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十二話 真実に近づく時

心を煽られても

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「何者だ!?」

 俺は背中に挿していた竹砕棍を抜き取り、構えを取る。
 他の皆もそれぞれに得物を持ち、木の上の男に険しい目を向ける。

 一対多数であるというのに、男は怯むことなく手をヒラヒラと振った。

「オレは……昂命とでも名乗っておこうかな。この世界の管理人。オレが世界の理だよ」

 昂命の視線が俺を射抜いてくる。
 その瞬間、ざわり、と俺の背筋に悪寒が走った。

「まったく、騙され続けている馬鹿のクセに、余計なことばかりして……オレとしては目障り極まりないんだけどね」

 表情だけはにこやかで友好的だが、言葉と空気は不穏だ。俺を敵視していることがうかがえる。

 そして『至高英雄』の管理人――つまり彼が、この世界を作った者なのだろうか? 東郷さんが捕らえろと言っていたのは、昂命のことなのか?

 目まぐるしく頭を働かせる俺の前に、それぞれ剣を手にした華侯焔と英正が立ち臨む。

「俺の誠人を燃やそうとした罪は重いぞ。ケンカしてやるから降りろ。ブチのめしてやる」

「私の主を愚弄したこと、取り消して頂きます」

 相手が動くよりも前に、二人が動き出す。

 先に華侯焔が駆け、高々と跳躍する。昂命よりも上を跳んで剣を振り下ろす。

 こちらにまで風が届きそうなほどの素早い振り。
 しかし昂命は柳がなびくが如く、柔らかな動きで攻撃を避け、木の下へと降りる。

 少し遅れて走り出していた英正が、昂命を正面に捕らえ、剣を手にした腕を大きく引く。

 そうして突き出した剣は渦を生み、昂命の身体を貫かんとする。
 躊躇のない突き。鬼気迫る剣気に俺が呑まれそうだ。

 剣が届きかけた瞬間、昂命の身体が揺れる。
 気づけば英正の前に姿はなく、その姿を見失う。

 どこにいった?
 今まで戦ってきた中で、こんなにも気配を感じない者は初めてだ。

 倒そうという闘志も、殺気も、俺たちに抱いていない。それでいて目にはハッキリと敵意を浮かべている。

 掴みどころがなくて厄介な相手。
 しきりに辺りを見渡していると――。

「プレイヤーを燃やすだなんて、あの人に怒られてしまうよ。大切な餌で、労働力で、オモチャ。オレはただ結界の綻びを閉じただけ」

 俺の隣から昂命の声がして、思わず跳び退く。

 距離を取った俺に、昂命が嘲笑を浮かべた。

「ハハ、情けないなあ。オレのことビビってるの? 勇敢な見た目なのに、中身は可愛いな……大切に愛でられてるもんなあ。領主というより姫だもの」

 俺の状況を知っている。頭では割り切っていることなのに、いざ他人から指摘されると羞恥で我を忘れそうになる。

 おそらく、これが昂命のやり方。心を乱されてたまるか。
 俺は深く息を吸い込み、理性を掻き集めて昂命を見据えた。
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