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三話 逃れられぬ世界
次の戦は……
しおりを挟む「もう終わりか? まあ技なしなら、これぐらい戦えれば上等か」
軽く汗ばんだ額を拭いながら、華候焔がしゃがみ込んで俺を覗き込んでくる。
「誠人、お前は竹砕棍で技を磨け。熟練度を上げつつ体力をつければ、できることが増えるからな」
「……そうすれば、華候焔に本気を出してもらえるようになるのか?」
「少しは出るかもな。昼も俺を本気にしてくれるなら、願ってもないことだ」
華候焔がニヤリと笑い、無造作に俺の頭を撫でる。
……子供扱いか。
俺と華候焔の力の差を痛感して思わず顔をしかめてしまう。
そんな俺をあやすように、華候焔の手がポン、ポン、と軽く頭を叩く。
「期待してるぞ。もっと俺を熱くしてくれ」
戯れの言葉にどこか柔らかさが滲む。
本気で言っているのだろうかと思っていると、華候焔は立ち上がり、今度は英正に歩み寄る。
ジッと見下ろす華候焔を、英正が悔しげに睨む。二人がかりでも通じなかったことが悔しいのだろうが、それにしてはどこかヒリヒリとしたものが漂っていた。
「最初に俺を投げ飛ばしたのは驚いたが、まだまだ戦いに慣れていないな。英正はとにかく実戦を重ねないと――」
「……分かっています。そのために領主様と手合わせしておりました」
「今のままだとお前の経験は上がるが、誠人の経験が積まれない。釣り合いが取れん」
英正が悔しげに眉間にシワを寄せる。
言いたいことはあるが、完全な敗者が何を言っても惨めになるだけだと理解しているのだろう。英正は唇に力を入れて言葉を抑えているように見えた。
「俺のやるべきことはもう終えた。あとの時間は、お前のために割いてやろう。得意の武器を見つけて、技を仕込んでやる」
「華候焔様……ありがとう、ございます」
「悔しそうだな。誠人との時間を奪われるのが面白くないんだろ? 分かるぞ。俺も本音を言えば、お前よりも誠人を仕込むほうが楽しい。だが、そうも言ってられないんだ」
華候焔は腰を屈め、英正の胸倉を掴んで強引に立たせた。
「次の戦が迫っている。今度はお前にも戦ってもらわんと困るんだ。囮じゃなく、一将として兵を率い、敵将を討ってもらうぞ」
初耳のことに俺は目を見開く。
「待て、次の戦だなんて聞いていないぞ」
「さっき知らせが来たところだ。だからここへ来たんだ……時間がない。行くぞ英正」
事態を知り、英正の顔つきが変わる。私情を捨て、戦いに心が切り替わった気配が伝わってくる。
英正は自らの足をしっかりと地に着け、華候焔へ手と拳を合わせ拝礼した。
「私のような者のために、ありがとうございます! 次の戦、必ず領主様のお役に立ってみせます」
「いい心がけだ。どれだけへばろうが、容赦はせん。死ぬ気で俺に食らいついて来い」
言いながら立ち去ろうとする華候焔へ、俺は「待ってくれ」と呼び止める。
「次の戦、いつから始まるのだ?」
「明日だ」
「「え……っ!」」
俺と英正の動揺の声が重なった。
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