【TS転生勇者のやり直し！】『イデアの黙示録』～魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を逆に生きて絶対に勇者にはなりません！～

37. 疲労感

37.　疲労感



　とりあえずレオニードとの模擬戦を終わらせて、フレデリカ姫様のところに戻ろうとすると、クリスティーナさんから声をかけられた。

「あら。どこへ行くのかしら？まだ私との手合わせがあるでしょう？」

「えっ……本当にやるんですか？」

「当たり前じゃない。せっかくの機会ですもの。手合わせしない理由がないわ。というより、さっきのを見させてもらったけど、興味が湧いたわイデア？」

　そう言って彼女は木刀を手に取る。どうしよう……勝てる気がしないんだけど。興味が湧いたって……私はただレオニードの攻撃を防いでいただけなんだけどさ。

「イデア～！副団長殿を倒してみろ！」

「イデア。負けたら許しませんわよ！」

　そして私たちは訓練所の中心に移動する。周りには先程以上に大勢の騎士が集まっている。こんなに来ないでよ。しかもお父様もフレデリカ姫様もなんか勝手に盛り上がってるし。

「それではこれより、副団長とイデアによる特別試合を開始する。両者構えて……」

「ふふっ。なんか私。アウェイみたいね？」

　そう言ってはいるがクリスティーナさんには余裕が感じられる。その証拠に笑顔だ。これはまずいな……。私は緊張しながら剣を構える。

「はじめ！！」

　審判の騎士が合図をした瞬間、クリスティーナさんは一瞬で間合いに入り込み、鋭い一撃を放ってきた。速い！？レベル差もあるんだろうけど、レオニードよりも断然速く感じる。私は彼女の攻撃を受け止めるがあまりの一撃の重さに吹き飛ばされる。

「くぅう……重い……ですね」

「あら？イデアは軽いわね？ちゃんとご飯食べているのかしら？」

　そんな軽口を叩きながら攻撃を続ける彼女。これがこのローゼリア王国最強の女騎士の力……。

　その後もクリスティーナさんの猛攻が続く中、私は何とか耐えていた。でもこのままじゃ押し切られるのは時間の問題。なんとかしないと……。

「どうしたの？もう終わりかしら？」

「いえ。これからですよ……」

「そう？なら期待しているわよ」

　おかしい。クリスティーナさんのレベルは70。私のレベルは148あるはずなのに、なぜこんなにも私の方が押されてるのだろうか。クリスティーナさんの動きは確かに速いが、私の目でも追えないほどではない。

　現に今だって彼女の動きをしっかり捉えている。それにも関わらず私だけが一方的に攻撃を防ぎ続けているのだ。

　私は剣を握り直し再び戦闘態勢に入る。すると今までとは違う動きをする私を見て何かを感じたのか、クリスティーナさんも再び身構えた。

　私は大きく深呼吸をし、剣を構える。次の一撃で決める……！私がそう決心すると、それを見抜いたかのようにクリスティーナさんが攻撃を仕掛けてくる。だが、私はそれを難なくかわすと、そのまま一気に踏み込んで彼女に斬りかかる。

　そして―――。

　バキッ！！乾いた音が鳴り響き、それと同時にクリスティーナさんの持つ木刀……ではなく私の木刀が折れてしまった。

「あ。」

「あら？イデアの木刀壊れちゃったわね」

「あー……。すいません勝負の途中で」

「いいのよ気にしないで。それじゃこの勝負はお預けにしましょう。あなたとまた合間見える時が来るなら、決着はその時につけましょうね？」

　そう言ってクリスティーナさんは軽く微笑みながらその場を去っていく。これは引き分けってことでいいんだよね？私は急に力が抜けて、その場に座り込む。そして一気に疲労感が全身を襲う。この人生でここまで緊張したことはなかった。もう……絶対クリスティーナさんとは戦わないんだから！

　でも、前世でも強敵と戦ったあとはいつもこうだったよね……動けなくなるほどの疲労感を感じた時は、レオニード、アルフレッド、オリビアと何時間もそこで話したりしてさ。正直懐かしみたくないけど、この疲労感すら懐かしく感じる。心のどこかではあの頃に帰りたいと思っている自分がいるんだろうか……。