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一章 若き薬師と行き倒れの青年

語らぬ素性2

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 いきなり何を言い出すのだろう。
 みなもは顔を上げてレオニードを見る。

「少なくとも敵ではないけど……俺を疑ってるの?」

「助けてくれた恩人に、こんなことを言うのはどうかと思うが――」

 レオニードが真っ直ぐな視線をみなもへ送る。濁りのない瞳に自分の心を見透かされているような気がした。

「――どうして時折、仇を見るような目で俺を見ているんだ?」

 みなもは薬研を挽く手を止める。
 今まで作っていた人当たりのいい笑みは消え、冷え切った素顔が露になる。

「よく見てるね。侮れないな」

 立ち上がって枕元にあった椅子へ座ると、みなもは体を前に傾けた。

「知りたい、俺のこと?」

 みなもが眼差しを強めてレオニードを見つめる。一瞬彼は瞳を逸らしそうになったが、ぐっとこらえて視線を受け止めた。

「……何者なんだ、君は? 一体何を考えているんだ?」

「そう簡単に教えられないよ。貴方が俺に自分のことを隠したいように、俺にも人に知られたくないことがある。自分の手の内を見せないクセに、こっちには秘密を見せろだなんて、都合がよすぎるじゃないか」

 しばらく二人は口を閉ざし、互いを探るように視線を交わす。

 フッ、とみなもは薄く笑い、その場に張り詰めていた緊張をほぐした。

「まずは貴方のことを教えてよ。その後だったら、俺のことも好きなだけ教える」

「俺だけに話をさせて、君が話さない……ということも考えられるな」

 みなもは眉を上げながら肩をすくめる。

「そこは俺を信じて、としか言えないね」

 譲る気はない。みなもの意図が通じたらしく、レオニードは口元に手を置いて考え込む。それきり押し黙ってしまった。

 いきなり話す気にはなれないだろう。みなもは立ち上がり、レオニードへ背を向ける。

「少なくとも貴方を殺す気はないから、それだけは安心して。気が向いたら、いつでも言ってよ」

 そう言うと、みなもは薬研で新たに挽く薬草を取りに部屋を出ていく。

 少し歩いてからレオニードに聞こえないよう、ため息をついた。

(これで俺に興味を持ってくれて、北方の話を聞けたらいいんだけど)

 きっと彼をこのまま治療しても、知りたい話は聞き出せない。こちらに興味を持ってくれたのを利用して、北方の情報を聞き出したかった。

 もし話してくれなかったら、治療代として話せと言ってやろうか。あの強面の無表情を、困った顔にさせるのは気分がいい。

(嫌な性格してるな、俺)

 自分に呆れて、みなもは頭を掻く。

 机に置いてあった薬草を手に取り寝室へ戻ると、みなもと同じようにレオニードも困惑した顔で頭を掻いていた。
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