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VS魔王
仕組まれていたもの2
しおりを挟む男が破願して笑ったかと思えば、不意に笑みを消す。
そっと魔王の目元を手で覆い隠した直後、彼は背中からバサリと翼を出した。
大きく横に広がった、羽のない黒き翼。
妖しく笑う紫の目。
一度その視線に絡め捕られてしまえば、もう足掻けない。
グリオスの体が小さく震え出す。それに気づいた男は見逃すはずもなく、より一層眼差しを淫らにしてグリオスを見据える。
「――既に手は打たせてもらった。堕ちろ、グリオス」
名を呼ばれただけでグリオスの体が疼き、火照り出す。
力が抜けてその場へ膝を着けると、異変に気付いたエルジュが顔色を変えてしゃがみ込み、グリオスを心配そうに覗き込んだ。
「グリオス、どうしたの……っ! 攻撃なんてされていないのに……」
「お前の浅はかさを利用して、この者の中に淫呪の種を埋め込ませてもらった。健気にお前を庇うこの男の中には、今までの魔物たちが淫らに堕とす種を少しずつ埋めるよう仕向けていた……我がインキュバスの秘儀だ」
言いながら男――インキュバスは指先で小さなものを摘まみ、見せてくる。
あまりに小さな半透明の粒。薄紅色がほんのりとついている。一見すれば可憐な色付きの真珠に見えるが、身悶えたくなるのを堪えながら目を向けるグリオスには、視界に入れただけで劣情を掻き立てられてしまう。
「ぅぅ……そ、んな物……っ、もらった覚えなど……っ」
「これは体液に塗れると溶けてなくなり肌に浸透していく。そして体の奥へと溜まり、淫らな魔へと生まれ変わる準備が整う」
「ふざけるな……っ、俺はそんなものには成り果てない! 変わってしまうぐらいなら、いっそ――」
「俺の声には逆らえんぞ。さあ眠れ、グリオス。夢の中でお前を我が眷属に仕上げてやろう。たっぷりと俺の精を注ぎ、種を芽吹かせようではないか」
ぞわり、とグリオスの背筋に悪寒が走る。
しかし同時に体の芯が、頭の奥が甘く痺れ、快楽に蕩けそうになる。
グリオスの体が崩れ落ちかけた時、エルジュが咄嗟に腕を伸ばして抱き留めた。
「嫌だ、グリオス! やっとグリオスの本音が聞けたのに、こんなヤツに横取りされるなんて――」
……いつ俺はエルジュに本心を語った? 絶対に言うまいと決めていたのに。
切羽詰まったエルジュの声を聞きながら、グリオスは強い眠気に抗えず意識を手放した。
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