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三話 逃れられぬ世界

領民を取り立てての育成

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 信用があるとなれば、華候焔ほど頼もしい者はいないだろう。
 思わず華候焔の座っていた所を見つめていると、

「本当に大丈夫ですか、誠人サマー? 後で痛い目を見てもワタシは知りませんよー?」

 ビュンッ、と俺の目前に白澤が飛んできて声を潜ませる。
 ずっと心配させてばかりだと思いながら、俺は小さく笑いかける。

「華候焔は弱者を踏みにじることはしない男だ。だから今は大丈夫。信じて任せ問題ない」

「……誠人サマ、絆されないで下さいねー? 外から登用する将は、華候焔に限らず自分に利がないと分かれば、あっさりと手の平を返すものですからねー」

「ああ、分かっている。それは現実でもよくある話だ。雇われるメリットがなければ人は離れる。当然だ」

「分かってらっしゃるなら何よりですー。そんな誠人サマに耳寄りなお知らせをー」

 抑揚のある声で告げると、白澤は俺の耳元に近づいて囁き伝える。

「実は外部じゃなく、領民から召し上げて将に育てた者は、絶対に誠人サマを裏切りませんー。だって自分の故郷と家族を守ることになりますし、出世しますからねー。戦で使えるようになるまで時間がかかりますから、即戦力にはならないですけれど成長しますし、信頼の置ける将がいれば安心感が違いますよー」

「信頼か……どちらにしても優秀な人手は欲しい。英正を一人前に育てるのは急務だと思う」

「ええ! 治水や領土内が発展するよう指示を出した後、英正の育成をしていけばいいと思いますよー。英正の忠誠心は既にサイコー値ですから、大切な領主サマのためにと張り切ってくれますよー」

 白澤が嬉しそうにクルクルと虚空で回る。どうやら華候焔と違い、英正のことを気に入ってるらしい。

 軽そうな性格の割に、白澤は真面目で硬そうな者が好みなのだろうか。
 そんなことを思っていると、白澤が「あっ」と声を上げた。

「誠人サマー。英正がすぐ近くで控えてますよー。せっかくだからここへ呼びますか?」

「いや。もう食事は終わったから、俺が英正の所へ行く」

 俺は立ち上がり、部屋を出ようと靴を履く。
 そして南殿から伸びる階段を下りていくと、一番下の段の傍で跪いて控えている英正の姿があった。

「英正、おはよう。今日の予定は空いているか?」

「おはようございます領主様。はい、予定は問題ありません。いついかなる時でも、私の予定はすべて領主様を優先しますので……」

 自由奔放な華候焔と違い、英正は真面目の塊だ。
 領主と領民という関係を思えば、立場の違いは大きい。本来はこんな態度を取られるのが普通なのだろう。
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