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三話 逃れられぬ世界

疲労と怒りと不気味さと

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   ◇ ◇ ◇

 ゲームを切り上げて専用のゴーグルを外せば、俺は天井を仰いでいた。

 あぐらをかいて座った状態で始めたのに、いつの間にか体を倒してしまっていたとは……。

 体を起こそうとした瞬間、あまりの気だるさで驚いてしまう。
 まるで全身運動をし続けて疲弊したかのうような状態。とにかく体が重たくてたまらない。

 試合で疲れたからか? ――いや、ここまで酷いのは初めてだ。

 原因はなんだ?
 仰向いたまま頭を抱え、しばらく考え、そして「あ……」と思い至る。

「まさか……さっきまでのアレか……」

 つい直前まで、華候焔に延々と抱かれていた。
 俺の意思を無視して、体のあちこちの筋肉が悦び、数えきれないほどピクン、ピクンと脈打っていた。何かされる度に筋肉が跳ねて、体の中まで弾けて――。

「――……ッッ」

 生々しい感触を思い出してしまい、俺は全身を熱くしながら叫びそうな口を塞ぐ。

 ゲームの世界で抱き潰された反動が、こんな形で現実に出てくるなんて。

 確かにこれならゲームをし続けても体は鈍らないかもしれない。
 だが、もう駄目だ。またこんな目に遭ったら、俺は――。

 体にまとわりついてくる恥辱の記憶から逃れようと、何度も首を振って足掻く。
 それでも消えるどころか記憶は鮮やかによみがえる一方で、俺の怒りに火がついた。

 ゲームのキャラに腹を立てても仕方がない。
 悪いのは、俺を騙してこのゲームへ誘い込んだ坪田だ。

 苛立ちのままに腹へ力を入れ、俺はどうにか上体を起こす。
 そして、まずはスマホを手にして電話しようとしたが、画面を見て固まる。

 ゲームを開始してから、まだ数分も経過していない。

 あれだけ何日も滞在していたというのに、実際は数分のできごと。

 怒りよりも驚きが上回り、俺は固まってしまう。

 ゲームの体感時間と現実の時間が、ここまで違うゲームなんてあるのか?
 まさか今までのはゲームではなくて、俺が夢を見ていただけなのか? 

 胸が嫌な動悸を覚える。
 手に冷や汗が滲み、坪田の連絡先に触れる指が情けなく震えた。

 トン、と通話を押して応じるのを待つが――いつまで経っても出てこない。

 俺を騙したという罪悪感や焦りで逃げているのだろうか。
 坪田がその気なら、俺は追いかけるまでだ。

 すぐに直接の連絡を諦め、柔道部の中で坪田とよくやり取りをしている同期への連絡に切り替える。

 今度はすぐに通話が繋がった。

『どうしたんだ、正代?』

「急に連絡して済まない。実は坪田と連絡を取りたいんだが、どうしているか知らないか?」

『坪田? そういえば、いつも連絡したらすぐに返信くれるのに、さっきから止まってるな……繋がったら教える』

 そう言ってくれた同期を信じて待つことにしたが――その日、返事をもらうことはなかった。
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