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15 茶色の魔法

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 ブリーゼさんが帰った後、私は物置部屋の木箱から本を取り出した。
 お父様とお母様が学園時代に使っていた教科書だ。
 学園入学まで後半年。
 魔法が使えないのは仕方ないけれど、せめて、勉強では落ちこぼれたくない。

 机の上の裁縫道具を片付けて、古い本を置いた。
 出来上がったばかりの紫のレース編みのリボンが、机の上から消えていることに気が付いた。
 今日一日、ずっと編んでいたのに……。
 でも、今はそれを探すよりも、勉強をしたかった。


 日が暮れて、マーサが夕食を持ってきてくれるまで、集中して文字を目で追っていた。

「お嬢様。晩ごはんを持って来ましたよ。一緒に食べましょう」

 台所に行くと、マーサがスープを温めてくれた。

「そうそう、お嬢様。さっき庭に毒紫蝶どくむらさきちょうが飛んでましたよ。追い払っておきましたけど、絶対に触っちゃダメですよ」

 毒紫蝶? もしかして、紫色の蝶のこと?

「綺麗な紫色の羽根をしてますけどね、鱗粉がつくとかぶれるんですよ。もうかゆくてかゆくて、血が出るまでかきむしってしまうんです。まあ、この家の中には魔物蟹がいるから入ってこないでしょうけどね。庭に出る時には、気を付けてくださいね」

 あの紫色の蝶って、そんな嫌な毒を持ってたのね。
 そう聞いたら、紛失したレース編みのリボンを探そうって気持ちはなくなった。もしかして、毒もうつしたりしてないよね?
 レース編みは刺繍とは違うから、大丈夫よね? 
 だって、編んでる間は、かゆくなったりしなかったもの。


「そうそう、今朝、売りに行った魔力蟹の糸。とっても太くて品質がいいから、高値で売れましたよ。今日は奮発して肉をたくさんスープに入れときましたからね。ごちそうですよ」

 にこにこして料理を盛り付けてくれるマーサを見ていると、自然に気持ちが浮かび上がる。マーサは平民だけど、もしかして、みんなを笑顔にする魔法が使えるのかもしれない。

「銀貨20枚にもなったんですよ! もっとないですか? どんどん買い取るって言ってたから、全部持っていきましょうよ。あの気持ち悪い魔物蟹も、いい働きをしましたよね。あははは」

「そうね、魔物蟹のおかげね」

 マーサがテーブルに積み上げた銀貨を見ていると、だんだん気分が上がってくる。

 私は色なしだけど、こうやってお金を稼ぐことができた。私は何もできない子供なんかじゃない。
 だから、お兄様が、私のためにブリーゼさんと結婚するのなら、それを止めないといけない。
 お兄様には、心から愛する人と幸せになってほしいから。

 そのためなら、王女様の侍女になって魔法学園に通うこともがんばれる気がする。
 私は、守られてばかりの、かわいそうな子供じゃないって、お兄様に分かってもらうために。

 今のままじゃ、ずっと、お兄様は私を心配して、私のために自分を犠牲にしてしまうから。
 私が望んでなくても、私のために自分の結婚に条件をつけたみたいに。

 大好きなお兄様のためにできること。

 王女様の侍女になって、学園に通おう。
 それで、私は一人でも大丈夫だって、安心してもらうの。

 マーサと一緒に、熱々の肉を食べながら、私はそう心に誓った。
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