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25話 シェルヴィ様は泳ぎたい!1

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「おいハース、我は今無性に泳ぎたいのだ」

 とある暑い日、俺の部屋でスライムクッションに座り、扇風機の風を浴びるシェルヴィ様が呟いた。

「おっ、いいですね!
 今日はちょうど学校が休みですし、この前釣りに行った川なんか気持ちよさそうじゃないですか?」

「うむ。
 でも1つ、重大な問題があるのだ……」

「重大な問題……ですか?
 でもその前に、いちごシロップのかき氷です」

「うむ、ご苦労なのだ。
 まずは1口……パクッ。
 う、うまうまなのだぁ……!
 ……じゃなくて、我は泳げないのだ」

 へぇ、何でもそつなくこなすシェルヴィ様に意外な欠点が。
 でも、恥ずかしがらず自分の欠点を口にできるなんて、流石はシェルヴィ様です。

「じゃあ、俺と一緒に練習しましょう。
 この城なら、プールの一つや二つありますよね?」

「まぁ、あるにはあるのだ……。
 でも……」

 う~ん、シェルヴィ様の顔がすごく曇ってる。
 まぁ、流石に練習してはい終わりとか、そう簡単にはいかないよな。
 あぁ、こういう時、親ならなんて声をかけるんだろう。

 ……あれ?
 ってことは、ママさんに聞けばいいじゃん。

「あっ、シェルヴィ様。
 少し用事が出来たので離席しますね」

「うむ……」

「もし何か食べたくなったら、キッチンに置いてある箱から好きな物を取って食べてください」

 俺は空間転移で部屋の外に出た。
 でもまずは、聞きに行く前に現状を整理しておこう。
 シェルヴィ様に泳ぎたい気持ちはあるが、それに伴う恐怖心か何かが邪魔をしている。
 そして、この状況を打破する案をママさんからもらう。

 「よしっ」

 そして、俺は再び空間転移で魔王城2階にあるママさんの部屋の前へ移動した。
 目の前にあるドアには、オシャレな字体で『ヒュース』と書かれている。

 しかし、ここは本当にママさんの部屋なんだろうか。
 というのも、特別ドアが豪華ということも無ければ、防犯対策が施されている感じもない。
 俺が使っている部屋との違いをあげるなら、ドアノブが丸いタイプじゃないということくらいだ。

「ふぅ、ママさんの部屋なんて初めてだ……ごくりっ」

 俺は恐る恐るドアをノックした。

「あの、すみません。
 シェルヴィ様の世話役のハースですが、ママさんはいらっしゃいますか?」

「「「はーい」」」

 あっ、ママさんの声だ。
 ふぅ、落ち着け。
 丁寧に会話だ、丁寧に会話……。

 それから少しの間廊下で待っていると、中からヒュースさんが出てきた。

「あら、どうしたの?
 あなたが来るなんて珍しいじゃない」

 ママさん、今日のお召し物は赤い薔薇柄のドレスか。
 お美しい……。

「はい、突然すみません。
 どうしてもママさんに聞きたいことがありまして……」

「そう。
 なら、シェルヴィ関連ね」

 マ、ママさん鋭い……。

「はい……」

「分かったわ。
 上がってちょうだい」

「あっ、いえ。
 すぐ終わりますのでお構いなく」

 あれ……。
 これはお言葉に甘えてが正解だったか?
 いやいや、今はとにかく集中しろ。

「あら、そう。
 それじゃあ、私に話というのは?」

「はい。
 実は、シェルヴィ様が泳ぎたいとおっしゃったので、泳ぎを教えようかと思ったのですが、水に対して恐怖心があるのか顔が曇ってしまって、どうしたらいいか分からなくなってしまった……という話なんですけど……」

「ハースあなた、シェルヴィのことになるとほんとよく喋るわね……」

「あっ、すみません」

 そんなこと言われても、特に意識してるわけじゃない。
 というか、改めて言われるとすごく恥ずかしい……。

「別に謝ることじゃないわ。
 それより、シェルヴィに関するアドバイスを1つ」

「助かります」

 さぁ、待ちに待った実親からのアドバイス。
 何が来る……。

「シェルヴィは……」

 シェルヴィ様は……。

「ご褒美に弱いの!」

 あっ、親バカだ!
 あれ?
 このセリフ……前もどこかで……。
 まぁいっか。

「あの子はご褒美のためなら、どこまでも頑張れる。
 だからね、ハース。
 あなたが今与えられる1番いいご褒美をチラつかせてみて」

「はい、やってみます!」

 ご褒美……ね。

「うん。
 私も楽しみにしてるわ」

「それではこれで失礼します。
 貴重なお時間、ありがとうございました」

 俺は空間転移で部屋を後にした。

「はぁ」

 しかし、俺がいなくなった後も、ママさんはドアを開けたまま立っていた。

「ハースはそんな話をするためだけに、私の部屋に来たの?
 ほんと、意味が分からないわ。
 だってそうでしょ。
 シェルヴィが頑張る理由なんて、ハースにいい所を見せたい。
 それだけでもう、十分じゃない」

 ママさんはそう言うと、ゆっくりドアを閉めた。
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