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56. 私は決意する。先輩は私のことを『嫌い』じゃないから ~夏帆視点~
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56. 私は決意する。先輩は私のことを『嫌い』じゃないから ~夏帆視点~
それは、先輩が実家に帰る前日の夜のことだった。私は自分の部屋に戻ると、重力に逆らえないかのようにベッドへと倒れ込んだ。体全体に、なんとも言えない寂しさがじんわりと広がっていく。部屋の空気はいつもと同じはずなのに、先輩がいないという事実を突きつけられ、ひどく冷たく感じた。
「忘れてたよ……明日から先輩いないのか……」
そう呟いて、私はスマホを手に取る。画面に浮かび上がったのは、今までやりとりしていた先輩とのLINEだった。
『今日はありがとうございました!楽しかったです!』
『明日もよろしくお願いします(^_^)』
『おやすみなさい大好きです先輩(^-^ゞ』
たわいもない、私からのメッセージの履歴。その文字をぼんやりと眺めていると、また深くため息がこぼれた。先輩がいない間、どうやって過ごせばいいんだろう。なんだか、時間が止まってしまったみたいに感じる。
先輩とは、私が実家に帰ったあの日を除けば、毎日一緒にいた。朝起きて、学校に行って、学校が終われば先輩の部屋へ直行する。他愛もないことをおしゃべりして、一緒に勉強して。たまにはお出かけして。そんな毎日が当たり前のように、先輩と私の時間で満たされていた。
私は、ふと初めて先輩と出会った日のことを思い出した。引っ越してきたばかりの、まだ慣れないこの場所で、一人きりの部屋に心細さを感じていた私。
窓の外に広がる見知らぬ景色は、私の不安をさらに煽っていた。そんな私に、先輩は優しい声で話しかけてくれてくれた。
『同じ学校なのか。どうせ暇だから、お前が良ければ好きな時に遊びにきてもいいぞ』
その時の、先輩の少し照れたような、それでいて優しい表情。あの言葉を聞いた瞬間、私の心はぱっと明るくなったのを今でも覚えている。
次の日、私は恐る恐る先輩の家を訪ねた。先輩は少し呆れた顔をしながらも、優しく私を部屋に招き入れてくれた。それから、毎日先輩の部屋に入り浸るようになった。最初は、こんなに毎日押しかけては迷惑かもしれないと不安に思っていたけど、先輩は何も言わなかった。いつも文句は言うけれど、その奥にはいつも暖かさがあった。
先輩との時間は、本当に楽しかった。先輩の部屋は、私にとって一番居心地のいい場所だった。先輩の部屋にある、私にとっては少しだけ古めかしい漫画や雑誌の匂い。その全てが愛おしくて、いつの間にか、私は先輩のことが大好きになっていた。もう、毎日一緒にいないと寂しくてたまらない。
「うぅ……寂しいよぉ……」
もう一度、声に出してしまった。こんなことを言ってもどうにもならないのに、気持ちが抑えきれない。このまま数日間、先輩と会えないなんて、耐えられない。
「私も……先輩の実家に行っちゃダメかなぁ……先輩怒るかな……怒るよね……」
心の中の私が、弱気なことを口走る。でも、すぐに先輩の顔が頭に浮かんだ。きっと最初は「はぁ?」って呆れるだろう。でも、最後にはきっと許してくれる。そんな先輩の優しい顔が目に浮かぶ。私は先輩と一緒にいたい。先輩の隣にいたい。先輩の声を一番近くで聞きたい。その顔を、ずっと見ていたい。その温かい手に、触れたい……
「はぁ……なんか私ってば、どんどん欲張りになってきてるなぁ……」
自分でも笑ってしまうくらい、たくさんの願いが心の中に渦巻いている。でも、この気持ちは嘘じゃない。本当に、心から神原秋人先輩のことが好きだから。それに、先輩は私のことを「ウザい」とか「面倒」とは言うけれど、「嫌い」とは一度も言ったことがない。
だから、ほんの少しだけ期待してしまう。
もしかして、先輩も私のこと……
「よしっ!」
私は勢いよくベッドから起き上がった。いつまでもウジウジしていても仕方ない。
「きっと怒られるだろうな。でも、会えないのは嫌だ。ワガママでもいい。私は、先輩と一緒にいたいから!」
そう決心すると、心の中にあった迷いがすっと消えていった。私はそのまま、押し入れからキャリーケースを取り出す。準備と言っても、着替えや歯ブラシ、あとは少しばかりのお菓子を詰めるだけだ。
せっかくだから、先輩のご両親にもちゃんと挨拶しよう。心臓がドキドキするけど、そんなことよりも先輩に会いたい気持ちが勝る。
こうして私は、押し掛け女房ならぬ、押し掛け彼女(仮)になることを決意したのだった。
それは、先輩が実家に帰る前日の夜のことだった。私は自分の部屋に戻ると、重力に逆らえないかのようにベッドへと倒れ込んだ。体全体に、なんとも言えない寂しさがじんわりと広がっていく。部屋の空気はいつもと同じはずなのに、先輩がいないという事実を突きつけられ、ひどく冷たく感じた。
「忘れてたよ……明日から先輩いないのか……」
そう呟いて、私はスマホを手に取る。画面に浮かび上がったのは、今までやりとりしていた先輩とのLINEだった。
『今日はありがとうございました!楽しかったです!』
『明日もよろしくお願いします(^_^)』
『おやすみなさい大好きです先輩(^-^ゞ』
たわいもない、私からのメッセージの履歴。その文字をぼんやりと眺めていると、また深くため息がこぼれた。先輩がいない間、どうやって過ごせばいいんだろう。なんだか、時間が止まってしまったみたいに感じる。
先輩とは、私が実家に帰ったあの日を除けば、毎日一緒にいた。朝起きて、学校に行って、学校が終われば先輩の部屋へ直行する。他愛もないことをおしゃべりして、一緒に勉強して。たまにはお出かけして。そんな毎日が当たり前のように、先輩と私の時間で満たされていた。
私は、ふと初めて先輩と出会った日のことを思い出した。引っ越してきたばかりの、まだ慣れないこの場所で、一人きりの部屋に心細さを感じていた私。
窓の外に広がる見知らぬ景色は、私の不安をさらに煽っていた。そんな私に、先輩は優しい声で話しかけてくれてくれた。
『同じ学校なのか。どうせ暇だから、お前が良ければ好きな時に遊びにきてもいいぞ』
その時の、先輩の少し照れたような、それでいて優しい表情。あの言葉を聞いた瞬間、私の心はぱっと明るくなったのを今でも覚えている。
次の日、私は恐る恐る先輩の家を訪ねた。先輩は少し呆れた顔をしながらも、優しく私を部屋に招き入れてくれた。それから、毎日先輩の部屋に入り浸るようになった。最初は、こんなに毎日押しかけては迷惑かもしれないと不安に思っていたけど、先輩は何も言わなかった。いつも文句は言うけれど、その奥にはいつも暖かさがあった。
先輩との時間は、本当に楽しかった。先輩の部屋は、私にとって一番居心地のいい場所だった。先輩の部屋にある、私にとっては少しだけ古めかしい漫画や雑誌の匂い。その全てが愛おしくて、いつの間にか、私は先輩のことが大好きになっていた。もう、毎日一緒にいないと寂しくてたまらない。
「うぅ……寂しいよぉ……」
もう一度、声に出してしまった。こんなことを言ってもどうにもならないのに、気持ちが抑えきれない。このまま数日間、先輩と会えないなんて、耐えられない。
「私も……先輩の実家に行っちゃダメかなぁ……先輩怒るかな……怒るよね……」
心の中の私が、弱気なことを口走る。でも、すぐに先輩の顔が頭に浮かんだ。きっと最初は「はぁ?」って呆れるだろう。でも、最後にはきっと許してくれる。そんな先輩の優しい顔が目に浮かぶ。私は先輩と一緒にいたい。先輩の隣にいたい。先輩の声を一番近くで聞きたい。その顔を、ずっと見ていたい。その温かい手に、触れたい……
「はぁ……なんか私ってば、どんどん欲張りになってきてるなぁ……」
自分でも笑ってしまうくらい、たくさんの願いが心の中に渦巻いている。でも、この気持ちは嘘じゃない。本当に、心から神原秋人先輩のことが好きだから。それに、先輩は私のことを「ウザい」とか「面倒」とは言うけれど、「嫌い」とは一度も言ったことがない。
だから、ほんの少しだけ期待してしまう。
もしかして、先輩も私のこと……
「よしっ!」
私は勢いよくベッドから起き上がった。いつまでもウジウジしていても仕方ない。
「きっと怒られるだろうな。でも、会えないのは嫌だ。ワガママでもいい。私は、先輩と一緒にいたいから!」
そう決心すると、心の中にあった迷いがすっと消えていった。私はそのまま、押し入れからキャリーケースを取り出す。準備と言っても、着替えや歯ブラシ、あとは少しばかりのお菓子を詰めるだけだ。
せっかくだから、先輩のご両親にもちゃんと挨拶しよう。心臓がドキドキするけど、そんなことよりも先輩に会いたい気持ちが勝る。
こうして私は、押し掛け女房ならぬ、押し掛け彼女(仮)になることを決意したのだった。
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