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VSインキュバス
夢と追憶
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朝からの不機嫌をどうにかしようと機嫌を取り続けるエルジュへ、グリオスは背を向けたまま口を開く。
「……本当に、もうやらないんだな?」
「うん……っ。絶対に無茶な抱き方はしないし、素のグリオスに無理強いはさせないから」
「約束できるか?」
「約束する! だから許してグリオス!」
……許すも何も、もう今さらなんだがな。
心の中でため息をついてからグリオスは寝返りを打ってエルジュに体を向けると、コツッ、と軽くエルジュの頭を小突いた。
「分かったから……もう騒ぐな。さっきから体が気だるくて眠りたいんだ。お前に回復してもらっていたが、疲労は蓄積されたままだから……少し休ませてくれ」
「じゃあオレは外で時間を潰してくるよ。何か欲しいものとかある? 探して買ってくる」
「それなら……新しい地図と、荷袋と非常食を……森に、落としてきたから――」
グリオスの声が急速に小さくなり、不明瞭で言葉がうまく聞き取れないものになっていく。
ああ、体が眠りを欲している。
急に強まった眠気に抗えず、グリオスは意識を手放した。
闇に溶けた瞬間、グリオスの視界に懐かしい景色が広がる。
緑に囲まれた簡素な村。
物はなかったが、世界を知らない子供にとって遊びに事欠かない場所。
子供が少ない村で四歳離れた幼馴染は、グリオスにとって貴重な遊び相手だった。
『グリオスー、肩車してー! あそこの木に実が成ってるの! 一緒に食べようよー』
物心つく前からエルジュはグリオスに懐き、ずっと後ろをついて回った。
よそ者が村に来てエルジュを見れば、誰もが女の子と勘違いし、その麗しさに相貌を崩していた。
大きな瞳の、無垢で愛らしい神の使いのようなエルジュ。
あまりの可愛さに良からぬことを考える輩も現れたが、見た目からは考えられないほどエルジュは強かった。
何度も人買いに狙われ、攫われそうになったが、光の魔法と剣でいつも返り討ちにしていた。
いつもニコニコと笑いながら、エルジュは普段の遊びの延長をするかのように自分を狙う輩を撃退していた。
村の誰もが『この子は生まれながらの勇者だ!』と感心し、まったく相手にならない存在を平然と追い返す姿に末頼もしさを覚えていた。
だが、常に隣にいたグリオスだけは気づいていた。
力も容姿も普通ならば見なくても済む世の中の汚いものや、腹立たしいものを見せつけられて、エルジュが心を冷ややかにして傷ついていることを。
いつしかグリオスは剣を鍛え始めた。
それを見たエルジュは不思議そうに首を傾げていた。
『ねえグリオス、どうして剣を始めたの?』
『……強くなりたいからに決まってるだろ』
何度も聞かれたが、返す答えはいつも同じだった。
『お前のために』という言葉はいつもつけず、説明足らずのまま――。
「……本当に、もうやらないんだな?」
「うん……っ。絶対に無茶な抱き方はしないし、素のグリオスに無理強いはさせないから」
「約束できるか?」
「約束する! だから許してグリオス!」
……許すも何も、もう今さらなんだがな。
心の中でため息をついてからグリオスは寝返りを打ってエルジュに体を向けると、コツッ、と軽くエルジュの頭を小突いた。
「分かったから……もう騒ぐな。さっきから体が気だるくて眠りたいんだ。お前に回復してもらっていたが、疲労は蓄積されたままだから……少し休ませてくれ」
「じゃあオレは外で時間を潰してくるよ。何か欲しいものとかある? 探して買ってくる」
「それなら……新しい地図と、荷袋と非常食を……森に、落としてきたから――」
グリオスの声が急速に小さくなり、不明瞭で言葉がうまく聞き取れないものになっていく。
ああ、体が眠りを欲している。
急に強まった眠気に抗えず、グリオスは意識を手放した。
闇に溶けた瞬間、グリオスの視界に懐かしい景色が広がる。
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『グリオスー、肩車してー! あそこの木に実が成ってるの! 一緒に食べようよー』
物心つく前からエルジュはグリオスに懐き、ずっと後ろをついて回った。
よそ者が村に来てエルジュを見れば、誰もが女の子と勘違いし、その麗しさに相貌を崩していた。
大きな瞳の、無垢で愛らしい神の使いのようなエルジュ。
あまりの可愛さに良からぬことを考える輩も現れたが、見た目からは考えられないほどエルジュは強かった。
何度も人買いに狙われ、攫われそうになったが、光の魔法と剣でいつも返り討ちにしていた。
いつもニコニコと笑いながら、エルジュは普段の遊びの延長をするかのように自分を狙う輩を撃退していた。
村の誰もが『この子は生まれながらの勇者だ!』と感心し、まったく相手にならない存在を平然と追い返す姿に末頼もしさを覚えていた。
だが、常に隣にいたグリオスだけは気づいていた。
力も容姿も普通ならば見なくても済む世の中の汚いものや、腹立たしいものを見せつけられて、エルジュが心を冷ややかにして傷ついていることを。
いつしかグリオスは剣を鍛え始めた。
それを見たエルジュは不思議そうに首を傾げていた。
『ねえグリオス、どうして剣を始めたの?』
『……強くなりたいからに決まってるだろ』
何度も聞かれたが、返す答えはいつも同じだった。
『お前のために』という言葉はいつもつけず、説明足らずのまま――。
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