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実情
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二日酔いのまま敦は農作業に出かけ、絶不調のまま一日の最後まで頑張った。
げっそりとして家に帰ってきた敦を出迎える智だったが‥
前日、智と約束した通り、吉川が家にやってきたのだ。
敦は何故来たのかわからないようだったが、光江は自分達の債権者である吉川が来た事に、思わず身構えた。
智がお茶を出すと、吉川は
「智さん、アンタにも関係ある話だからここに座ってくれ」
と、言った。
智も頷いて座り、一つのテーブルを四人の大人が囲んだ。
吉川は光江に話を切り出した
「光江さん、敦と智さんが帰ってきてくれて良かったなあ。」
「はい。
本当に‥」
「ところで、光江さん
アンタ、今のお宅の畑の状況をちゃんと敦に話をしてるのか?」
いきなりの核心を突く質問に、光江は少し表情を強張らせた。
「いえ、まだ‥何も‥」
智は光江の気持ちを慮った。
せっかく帰ってきた息子にこの悲惨な実情を話すと、跡を継いで頑張る事など絶対にしないであろう。
だが、いつまでも隠しておく事は出来ない
この何日かずっと葛藤があった事は疑いないところだ。
「良次さん、一体どういうことなんですか?‥」
話が見えない敦は不安そうに吉川に問いかけた
「敦、お前のところの有機農業が軌道に乗らず負債抱えて組合から金借りたのは知ってたよな。」
「はい、それは‥
おじさんにもお借りしたって‥」
「まあ、それは圭三と俺の仲での事だからお前さんが気にする事じゃない。
本題はここからなんじゃが、お前んとこの畑、もう立ち行かんところまで来てるんじゃ。」
「えっ‥」
「農業っちゅうのは、畑があったら、ただ耕せばええってもんじゃない。
新しい農耕機械も買わにゃあいかんし、作物育てるにはそれなりの肥料もいるし、とにかく金がかかる。
けんども、お前んとこにはそんな金はもう無かろう。
組合からの借金もまともに返せんような状況じゃからな。」
敦は驚いた様子で、母の方を見た。
しかし、光江は元気なく項垂れるだけで、その姿は吉川の話が事実であると裏付けるものでしかなかった。
「つまり、更なる融資が無けりゃ、もう農業を続けられんところまで来てるんじゃ、お前んとこの畑はな。」
「そうだったんですね‥
すみません‥当事者なのに何も知らないで‥」
すっかり意気消沈した敦はがっくりと肩を落とした。
「いや、今日、ワシは敦を落ち込ませようとしてここに来たんじゃない。
その逆で応援しようと思って来たんじゃ。」
「えっ‥」
「たしかに伊東家の畑は厳しい状況にある。
それは誰が見ても思う事じゃろう。
光江さんが一人で続けると言うたときにはワシは猛反対した。
畑手放して農家をやめろってな。
畑を売れば負債もなくなるし、失敗を気にしながら生きる心配もない。
しかし、敦が奥さんを連れてここに帰ってきた。
都会暮らしをやめてまでもな。
敦や智さんが真剣に農業をするって言うのなら、ワシはそれに賭けてもええってな。」
「おじさん‥」
「心配せんでもええ。
必要な金はワシが貸してやるから。
畑が軌道に乗ったらゆっくり返済してくれたらええ。
なあ、智さん」
吉川は急に智に話を振ってきた。
「吉川さん、ありがとうございます‥
あなた、せっかく吉川さんがそう言ってくださるんだから、甘えさせていただいたら」
智は予定通りというか、吉川の描いたシナリオ通りの言葉を敦に投げかけた。
敦は智を見て頷き、俯く光江の姿に視線をやった。
そして
「すいません、おじさん
お言葉に甘えさせていただきます。
これから必死に働いて、必ずお返しします!」
と、土下座して言った。
「おい、敦、土下座なんてするな!
お前の親父とワシは親友だったんじゃ。
困ったら助けるのは当たり前のことじゃ」
吉川は敦の肩を持って起こしながら言った。
智は少しやるせない思いで、その茶番を見ていたが、伊東家を守るためには仕方ない事だと割り切った。
げっそりとして家に帰ってきた敦を出迎える智だったが‥
前日、智と約束した通り、吉川が家にやってきたのだ。
敦は何故来たのかわからないようだったが、光江は自分達の債権者である吉川が来た事に、思わず身構えた。
智がお茶を出すと、吉川は
「智さん、アンタにも関係ある話だからここに座ってくれ」
と、言った。
智も頷いて座り、一つのテーブルを四人の大人が囲んだ。
吉川は光江に話を切り出した
「光江さん、敦と智さんが帰ってきてくれて良かったなあ。」
「はい。
本当に‥」
「ところで、光江さん
アンタ、今のお宅の畑の状況をちゃんと敦に話をしてるのか?」
いきなりの核心を突く質問に、光江は少し表情を強張らせた。
「いえ、まだ‥何も‥」
智は光江の気持ちを慮った。
せっかく帰ってきた息子にこの悲惨な実情を話すと、跡を継いで頑張る事など絶対にしないであろう。
だが、いつまでも隠しておく事は出来ない
この何日かずっと葛藤があった事は疑いないところだ。
「良次さん、一体どういうことなんですか?‥」
話が見えない敦は不安そうに吉川に問いかけた
「敦、お前のところの有機農業が軌道に乗らず負債抱えて組合から金借りたのは知ってたよな。」
「はい、それは‥
おじさんにもお借りしたって‥」
「まあ、それは圭三と俺の仲での事だからお前さんが気にする事じゃない。
本題はここからなんじゃが、お前んとこの畑、もう立ち行かんところまで来てるんじゃ。」
「えっ‥」
「農業っちゅうのは、畑があったら、ただ耕せばええってもんじゃない。
新しい農耕機械も買わにゃあいかんし、作物育てるにはそれなりの肥料もいるし、とにかく金がかかる。
けんども、お前んとこにはそんな金はもう無かろう。
組合からの借金もまともに返せんような状況じゃからな。」
敦は驚いた様子で、母の方を見た。
しかし、光江は元気なく項垂れるだけで、その姿は吉川の話が事実であると裏付けるものでしかなかった。
「つまり、更なる融資が無けりゃ、もう農業を続けられんところまで来てるんじゃ、お前んとこの畑はな。」
「そうだったんですね‥
すみません‥当事者なのに何も知らないで‥」
すっかり意気消沈した敦はがっくりと肩を落とした。
「いや、今日、ワシは敦を落ち込ませようとしてここに来たんじゃない。
その逆で応援しようと思って来たんじゃ。」
「えっ‥」
「たしかに伊東家の畑は厳しい状況にある。
それは誰が見ても思う事じゃろう。
光江さんが一人で続けると言うたときにはワシは猛反対した。
畑手放して農家をやめろってな。
畑を売れば負債もなくなるし、失敗を気にしながら生きる心配もない。
しかし、敦が奥さんを連れてここに帰ってきた。
都会暮らしをやめてまでもな。
敦や智さんが真剣に農業をするって言うのなら、ワシはそれに賭けてもええってな。」
「おじさん‥」
「心配せんでもええ。
必要な金はワシが貸してやるから。
畑が軌道に乗ったらゆっくり返済してくれたらええ。
なあ、智さん」
吉川は急に智に話を振ってきた。
「吉川さん、ありがとうございます‥
あなた、せっかく吉川さんがそう言ってくださるんだから、甘えさせていただいたら」
智は予定通りというか、吉川の描いたシナリオ通りの言葉を敦に投げかけた。
敦は智を見て頷き、俯く光江の姿に視線をやった。
そして
「すいません、おじさん
お言葉に甘えさせていただきます。
これから必死に働いて、必ずお返しします!」
と、土下座して言った。
「おい、敦、土下座なんてするな!
お前の親父とワシは親友だったんじゃ。
困ったら助けるのは当たり前のことじゃ」
吉川は敦の肩を持って起こしながら言った。
智は少しやるせない思いで、その茶番を見ていたが、伊東家を守るためには仕方ない事だと割り切った。
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