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四話 追い駆ける者、待つ者

裏切り常習犯の策

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   ◇ ◇ ◇

 鍛錬を終え、夕日が山々へ呑まれそうな頃、俺は領主の間に将たち――まだ三人しかいないが――を集めた。

 肘掛けが龍を模した中華風の椅子に座った俺の前に、華候焔、顔鐵、英正が跪いて並ぶ。

 仰々しくて落ち着かないが、ゲームとはいえ領主という立場である以上は仕方ない。

 ひとまず「頭を上げてくれ」と頼み、三人の顔を見交わしながら尋ねる。

「明日に戦が起きると話は聞いたが、詳細を教えてくれないか?」

 俺の問いに答えたのは華候焔だった。

「兵の数はおよそ三千。名のある将はいないようだが、前の戦よりも人数を増やし、より数で攻める作戦かと……」

「では今回は五百対三千なのか。勝機はあるのか?」

「それに関しては朗報がある。昨日の捕虜兵でこっちについてくれる者たちが二百、戦の勝利でこの領土へ移り住んだ兵になれる者が百。合わせて俺たちの兵力は八百だ」

「兵が増えたのはありがたいが、焼け石に水のような……先の戦で兵たちは疲弊しているだろう。人数が多くても、前よりも不利な気がする」

「よくお分かりで。まともに戦えば負ける。だから今から計略を仕掛ける必要があるかと」

 華候焔の話に、顔鐵が苦笑を浮かべる。

「華候焔よ、言っていることは分かるが、軍師がおらぬのに戦況をひっくり返せる計を打ち出せるのか? 貴殿の強さは疑う余地はないが、智略はまた別。敵には軍師級の将がいるぞ」

「軍師級? 軍師にはなってないのか?」

 首を傾げた華候焔へ顔鐵が頷く。

「あっちに居た時、噂は聞いていた。名は才明……智力の高さは群を抜いている。だが性格に難ありらしく、無茶な条件を出されて軍師には取り上げなかったらしい」

「ふぅん。厄介でも手元には置きたいということか……誠人様、ひとつ策を提案する」

 華候焔の策?
 話を振られ、俺は短く頷いた。

「どんな策だ、華候焔?」

「今から彼の者の元へ行き、我が陣営に引き抜いてはいかがかと」

「寝返らせるというのか? しかし、圧倒的不利だというのに、こちらへなびくとは思えないぞ」

「そこは賭けになるが、軍師級の人材は欲しいところ。勧誘に応じなければ、さらってきて相手に寝返ったと誤解させ、我が陣営のために戦わざるを得ない状況を作れば、こちらの思うつぼ」

 ……さすが裏切り常習犯だ。俺や英正ではまず考えない。顔鐵も思いつかない人種らしく、驚きを隠さず華候焔を凝視している。

 ひとり王道を行かぬ華候焔は、さらに話を続ける。

「これより闇に紛れ、才明の所へ誠人様をお連れする。俺がいれば、最悪敵兵に見つかっても守り抜ける。領主の器を見せ、軍師として登用を持ちかけ、離反させましょうぞ」

 
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