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42. 十一日目夜⑤

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 ハゲチャビンとなった観葉植物の向こうの壁までシウリールの手を引いて連れていく。なんなら腰を抱き寄せたかったが、さすがにあの男がこわかった。
 途中、すれ違う男達が、何度もシウリールに振り向くのが本当に気持ちよい。皆、シウリールに振り向いた後に、アストンに羨望の眼差しを送ってくる。
 これが本来あるべき形なのだ。
 
「君の気持ちはわかっている」

 壁にシウリールを押し付ける。
 アストンの両手も壁にあて、逃げられないようにした。
 壁ドンである。堂々たる壁ドンである。
 他に人がたくさんいるとか、強面の婚約者がいるとか、どうでもよかった。

「なんのことでしょう」
「隠さなくていい。僕は君をずっと探していたんだ」

 きょとんとしたシウリールの胸元に、赤いあざがあることに気づき、アストンはぎくりとした。よく見れば、化粧で隠してあるのが、首筋にもいくつも赤い跡がある。
 あれだけ妄想しておいてなんだが、妄想が現実の物になっていると、少しショックだった。

「僕というものがありながら、あの男に身体を許したのか」

 知らず語気が荒くなる。思わずシウリールの肩を掴んでいた。きっと、無理矢理されたとかそんな感じだろう。そう思わないと正気を保てないアストンである。
 
「アストン様はもう、私には興味はないのでは?」
  
 するりと、シウリールがアストンの腰に手をまわしてきた。
 
(やはり、シウリールの気持ちはまだ俺にある……!)
 
 さらに確信しつつ、先ほどまでシウリールの横にいた男の方をちらりと見る。男は他の客連中の相手で忙しそうだ。勝ち誇った気分で、さらにアストンはシウリールの耳元に囁く。耳たぶに唇がくっつかんばかりの近さで。
 
「君のことは今でも愛しているよ、シウリール」

 シウリールの細い指が、アストンの腰や、太もものつけ根を撫でまわす。
 アストンはなおさら確信した。
 ついに、ためていた力を使うときが来たのだ。
 まさに今夜。

「今夜から、あいつの代わりに僕が君を満足させてあげるよ。毎日、毎晩、飽きさせないさ」

 シウリールの、あごを掴み、軽く持ち上げる。唇を重ねようとしたその時。シウリールが指先で、そっと唇を押し返して拒む。

 その時のシウリールの瞳を、アストンは死ぬまで忘れられなかった。潤んだ琥珀色の瞳に浮かぶのは、憐憫と苦悩。

「アストン様、本当にありがとうございます。おかげで、私は私の目的を果たせるでしょう」

 その瞳が閉じるとともに、ぽろりと一筋、透明な雫が落ちた。
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