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VSスライム
勇者の悪癖
しおりを挟む「エルジュ! いい加減、人前での態度をわきまえろ! もういくつになったと思っている? 美貌と愛嬌で済まされる年齢は、もう越しているんだぞ!」
城を出て魔王の元へと向かうために街道を歩き始めた直後、グリオスはエルジュの隣に並んで説教を始める。
本気の怒声を浴びても、エルジュは委縮するどころかニヤニヤと笑う。
「へぇー、グリオスってオレのこと美人って思ってくれているんだ。うれしー」
「茶化すな! 二十一にもなって公私の区別が付けられないなんて、情けなくて愛想を尽かしてしまいそうだ」
「オレに愛想持ってくれてるの。んふふー……じゃあ今晩どう? なんでもしてあげるけど」
スッ、とエルジュのまつ毛がわずかに伏せ、色香を濃くしながらグリオスへ肩を押し付けてくる。
咄嗟にグリオスはエルジュを突き飛ばし、すかさず距離を取った。
「やめろ、俺に色目を使うな! お前が何をしても俺はなびかないからな。無駄なことはするな」
もし他の者ならば、美貌と強さに溢れたエルジュに言い寄られてしまうと、男女問わずに欲情を覚えて誘いに乗っただろう。
しかしグリオスは物心ついた頃からエルジュとともにいたせいか、彼の色香に免疫があった。どんな色仕掛けをしても誘惑に負けることはない。通常の状態ならば――。
「つまんないの。オレ、ちょっとその気になったから、体が疼いちゃったんだけど……あ」
突然エルジュが立ち止まって前を指さす。
つられてグリオスも足を止めて前方を見れば、そこには薄水色した半透明のスライムがプルプルと体を揺らしていた。
二人に気づいたスライムが体から触手を数本出し、鞭をしならせるように虚空を鋭く叩く。明らかな威嚇行動。グリオスはすぐに剣を抜いて構える。
魔物の中では最弱。幾多の戦闘をこなしてきた二人ならば余裕の相手。
ふとグリオスの視界の脇で、エルジュが頬に人差し指を当てて「んー……」と思案する姿が映る。
そして、ふらりとエルジュの体が揺れたかと思えば、吸い寄せられるようにスライムへ近づいていく。
腰の剣は鞘に挿したまま。
麗しい顔はどこかうっとりして、頬は紅潮している。
ヤバい! と思った瞬間、グリオスはスライムとエルジュの間に割って入り、両手を広げてエルジュの動きを制する。
無防備な背中を見逃すほど、スライムは愚鈍ではなかった。
「バカッ、変な気を起こすなエルジュ! いくら最弱スライムでも、捕まったら――うわっ!」
にゅるり。グリオスの体にスライムの触手が無遠慮に絡まる。
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