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六話 将の育成は体を張って
心底それを望む者
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「才明、話が――」
女官から才明が書庫にいると聞いて中へ入ると、そこには才明の他に一人の青年が立っていた。
やや小柄な体つき。文官の服をまとって華奢な印象を受けるが、姿勢が非常に良く、武の覚えがある気配を漂わせている。
俺に気づいて二人がこちらを見た時、青年の顔が認識できず、一瞬たじろいでしまう。
そんな俺を見て才明が仰々しく両手を広げ、歓迎の色を見せた。
「誠人様、ちょうどいい所に来て下さいました! 新しい武将を育てたいので、ぜひ彼に名前をお与え下さい」
「まさか……羽勳の相手をするための将、か?」
「その名を知っていらっしゃるということは、お会いになられたようですね」
「ああ。夜の相手をさせるための将など俺は認めない」
勝つために必要ならば、俺が負担すればいいだけのこと。
人を狂わせてしまうほどのことをされると思うと、背筋の悪寒が止まらなくなる。だが誰かを犠牲にするよりもマシだ。
俺が覚悟を決めていると、才明は小さく吹き出した。
「フッ、臣下を大切に思って下さるのは嬉しい限りです……しかし、もし彼がそれを望んでいるとしたら?」
「……なんだと?」
「男を切実に欲する者を選び、将にするのですよ。抱き狂わす男には、抱かれ狂わす者が相応しい……彼にとっては数多の快楽を得ることが褒美。誠人様の負担も減り、彼は喜ぶのですから、いいことだと思いませんか?」
顔があやふやなせいで彼の言葉は分からない。
しかし何度も大きく首を縦に振っており、そこからは嫌々我慢している気配は微塵も感じられなかった。
い、いいのか? 本当にそれが望みなのか?
俺は戸惑いつつも、彼のために名前を考える。
「正直、気は引けるんだが……名前は表涼で」
名付けた瞬間。ぼやけていた顔の部分が鮮明になる。
とてもさっぱりとして涼やかな顔だった。腰まで伸びた艶やかで真っ直ぐな黒髪。何も知らなければ、文官らしく淡々とした理性的な青年に見える。
しかし微笑んで目を細めた途端、表涼から色香が漂う。
同性だと分かるのに男を誘うような気配を覚え、俺は思わず一歩後ずさった。
「名前を与えて頂き、ありがとうございます。この表涼、誠人様のために喜んでこの身を使いましょう」
顔がはっきりしたせいで表涼の本心が伝わってくる。
嬉々とした声。輝く表情――心底自分に与えられる役目に歓喜していた。
「……本当にいいのか?」
「いいも何も、私が相手をすると良過ぎるようで、普通の者ではすぐ満足して果ててしまうのですよ。どれほどの相手なのか……楽しみで仕方ありません」
女官から才明が書庫にいると聞いて中へ入ると、そこには才明の他に一人の青年が立っていた。
やや小柄な体つき。文官の服をまとって華奢な印象を受けるが、姿勢が非常に良く、武の覚えがある気配を漂わせている。
俺に気づいて二人がこちらを見た時、青年の顔が認識できず、一瞬たじろいでしまう。
そんな俺を見て才明が仰々しく両手を広げ、歓迎の色を見せた。
「誠人様、ちょうどいい所に来て下さいました! 新しい武将を育てたいので、ぜひ彼に名前をお与え下さい」
「まさか……羽勳の相手をするための将、か?」
「その名を知っていらっしゃるということは、お会いになられたようですね」
「ああ。夜の相手をさせるための将など俺は認めない」
勝つために必要ならば、俺が負担すればいいだけのこと。
人を狂わせてしまうほどのことをされると思うと、背筋の悪寒が止まらなくなる。だが誰かを犠牲にするよりもマシだ。
俺が覚悟を決めていると、才明は小さく吹き出した。
「フッ、臣下を大切に思って下さるのは嬉しい限りです……しかし、もし彼がそれを望んでいるとしたら?」
「……なんだと?」
「男を切実に欲する者を選び、将にするのですよ。抱き狂わす男には、抱かれ狂わす者が相応しい……彼にとっては数多の快楽を得ることが褒美。誠人様の負担も減り、彼は喜ぶのですから、いいことだと思いませんか?」
顔があやふやなせいで彼の言葉は分からない。
しかし何度も大きく首を縦に振っており、そこからは嫌々我慢している気配は微塵も感じられなかった。
い、いいのか? 本当にそれが望みなのか?
俺は戸惑いつつも、彼のために名前を考える。
「正直、気は引けるんだが……名前は表涼で」
名付けた瞬間。ぼやけていた顔の部分が鮮明になる。
とてもさっぱりとして涼やかな顔だった。腰まで伸びた艶やかで真っ直ぐな黒髪。何も知らなければ、文官らしく淡々とした理性的な青年に見える。
しかし微笑んで目を細めた途端、表涼から色香が漂う。
同性だと分かるのに男を誘うような気配を覚え、俺は思わず一歩後ずさった。
「名前を与えて頂き、ありがとうございます。この表涼、誠人様のために喜んでこの身を使いましょう」
顔がはっきりしたせいで表涼の本心が伝わってくる。
嬉々とした声。輝く表情――心底自分に与えられる役目に歓喜していた。
「……本当にいいのか?」
「いいも何も、私が相手をすると良過ぎるようで、普通の者ではすぐ満足して果ててしまうのですよ。どれほどの相手なのか……楽しみで仕方ありません」
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