?」
目線はずっと本に向いていたラーフさんが勢い良く顔を上げた後「いや、まさか⋯いやイオは落ち人だしもしかして⋯」とブツブツ呟き出した。そしてニッコリと笑顔を向けて「後で確認しますね」と言われたけど何を確認するのだろう?
再び本読みの時間になり、昼食のタイミングでジークとロロさんが迎えに来たので本読みは一旦中止してラーフさんは悩みに悩んで一冊本を選び、俺は今読んでいる本を借りて昼食は持ち帰りにして宿で食べることになった。
「お店で食べるとついつい飲んじゃうんだよね~。」
と言ったロロさんの手には酒瓶が存在を主張していた。お店じゃなくても飲むのか。まぁ、ロロさんは酔わないし今から戦闘するわけでもないのでいいのかな?
宿に戻ると女将さんが昼の食堂はあまり人がいないから使っても良いと言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。食べ終わる頃にはちらほら食堂にいたお客さんはいなくなっていて、女将さんも昼食を食べに奥に引っ込んで行った。
「さて、確認しておきたいことなのですが⋯」
周りに人がいないことを確認したラーフさんは声を潜めるように話し出した。
「ジークとイオはどこまで進んでいるのですか?」
「はい?」
「ああ?」
突拍子もないことを聞かれて俺とジークは同時に声を上げた。
「なんでお前に報告しないといけないんだよ。」
「大事なことですよ?質問を変えましょう。イオ、今までにお付き合いの経験は?」
「ありません。」
その質問ならすぐに答えられる。正真正銘、初めての恋人はジークだ。
「そうなんですか?意外ですね。」
「恋人どころか友人もあまり⋯」
「イオは器量も性格も良いのでさぞ人気者だと思いましたが。」
突然褒められると反応に困ってしまう。
「えと、俺よりも弟の方がとても人気がありまして、俺に近付いてくる人は大抵弟目当てだったので友人も作り辛くて⋯」
「ああ、それわかります。」
「うわっ、それわかるー。ジークが王様の息子だからって俺たちを踏み台にしてやろうって奴が湧いて出てきたもんね。」
「大抵人族でしたね。我々に身分制度はないと言っても聞かないんですよね。」
今なんて?
「今、なんと言いました?」
「身分制度ですか?人族は王族、貴族、平民と身分がはっきりと分かれていますが、我々獣人は頂点の王以外は皆同列なのですよ。」
「いやそこじゃなくてジークが王様の息子って言いました?」
「そだよー。ジークはアランデバル王の四男。ちなみに次の王は三男でほぼ確定。」
「王子様じゃないですか!」
俺がそう言った途端にラーフさんとロロさんは笑い出した。
「あっはっは!王子様!確かに王子様だねー!」
「ぶふっ⋯可愛らしいですね。王子様?」
「勘弁してくれ。」
揶揄われたジークはムスッとした顔でロロさんから酒を奪ってぐいっと煽った。笑い事じゃない。俺は王子様とお付き合いをすることになったの?そういうのって"平民は認められない!"とか言われるやつじゃない?ラノベで見た。
「イオ、さっきも言ったが身分を気にするのはカテドアラの貴族だけだ。俺の兄弟たちも伴侶は冒険者だったり商人だったり職業は様々だ。」
「獣人は"番"が全てですからね。性別も種族の違いも些細なことです。」
そっか。なら心配することはないのかな。一瞬「平民は愛人にしろ」とか言われる展開が来るかなと思った。ラノベで見た。
「ラーフさんとロロさんとはいつからの付き合いなんですか?」
「幼少期からですよ。私達は所謂ジークの側近という立場ですね。年は違いますが破天荒なジークについて行ける同年代の子供が私達くらいだったんですよ。」
「冒険者になる前から遊び感覚で魔獣討伐してたもんねー。」
規格外すぎる。そんな前からパーティとして活動しているなんて、そりゃ戦闘中の息もぴったりなわけだ。
「話がそれましたね。ええと、イオは体だけの関係もありませんでした?」
「えぇ?考えたこともありません⋯。」
「おいラーフ。何が言いたい?それに関しては俺がイオに確認することだ。」
「いーえ、落ち人誘拐事件後はイオの体調の悪さで遠慮し、護送依頼中は仕事なのでスキンシップも取れなかったあなたはかなり余裕が無くなっているはずです。早急に関係を進めようとする可能性が高いです。」
「そんな事は⋯ないが⋯」
ジークとラーフさんのこそこそとした会話は俺には聞こえない。するとロロさんが残り少ない酒瓶のお酒をラッパ飲みでぐいっと飲んで空瓶をどんっと机に乗せた。
「質問がまだるっこい!!イオくん、男同士でもセックスできるって知ってる?」
「セッ⋯ええ!?男には入れるところなんて⋯はっっっ!!!」
「そう、男同士の場合はケツに突っ込むんだよー。」
ロロさんはニコニコしながら左手で輪っかを作り、右手の指を輪の中に出し入れするジェスチャーをした。そしてジークに頭を叩かれた。
た⋯確かに男には女性のように受け入れる場所はないから性行為をするとなるとそこしかない。目から鱗とはこういうことか。
ジークを好きだと自覚してから恋愛について多少は考えていた。友愛や親愛では納得できない気持ち。ヒョウ獣人に体を触られたとき、寒気と嫌悪感でいっぱいになった。でもジークに触られることは平気で、キスもしたいと思ったのでこれは「恋愛」だと答えを出すことができた。そのときに"どこまで"できるかというのは考えに及ばなかった。
「イオは世界を見たいと言いました。ドドソルニアにも来たばかりでまだまだ見るところは沢山あります。ですが寝室に籠もって数日動けなくなるようなことになるのは可哀想ではありませんか?」
動けなくなるの!?というか話しぶりからしておそらく俺が入れられる方なのか?いやでもジークに入れることは想像できない。そもそも女の子相手でも考えたことはなかったけれど。
「なんだラーフ。随分イオのことを気に掛けるな。」
「私は1人っ子なので弟妹に憧れていまして、イオのことは弟のように思っているのですよ。」
弟?え、そんな風に思ってもらっていたの?ちょっと⋯いやかなり嬉しい。
「俺の弟妹も似たようなものじゃないか。」
「人を見るなり攻撃を仕掛けてくるような弟妹はいりません。」
ジークの弟妹ってそんなに攻撃的なの?仲が悪いのか?
それよりもラーフさんが1人っ子だというのは意外だな。
「ラーフさんは魔法の教え方が上手いので下の兄弟がいると思っていました。」
「私みたいに鳥類系の獣人は大抵1人か多くて2人です。ほ乳類系は多産な上、双子や三つ子が当たり前なのですよ。」
「俺は上に三つ子、下に双子がいるぞ。」
「うちは俺自身が双子だよー。」
双子なんて現世では「確か学校で一組いたな」くらいの割合だったので驚いた。ましてや三つ子なんて見たことがないのでちょっと興味がある。
「なのでしばらくジークには自重して頂きたいです。」
「一緒に寝るくらいはいいだろう?」
「あなたそれで我慢できるんですか?」
「俺をなんだと思ってるんだ!」
「長年待ち望んだ番を手に入れた獣ですけど?」
その後、何だかんだと言い争ってジークは俺と一緒に寝る権利を勝ち取った。ただし、しばらくは手を出さない条件で。俺は居たたまれない気持ちで2人のやり取りを黙って見ていた。
ロロさんはいつの間にか机に頬杖をついて寝ていた。
*********************************
イオは猥談ができる友達がいなかったことと、女性が苦手で性欲が薄かったので性知識は保健体育レベル。
唯一の話し相手の相原とはヲタトークのみで、相原が好きなラノベは「性欲の薄い主人公ハーレムの俺何かやっちゃいましたかチート系」のジャンル。
余談ですが私の学生時代、同学年に双子が5組、他学年に三つ子がいました。
宿に戻ったときには旅の疲れもあり、シャワーを浴びてすぐに寝た。実はジークが少ししてから部屋まで訪ねて来たらしいが、俺はすでに夢の中だった。申し訳ない。
ぐっすり寝たのでスッキリした気分で目覚め、体力も完全に回復した。やはり寝袋とベッドでは睡眠の質が異なる。
朝の食事はサンドイッチが食堂のカウンターに並べられ、食べたい量だけ取るシステムになっていた。今日は遅い時間だったこともあり人気の肉系のサンドイッチはほとんど残っていなかったので、俺は魚のフライのサンドイッチを選んだ。具が大胆に挟まれていてずしりと重たいので1つでも満腹だ。
朝食後は冒険者ギルドに向かう。ドドソルニアで1番大きいギルドらしく、石造りの建物は依頼の受付から買取、魔獣の解体など全てこの建物内で済ませられるように造られている。
木製の扉を押し開くと短く軽快な電子音が流れた。これはあれだ。現世の"あなたとコンビニ~♪"のあのお店の自動ドアが開いたときにお客の入退店を知らせるあの音楽だ。あまりの懐かしさに感動⋯ではなく違和感が凄まじくて困惑してしまう。これを作った、もしくは作成依頼したのは絶対に同じ世界線の落ち人だろう。微妙な気持ちになりながら中に入ると途端に周りがザワついた。
「おい、一閃だぞ!」
「瞬発と鷹の目も揃ってる!」
「一緒にいるあいつは誰だ?」
「人族か?弱そうだが何でSランクパーティと一緒にいるんだ?」
不躾な目線を送られると辟易するが、覚悟はしていたので俯かずに顔を上げる。俺はパーティの一員だと認めてもらった。自信無さげにしていたら皆に失礼だ。
まっすぐ受付に向かうと窓口にいた小ドワの男性がぱっと立ち上がった。
「ジークさん、お久しぶりです!いつ来られたんですか?」
「昨日入国した。カテドアラの犯罪者護送依頼の完了手続きを頼む。」
「わかりました。暫くお待ちください。あ、新しい方が加入されたんですね!ドドソルニア随一の物造りの街"デント"にようこそ!」
愛想の良い男性職員は挨拶を交わすとすぐに手続きを始めた。その間にギルド内を観察する。依頼ボードでランク別に依頼書が貼られているのはソラレの冒険者ギルドと同じみたいだ。朝のピークは過ぎているので依頼書はほとんど残っていなかった。
「お待たせしました。達成金はいつも通り半分はパーティ用貯金、残りは振り分けて個人貯金に入金させて頂きました。」
「ありがとう。ところでサリュライアはいるか?」
「すみません、ギルマスは本日お休みを頂いています。お急ぎですか?」
「いや、挨拶だけだ。また改める。どうせ旦那と一緒だろう。」
「わかりました。あ、ラーフさん。新しい魔法書がいくつか図書室に入荷されていますよ。」
「本当ですか?すぐ行きます!」
ラーフさんのテンションが急激に上がった。ここのギルドにも図書室があるのか。自分も本が見たいとラーフさんに言って一緒に行くことになった。ジークは俺についてくるつもりだったが他に用事が入っていたらしく、行きたくないとゴネていたが結局はロロさんに引きずられていった。
ギルドの図書室は地下にあり、ひんやりとした空気が漂っていて簡易的な椅子とテーブルが3セット備えられている。俺たちの他に人はおらず、上の階の音が邪魔にならない程度に聞こえてくる。
「ここの本は一冊だけ借りることができるんですよ。」
「え!本当ですか?」
この世界では活版印刷の技術は多少進んではいたが、量産できない本はまだまだ貴重品だ。
ソラレの冒険者ギルドの図書室も部屋からの持ち出しは禁止されていた。なお、書き写すことはオッケーだがそれを売ると犯罪になる。ではなぜ、ここの本は貸し出し可能なのか。それはドワーフの技術力の高さが理由だった。
本の表紙に小さな魔道具が付けられているのだが、ここに本を借りた人の情報と万が一に本を無くしたときの追跡機能が取り付けられている。そして借りた人が本を破損してしまった場合は自動的に修理代を引き落とされる。なので本を借りる人は身分証明書提示と、ギルドの口座を持っている人と条件が付けられる。
ラーフさんは早速目的の本を見つけたようで椅子に座って読み始めた。俺もこの周辺の植物や魔獣の生態について書かれた本を見つけたので近くの椅子に座って読みふけった。
暫くするとラーフさんが思い出したように話し始めた。
「そういえばイオ、夕べはジークと寝ていませんよね?」
「はい、ジークが部屋まで来てくれたみたいですけど俺はすぐに寝ちゃって気付きませんでした。」
「その調子でしばらくは一緒に寝るのは避けて下さいね?」
「?」
一緒に寝るくらいはしてもいいんじゃないかな。だって俺とジークは恋人になったわけだし。うん、照れる。
「イオはドドソルニアは初めてですから色々と見て回りたいでしょう?あの狼に合わせていたら翌日足腰が立たなくなりますよ?」
「え?」
「ん?」
「⋯なぜジークと寝たら翌日動けなくなるんですか?」
目線はずっと本に向いていたラーフさんが勢い良く顔を上げた後「いや、まさか⋯いやイオは落ち人だしもしかして⋯」とブツブツ呟き出した。そしてニッコリと笑顔を向けて「後で確認しますね」と言われたけど何を確認するのだろう?
再び本読みの時間になり、昼食のタイミングでジークとロロさんが迎えに来たので本読みは一旦中止してラーフさんは悩みに悩んで一冊本を選び、俺は今読んでいる本を借りて昼食は持ち帰りにして宿で食べることになった。
「お店で食べるとついつい飲んじゃうんだよね~。」
と言ったロロさんの手には酒瓶が存在を主張していた。お店じゃなくても飲むのか。まぁ、ロロさんは酔わないし今から戦闘するわけでもないのでいいのかな?
宿に戻ると女将さんが昼の食堂はあまり人がいないから使っても良いと言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。食べ終わる頃にはちらほら食堂にいたお客さんはいなくなっていて、女将さんも昼食を食べに奥に引っ込んで行った。
「さて、確認しておきたいことなのですが⋯」
周りに人がいないことを確認したラーフさんは声を潜めるように話し出した。
「ジークとイオはどこまで進んでいるのですか?」
「はい?」
「ああ?」
突拍子もないことを聞かれて俺とジークは同時に声を上げた。
「なんでお前に報告しないといけないんだよ。」
「大事なことですよ?質問を変えましょう。イオ、今までにお付き合いの経験は?」
「ありません。」
その質問ならすぐに答えられる。正真正銘、初めての恋人はジークだ。
「そうなんですか?意外ですね。」
「恋人どころか友人もあまり⋯」
「イオは器量も性格も良いのでさぞ人気者だと思いましたが。」
突然褒められると反応に困ってしまう。
「えと、俺よりも弟の方がとても人気がありまして、俺に近付いてくる人は大抵弟目当てだったので友人も作り辛くて⋯」
「ああ、それわかります。」
「うわっ、それわかるー。ジークが王様の息子だからって俺たちを踏み台にしてやろうって奴が湧いて出てきたもんね。」
「大抵人族でしたね。我々に身分制度はないと言っても聞かないんですよね。」
今なんて?
「今、なんと言いました?」
「身分制度ですか?人族は王族、貴族、平民と身分がはっきりと分かれていますが、我々獣人は頂点の王以外は皆同列なのですよ。」
「いやそこじゃなくてジークが王様の息子って言いました?」
「そだよー。ジークはアランデバル王の四男。ちなみに次の王は三男でほぼ確定。」
「王子様じゃないですか!」
俺がそう言った途端にラーフさんとロロさんは笑い出した。
「あっはっは!王子様!確かに王子様だねー!」
「ぶふっ⋯可愛らしいですね。王子様?」
「勘弁してくれ。」
揶揄われたジークはムスッとした顔でロロさんから酒を奪ってぐいっと煽った。笑い事じゃない。俺は王子様とお付き合いをすることになったの?そういうのって"平民は認められない!"とか言われるやつじゃない?ラノベで見た。
「イオ、さっきも言ったが身分を気にするのはカテドアラの貴族だけだ。俺の兄弟たちも伴侶は冒険者だったり商人だったり職業は様々だ。」
「獣人は"番"が全てですからね。性別も種族の違いも些細なことです。」
そっか。なら心配することはないのかな。一瞬「平民は愛人にしろ」とか言われる展開が来るかなと思った。ラノベで見た。
「ラーフさんとロロさんとはいつからの付き合いなんですか?」
「幼少期からですよ。私達は所謂ジークの側近という立場ですね。年は違いますが破天荒なジークについて行ける同年代の子供が私達くらいだったんですよ。」
「冒険者になる前から遊び感覚で魔獣討伐してたもんねー。」
規格外すぎる。そんな前からパーティとして活動しているなんて、そりゃ戦闘中の息もぴったりなわけだ。
「話がそれましたね。ええと、イオは体だけの関係もありませんでした?」
「えぇ?考えたこともありません⋯。」
「おいラーフ。何が言いたい?それに関しては俺がイオに確認することだ。」
「いーえ、落ち人誘拐事件後はイオの体調の悪さで遠慮し、護送依頼中は仕事なのでスキンシップも取れなかったあなたはかなり余裕が無くなっているはずです。早急に関係を進めようとする可能性が高いです。」
「そんな事は⋯ないが⋯」
ジークとラーフさんのこそこそとした会話は俺には聞こえない。するとロロさんが残り少ない酒瓶のお酒をラッパ飲みでぐいっと飲んで空瓶をどんっと机に乗せた。
「質問がまだるっこい!!イオくん、男同士でもセックスできるって知ってる?」
「セッ⋯ええ!?男には入れるところなんて⋯はっっっ!!!」
「そう、男同士の場合はケツに突っ込むんだよー。」
ロロさんはニコニコしながら左手で輪っかを作り、右手の指を輪の中に出し入れするジェスチャーをした。そしてジークに頭を叩かれた。
た⋯確かに男には女性のように受け入れる場所はないから性行為をするとなるとそこしかない。目から鱗とはこういうことか。
ジークを好きだと自覚してから恋愛について多少は考えていた。友愛や親愛では納得できない気持ち。ヒョウ獣人に体を触られたとき、寒気と嫌悪感でいっぱいになった。でもジークに触られることは平気で、キスもしたいと思ったのでこれは「恋愛」だと答えを出すことができた。そのときに"どこまで"できるかというのは考えに及ばなかった。
「イオは世界を見たいと言いました。ドドソルニアにも来たばかりでまだまだ見るところは沢山あります。ですが寝室に籠もって数日動けなくなるようなことになるのは可哀想ではありませんか?」
動けなくなるの!?というか話しぶりからしておそらく俺が入れられる方なのか?いやでもジークに入れることは想像できない。そもそも女の子相手でも考えたことはなかったけれど。
「なんだラーフ。随分イオのことを気に掛けるな。」
「私は1人っ子なので弟妹に憧れていまして、イオのことは弟のように思っているのですよ。」
弟?え、そんな風に思ってもらっていたの?ちょっと⋯いやかなり嬉しい。
「俺の弟妹も似たようなものじゃないか。」
「人を見るなり攻撃を仕掛けてくるような弟妹はいりません。」
ジークの弟妹ってそんなに攻撃的なの?仲が悪いのか?
それよりもラーフさんが1人っ子だというのは意外だな。
「ラーフさんは魔法の教え方が上手いので下の兄弟がいると思っていました。」
「私みたいに鳥類系の獣人は大抵1人か多くて2人です。ほ乳類系は多産な上、双子や三つ子が当たり前なのですよ。」
「俺は上に三つ子、下に双子がいるぞ。」
「うちは俺自身が双子だよー。」
双子なんて現世では「確か学校で一組いたな」くらいの割合だったので驚いた。ましてや三つ子なんて見たことがないのでちょっと興味がある。
「なのでしばらくジークには自重して頂きたいです。」
「一緒に寝るくらいはいいだろう?」
「あなたそれで我慢できるんですか?」
「俺をなんだと思ってるんだ!」
「長年待ち望んだ番を手に入れた獣ですけど?」
その後、何だかんだと言い争ってジークは俺と一緒に寝る権利を勝ち取った。ただし、しばらくは手を出さない条件で。俺は居たたまれない気持ちで2人のやり取りを黙って見ていた。
ロロさんはいつの間にか机に頬杖をついて寝ていた。
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イオは猥談ができる友達がいなかったことと、女性が苦手で性欲が薄かったので性知識は保健体育レベル。
唯一の話し相手の相原とはヲタトークのみで、相原が好きなラノベは「性欲の薄い主人公ハーレムの俺何かやっちゃいましたかチート系」のジャンル。
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