そこにワナがあればハマるのが礼儀でしょ!~ビッチ勇者とガチムチ戦士のエロ冒険譚~

天岸 あおい

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VSインキュバス

夢の浸食者

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 ――パチンッ。
 突然指を鳴らす音が響き渡る。

 その瞬間、郷愁を覚えながらグリオスが眺めていた景色が変わる。

『アァ……ッ、エ、ルジュぅ……あっ、ぁ……んっ、ぁぁ――』

 聞きたくもない自分の喘ぎ声。頭を振り回しながら腰を踊らせるグリオスを、満面の笑みで下から穿つエルジュ。

 今寝泊りしている部屋での営み――未だ鮮明に記憶と体に刻まれた昨日の出来事。

 こんなものを夢にまで見るなんて……。
 体だけでなく心の底まで淫らな毒に侵された気分になり、グリオスはこの場から消えてしまいたい衝動に駆られる。

 顔を背けようとしても、目に合わせて見たくもない情事の光景もともにズレて、結局真正面から見る形になってしまう。
 夢が見せつけてくる事実から逃れられなくて途方に暮れていると、

「ふーん。男が喘ぐ姿なんて萎えるだけだと思ってたのに……これはこれでアリだな。充分にそそられるなあ」

 背後から耳元で誰かが囁く。
 低くて柔らかい声色。どこか甘い響きを含んでいて、グリオスの全身がざわつき、腰が砕けそうになる。

「だ、誰だ……っ!」

 慌てて距離を取りながら振り向けば、そこには見慣れぬ男が浮かんでいた。

 凛々しい顔立ちの優男だった。
 腰まで伸ばされた紫がかった髪は見事な巻き毛だった。切れ長の涼やかな目に宿した瞳も紫で、緩やかに微笑む顔は色香に溢れていた。

 背は高く、長身からすらりと伸びた四肢も、服の上からでも分かる引き締まった体もたくましい胸も、どんな女性も虜にしそうな蠱惑の気配を漂わせていた。

 ――いや、虜にされるのは女性だけではない。
 彼の妖しい眼差しを受け止めてしまうと、男性であっても胸が甘くざわつく。

 魔物を知らぬ市井の者なら、もう彼に心を奪われ、何をされても悦びを覚えてしまうだろう。

 しかしグリオスは体のざわつきを覚えながらも心を引き締め、彼を睨みつける。

 男は背に大きな蝙蝠のような翼を生やし、腰から黒い紐のようなものを伸ばし、その先端に矢尻のようなものを付けていた。ピコ、ピコ、と揺れるそれは、どこか上機嫌そうに見えた。

 淫らな夢に、人を惑わす容姿の人外。
 彼の正体に気づいてグリオスは顔をしかめた。

「インキュバスか……淫靡な夢を見せて俺を誘惑しているつもりか? 生憎だがこんなものを見せられても腹が立つだけで、欲情すら覚えないからな」

 吐き捨てるように告げたグリオスへ、インキュバスは肩をすくめる。

「誘惑? わざわざ他の男に抱かれている夢を見せたところで、俺にはなんの恩恵もないんだがなあ。俺は単に、違うものを見たいと思って夢を変えただけ。これはお前が心の底で望んで見ている夢だ」

 真っ直ぐに見据えながらインキュバスが断言してくる。
 弾かれたようにグリオスは首を振り、剣を抜こうと腰に手を運ぶ。

 ――だが夢の中では剣を挿しておらず、グリオスの指は虚空を掻くだけだった。
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