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十二話 真実に近づく時
境目の壁
しおりを挟む馬で半刻もかからない森の中、俺たちは侶普が灯した手持ちの油灯の明かりと、背中だけを頼りに入っていく。
白鐸は目立つからという理由で置いてきた。多少離れても俺を守れるからと、意外にも聞き分けは良かった。
森は深く道も消え、途中で馬を置く。
草木を掻き分けて進んでいくと、高く反り立つ壁が現れた。
蔦が生え茂ってはいるが、一箇所だけアーチ状の門の形をした所がある。蔦どころか苔も生えず、しかし石が組まれた壁しかなく、行き来できる穴は開いていない。
「侶普、これはいったい?」
壁を見上げながら尋ねると、侶普は俺に振り返った。
「ここが、この世界の境目です。真の身体を持たぬ我々は、この世界を抜け出すことはできません。しかし――」
おもむろに侶普は腰を弄り、何か筒のようなものを抜き取り、油灯とともに手渡してきた。
「これは?」
「望遠鏡です。誠人様は自らの肉体のまま、こちらにいらっしゃっている。だから貴方様だけはこの世界の向こう側に行くことができます。どうぞその目でお確かめ下さい」
ドクン、と胸が跳ねる。
この世界の向こう側? 何があるというんだ?
未知への不安と、妙な高揚感で身体の芯が熱くなる。
俺が動き出すより先に、才明と英正が俺の前に立った。
「念のため、本当に誠人様しか行けないのか、試させて頂いてもよろしいですか?」
油灯の明かりがぼんやりと照らす才明の顔は、穏やかに微笑みつつ、歓喜に唇を歪めている。知りたくてたまらない。できれば自分の目で確かめたい、という興奮が伝わってくる。
「侶普様の言葉を疑う訳ではありませんが、少しでも誠人様に何事もないよう、確かめさせて下さい」
英正は真剣な表情で、侶普を射抜くように見据えている。純粋に俺のことを考えているのが伝わってきて、その忠臣ぶりがありがたい。
侶普は顔を曇らせながら短く頷いた。
「ああ、構わない。だが試すのは腕だけにしたほうがいい。顔を突っ込めばどうなるかは試したことがない。もしかすると消滅するかもしれん」
消滅だと!?
思わずギョッとなり俺と英正は目を見張る。
ただ一人、才明は興味深そうに唸ると、一歩壁に近づいた。
「ふむ。誠人様は大丈夫で、我々は通れない。偽りの身体だから……まだ勝ち残っている領主だけに許された特権、ですか」
くるりと侶普に振り返り、才明が壁を指差す。
「この蔦が生えていない所に手を当ててみればいいのですか?」
「押せば分かる。痛みはないが、あまり長くやりすぎると腕を無くすかもしれん」
侶普の忠告を聞き、才明は「気をつけますね」と言いながら、躊躇なく壁に手を伸ばす。
触れた瞬間、才明の手が消える。
ゆっくりと前に腕を突き出していけば、壁に呑み込まれるように腕は消え、才明が壁に刺さったような姿になっていく。
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