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4.別れの言葉は誰のため?
私の気持ち
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突然の告白は私を真っ白にさせた。
「ごめんね」
そう涼の口が動く。
「言うつもりはなかったんだ」
切なそうに笑う涼が月明かりに照らされて本当に綺麗だった。
そして、それだけを言って私から離れると、くるりと向きを変えた。暗闇に紛れるように、月の光が届かない場所まで行ったところで、もう一度私を振り返った。
「でも、言わなきゃって思ったんだ。とわを困らせるつもりなんてない。それでも、あのときと同じ後悔だけは嫌なんだ」
困らせてごめん、おやすみ。
そう言葉だけを残して涼は部屋から出ていった。
『好きだったよ、ずっと。悠里がとわに出会う前から。とわが悠里に恋する前から』
ずっと?
それはいつから?
悠里が、っていうのは白川と私が出会う前からというのを意味していて、それは八年前のあの夏よりも前ということになるよね。
となると、私はもっと前から白川家の人間に会っている──?
それも白川以外に、ということだ。
だけど、記憶上にはなかった、はず。
それに「あのとき」って?
涼……一体あなたは誰なの?
本当に謎多き人物は、怜や白川ではなく涼なのかもしれない。
それにしても──
肩に未だ涼の体温が残っている。
『あのとき、とわは悠里とどんな空を見たの?』
あの空。
とは言っても、それを思い出したところでどうにもならない。
だってきっと白川は覚えていないのだろうから。私とのあの夏の記憶はとうに捨てられてしまっているだろう。
──それでも、私は忘れないよ。
誰かに言うわけでもなくポツリと心にそう言葉を残した。
◇◇◇
それから、地球はとても速く回ったようで、学園祭当日へと日付を進めた。
その間、怜も涼も普通に接してくれたものの、どこかでは一歩置いたような感覚が二人からはとれた。
「ちゃんと遊びに来てよ?」
「分かってるって。言われなくても行くつもりだったし」
そう?、と沙良は笑ってクラスに戻っていった。
「とわ様、こちらも準備ができました」
「うん、今行く」
さて、今日は学園祭を楽しむとしますか!
狼煙が上がると咲坂の門が開く。
学園祭にやってくるのは家族だったり、また来年の入学希望者だったりする。
「来てくださるかしら」
「大丈夫ですよ。お茶会はレディーのたしなみですから」
三名、お客様がいらっしゃったわ。
入り口のほうから声が聞こえ、全員が背筋を伸ばす。
「いらっしゃいませ」
その声と共に、私のクラスは慌ただしく動き始めた。
・・・
「きゃっ」
キッチンから小さく声が上がった。
「どうしたの?」
「あ、とわ様」
彼女は割れたカップに目を落とした。ちょうど運ぼうとしていたのだろう。中身はしっかり床を濡らしていた。
「あらら。いいよ、下がってて。あとは私がやっておくから」
「そんな……とわ様にやらせるなんて」
「いいから。それより怪我はない?」
「は、はいっ」
それはよかった、そう言って割れたカップの片付けをしていると、まだそこにいたらしい。彼女は申し訳なさそうに口を開いた。
「あの……さっき溢してしまったお茶で紙が濡れて──」
顔を上げて彼女の持つ紙を見る。
あ……。
文字が霞んで見えなくなっている。
たしかその紙はお茶の入れ方や、お菓子の組み合わせを書いてるって言ってたな。
「私……みんなも覚えてなくて」
だよね、みんなずっとお世話係とか執事にやってもらってるんだもんね。
私も話し合いをまともに聞いていたわけじゃないから、朧気だし……。
「分かった。ちょっと図書室にいってくるよ。参考になる本はあるはずだし」
「でもっ」
「いいって。ちょっと抜けるってみんなにも言っておいて」
はい、と返事が聞こえるとそれに対して笑顔を向け、そっと教室を抜けた。
・・・
うわぁ、すごいね。
どのクラスも盛り上がっていて、きっとこれは翠澪との合同学園祭だからということもあるんだろう。もしかしたら来年の入学希望者は例年の倍になるかもしれない。
人、増えてきたな……
人混みを掻き分けるようにして図書室まで足を運ぶ。図書室は別館にあり、そこに着く頃には賑やかな声も聞こえなくなっていた。
図書室に入ると、そこはもう別世界のようで。ここには時間が流れていないんじゃないかって思えるくらい、静かで居心地がよくて。
休憩、ここに来ようかな。
休憩が入ったらきっと翔矢たちが私のもとへ来るんだろうけど、今は一人で考えたい。
私はどうしたいのか。
彼らの言葉にどう答えるのか。
白川のことは──
考えなければいけないことはたくさんあって、だけど彼らが帰る前には答えを出さなければならない。
「はぁ」
私の気持ちってどこにあるんだろう。
「ごめんね」
そう涼の口が動く。
「言うつもりはなかったんだ」
切なそうに笑う涼が月明かりに照らされて本当に綺麗だった。
そして、それだけを言って私から離れると、くるりと向きを変えた。暗闇に紛れるように、月の光が届かない場所まで行ったところで、もう一度私を振り返った。
「でも、言わなきゃって思ったんだ。とわを困らせるつもりなんてない。それでも、あのときと同じ後悔だけは嫌なんだ」
困らせてごめん、おやすみ。
そう言葉だけを残して涼は部屋から出ていった。
『好きだったよ、ずっと。悠里がとわに出会う前から。とわが悠里に恋する前から』
ずっと?
それはいつから?
悠里が、っていうのは白川と私が出会う前からというのを意味していて、それは八年前のあの夏よりも前ということになるよね。
となると、私はもっと前から白川家の人間に会っている──?
それも白川以外に、ということだ。
だけど、記憶上にはなかった、はず。
それに「あのとき」って?
涼……一体あなたは誰なの?
本当に謎多き人物は、怜や白川ではなく涼なのかもしれない。
それにしても──
肩に未だ涼の体温が残っている。
『あのとき、とわは悠里とどんな空を見たの?』
あの空。
とは言っても、それを思い出したところでどうにもならない。
だってきっと白川は覚えていないのだろうから。私とのあの夏の記憶はとうに捨てられてしまっているだろう。
──それでも、私は忘れないよ。
誰かに言うわけでもなくポツリと心にそう言葉を残した。
◇◇◇
それから、地球はとても速く回ったようで、学園祭当日へと日付を進めた。
その間、怜も涼も普通に接してくれたものの、どこかでは一歩置いたような感覚が二人からはとれた。
「ちゃんと遊びに来てよ?」
「分かってるって。言われなくても行くつもりだったし」
そう?、と沙良は笑ってクラスに戻っていった。
「とわ様、こちらも準備ができました」
「うん、今行く」
さて、今日は学園祭を楽しむとしますか!
狼煙が上がると咲坂の門が開く。
学園祭にやってくるのは家族だったり、また来年の入学希望者だったりする。
「来てくださるかしら」
「大丈夫ですよ。お茶会はレディーのたしなみですから」
三名、お客様がいらっしゃったわ。
入り口のほうから声が聞こえ、全員が背筋を伸ばす。
「いらっしゃいませ」
その声と共に、私のクラスは慌ただしく動き始めた。
・・・
「きゃっ」
キッチンから小さく声が上がった。
「どうしたの?」
「あ、とわ様」
彼女は割れたカップに目を落とした。ちょうど運ぼうとしていたのだろう。中身はしっかり床を濡らしていた。
「あらら。いいよ、下がってて。あとは私がやっておくから」
「そんな……とわ様にやらせるなんて」
「いいから。それより怪我はない?」
「は、はいっ」
それはよかった、そう言って割れたカップの片付けをしていると、まだそこにいたらしい。彼女は申し訳なさそうに口を開いた。
「あの……さっき溢してしまったお茶で紙が濡れて──」
顔を上げて彼女の持つ紙を見る。
あ……。
文字が霞んで見えなくなっている。
たしかその紙はお茶の入れ方や、お菓子の組み合わせを書いてるって言ってたな。
「私……みんなも覚えてなくて」
だよね、みんなずっとお世話係とか執事にやってもらってるんだもんね。
私も話し合いをまともに聞いていたわけじゃないから、朧気だし……。
「分かった。ちょっと図書室にいってくるよ。参考になる本はあるはずだし」
「でもっ」
「いいって。ちょっと抜けるってみんなにも言っておいて」
はい、と返事が聞こえるとそれに対して笑顔を向け、そっと教室を抜けた。
・・・
うわぁ、すごいね。
どのクラスも盛り上がっていて、きっとこれは翠澪との合同学園祭だからということもあるんだろう。もしかしたら来年の入学希望者は例年の倍になるかもしれない。
人、増えてきたな……
人混みを掻き分けるようにして図書室まで足を運ぶ。図書室は別館にあり、そこに着く頃には賑やかな声も聞こえなくなっていた。
図書室に入ると、そこはもう別世界のようで。ここには時間が流れていないんじゃないかって思えるくらい、静かで居心地がよくて。
休憩、ここに来ようかな。
休憩が入ったらきっと翔矢たちが私のもとへ来るんだろうけど、今は一人で考えたい。
私はどうしたいのか。
彼らの言葉にどう答えるのか。
白川のことは──
考えなければいけないことはたくさんあって、だけど彼らが帰る前には答えを出さなければならない。
「はぁ」
私の気持ちってどこにあるんだろう。
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