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誘拐 3
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何が起こったのか一瞬わからなかった。わかるのは、自分の前に頼もしい背中があって、それが優太のものだということだけ。
「ちょ…っ!?」
「馬鹿だなー、お兄ちゃんの宝物に手を出すなんてさー。それ、すなわち死あるのみじゃんなー?」
すっと優太は笑顔のままバールを持ち上げ、青年を殴りつけた。何度も何度も躊躇もなく…。
「…っ、待って…優太…!」
「どうしたー?」
「もういい…、それ以上やったら死んーー…」
「別にいいんじゃない?」
にこやかに言って血塗れのバールを再び振り上げようとする優太に青ざめる。
このままでは、優太は二人は本当に殺してしまう気がした。いつもと変わらない笑顔にはアキに感じる渦巻くような狂気はない。だが、彼は冗談を言っていない。それだけはわかる。まるでそうすることが当たり前だと思っているかのように、悪意は全くなかった。
…止めなければ。
優太を人殺しにするわけにはいかない。
「お願い…、やめて…。ーーやめてよ、お兄ちゃん!」
風を切ったバールが青年に当たる寸前で止まる。
「真白?」
「もういい、もういいから…っ。それより腕が痛いんだ、縄、解いて?」
自分で言っててどうかと思うぐらい甘えた声でねだる。とにかく優太の暴走を止めるには意識を弟(仮)に向けさせなければと思った。
「俺の弟が可愛すぎる…。ごめんなー、痛かったなー、こんなにきつく縛って… 、血まで出てるし…」
落ちていたナイフで縄を切ってもらうとしびれていた指先に血が巡るのを感じた。
「早く帰って手当しないと」
痛々しそうに眉尻を下げ、優太は軽々と真白を抱き上げる。肩を貸してくれれば歩けると言っても聞いてもらえなかった。
…木津、生きてるかな?
青年は呻いているから生きていそうだが、木津は人の体から聞こえてはいけない音がした。
早く救急車を呼ばないと。でも、そうしたら優太がここにいるのはまずい。返り血がついているし、真白がやったと言っても彼の方に目が行きそうだ。
そんなことを うじうじ考えながら外に出ると、すっかり日が暮れて辺りは暗くなっていた。
駐車場らしき場所まで来て、ようやく下に降ろう。寒いぐらい風が吹き抜けて沸騰し掛けていた頭が冷める。
「何を考えているかは大体分かるけど、大丈夫だよ、まだ殺してないから。ーーにしてもアキのやつ遅いな。真白がピンチだってのに…、まあ、あいつは戦闘面じゃ役に立たないけどさー」
「…っ、アキを呼んだのか…?」
上着を簡単にかけてくれた優太に無意識に身を寄せ、周りを見回す。
あいつらはアキに俺を襲えと頼まれたと言っていた。自分を諦めさせろ、彼女との仲を邪魔をさせるな…と。
信じたくない。
けれど、アキは前回あの青年に同じ依頼をしている。
「真白っ!」
道路を勢いよく右折して駐車場に入ってきた車は二人の前で雑に停車し、中から酷く慌てた様子のアキが降りてきた。しかし、優太にしがみついてる真白を見るや、表情に影を落とす。
「こんなところで何やってるの、真白。青木先輩と一緒に…」
光を失った狂気的な目。感情のない声。ゆっくりと近づいてくる圧に喉が恐怖で引き締まり、ヒューヒューと空気が抜ける音がした。
「ちょ…っ!?」
「馬鹿だなー、お兄ちゃんの宝物に手を出すなんてさー。それ、すなわち死あるのみじゃんなー?」
すっと優太は笑顔のままバールを持ち上げ、青年を殴りつけた。何度も何度も躊躇もなく…。
「…っ、待って…優太…!」
「どうしたー?」
「もういい…、それ以上やったら死んーー…」
「別にいいんじゃない?」
にこやかに言って血塗れのバールを再び振り上げようとする優太に青ざめる。
このままでは、優太は二人は本当に殺してしまう気がした。いつもと変わらない笑顔にはアキに感じる渦巻くような狂気はない。だが、彼は冗談を言っていない。それだけはわかる。まるでそうすることが当たり前だと思っているかのように、悪意は全くなかった。
…止めなければ。
優太を人殺しにするわけにはいかない。
「お願い…、やめて…。ーーやめてよ、お兄ちゃん!」
風を切ったバールが青年に当たる寸前で止まる。
「真白?」
「もういい、もういいから…っ。それより腕が痛いんだ、縄、解いて?」
自分で言っててどうかと思うぐらい甘えた声でねだる。とにかく優太の暴走を止めるには意識を弟(仮)に向けさせなければと思った。
「俺の弟が可愛すぎる…。ごめんなー、痛かったなー、こんなにきつく縛って… 、血まで出てるし…」
落ちていたナイフで縄を切ってもらうとしびれていた指先に血が巡るのを感じた。
「早く帰って手当しないと」
痛々しそうに眉尻を下げ、優太は軽々と真白を抱き上げる。肩を貸してくれれば歩けると言っても聞いてもらえなかった。
…木津、生きてるかな?
青年は呻いているから生きていそうだが、木津は人の体から聞こえてはいけない音がした。
早く救急車を呼ばないと。でも、そうしたら優太がここにいるのはまずい。返り血がついているし、真白がやったと言っても彼の方に目が行きそうだ。
そんなことを うじうじ考えながら外に出ると、すっかり日が暮れて辺りは暗くなっていた。
駐車場らしき場所まで来て、ようやく下に降ろう。寒いぐらい風が吹き抜けて沸騰し掛けていた頭が冷める。
「何を考えているかは大体分かるけど、大丈夫だよ、まだ殺してないから。ーーにしてもアキのやつ遅いな。真白がピンチだってのに…、まあ、あいつは戦闘面じゃ役に立たないけどさー」
「…っ、アキを呼んだのか…?」
上着を簡単にかけてくれた優太に無意識に身を寄せ、周りを見回す。
あいつらはアキに俺を襲えと頼まれたと言っていた。自分を諦めさせろ、彼女との仲を邪魔をさせるな…と。
信じたくない。
けれど、アキは前回あの青年に同じ依頼をしている。
「真白っ!」
道路を勢いよく右折して駐車場に入ってきた車は二人の前で雑に停車し、中から酷く慌てた様子のアキが降りてきた。しかし、優太にしがみついてる真白を見るや、表情に影を落とす。
「こんなところで何やってるの、真白。青木先輩と一緒に…」
光を失った狂気的な目。感情のない声。ゆっくりと近づいてくる圧に喉が恐怖で引き締まり、ヒューヒューと空気が抜ける音がした。
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