なぜ、俺は『病』墜ちしたサイコパスなJK(彼女ではない)と、束縛がヤバ過ぎる同棲生活を送っているのか?

夏目くちびる

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第一章 ヤンデレと呼ぶには、少し症状が進み過ぎている

7縛 親友

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 × × ×


「やぁ、時生ときお
「ん、はるかか。久しぶりだな」


 昼休み。飲み物を買いに行こうと席を立つと、入口からやって来た一人の男子生徒に声を掛けられた。


「最近、ちょっと付き合い悪いじゃん。どうしたよ、そんなに生活苦しいの?」
「あ、あぁ。ごめんな、少し金が必要でさ。バイトで忙しいんだよ」
「そうか。まぁ、時生の事だ。どうせ、自分で何とかしようとするんだろうけどさ。もしも本当にヤバかったら、相談してくれよ。僕も、バイトして協力するよ」
「ありがとう、必ずそうする」


 彼は、隣のクラスの近衛遥このえはるか。一年の時に同じクラスだった俺の友達で、数少ない俺の過去の境遇の理解者。


 身長は175センチくらい。シャープな顔立ちと、細身な体型に青っぽいショートヘア。そして、銀の眼鏡が特徴の天才児だ。
 実家がデカい病院で、その影響か本人も医者を志している。そして、俺たち特待生をずば抜く成績の持ち主。多分、学内にはこいつより頭のいい生徒は存在しないだろう。


「昼飯は?まだ食べてなかったら、食堂に行こう。どうせ、今日もおにぎりなんだろ?おかず分けてあげるよ」
「あぁ、いや……」
「今日は、天気もいいので中庭でご飯を食べましょう」


 後ろの席で、みやこがわざとらしくアピールをした。それに賛同したのか、周囲のクラスメイトは鞄から弁当を取り出し、ちょっとしたピクニック気分を味わう準備をしている。


 どうやら、しっかり聞き耳を立てられていたようだ。京は、食堂は人が集まって監視の目が届かないから嫌っている。


「……なぁ、遥」


 立ち上がり、耳元で囁いた。


「なんだ?気持ち悪いな」
「天気がいいから、中庭で飯を食おう。実は、弁当を持って来てるんだ」
「ほう、珍しいな。さては、矢箕京が中庭に行くのが聞こえたな」


 しっかり聞いてやがる。


「わざとらしい、惚れたか?」
「いや、そうじゃなくてだな」
「隠すなよ、どうせならご一緒させてもらおう。すいません、矢箕さんたち」
「な……」


 遥は、所謂ガリ勉タイプの人間ではない。分類するなら、アーティステックな変人タイプだ。


 そもそもとして、自分の立場をそっちのけ、家柄どころか家もない俺と友達になるようなズレた感覚を持っている。おまけに、かなりの行動派で、結果よりも過程を大切にしていて、何故か心を事へのプライドが異常に高い。ステレオタイプの金持ち息子や頭脳派とは、明らかに一線を画す不思議なヤツ。それが、俺の友達である近衛遥という人物だ。


「――そう言う事なので、よければ一緒に食事をしませんか?」
「いいですよ。みなさんも、大丈夫ですよね?」
「もちろんです。一年生ぶりですね、近衛さん」
「ありがとうございます、皆さん。よかったな、時生」


 そんなワケだから、遥には知り合いも多い。だからこそ、京に集まっている人間を見て、「これはいける」と確信を持ったのだろう。


 持たなくていいのに。


「隣のクラスの近衛さんとは仲が良いみたいですのに、こんなに席が近い私とは全然お話しないですから。この機会に、親睦を深めましょう?薬師やくしさん」


 言い方も目も恐い。こうなると思ってたから、最近は遥と距離を置いていたのに。


「すみません。私、一度お手洗いに寄っていきます。皆さんは、先に行って待っていてくれますか?」


 そう言って、京は自分の下唇をつまんだ。マズイ、合図だ。


「分かりました。なるべく、お日様の当たる場所を取っておきますね」
「ありがとうございます」
「すまん、遥。俺もトイレ」
「やっぱ惚れたのか。いいよ、先に行ってる」


 この際、そこのところは勘違いしていてもらおう。騙すみたいで悪いが、否定してしまえば遥は俺と京の関係に気が付いてしまうだろうからな。


 友達とはいえ、頭がよすぎるヤツは扱いが難しいのだ。


 だが、決意はさて置き、こいつにだけは事情を話しておきたいのが本音だ。状況が落ち着いたら、機会を作るとしよう。


 ……そんなワケで、俺は校舎裏のきりかぶにやって来た。ここに呼び出されるのは、この一週間でもう15回目くらいだ。どうやら、京は俺が思っていた以上にクソどうでもいい事でストレスを感じてしまうらしい。


 まず、基本的に女だけでなく男との会話もダメだという事。


 これは、さっきの遥との一件を見れば分かると思う。具体的には、笑うのがアウツ。「私といるより楽しそうだから」だそうだ。


 次に、知らないフリをして一日中黙っていると、それはそれで寂しがってしまうという事。


 読書と復習で隙間時間を使って一人で生活をしていれば、京は教室の前まで行って物音を立ててから下唇をつまむのだ。少しくらいは構って、つかず離れずを維持しないとダメらしい。


 更に、女子と物理的に距離を近づけるのがダメ。


 具体的には、机の間隔よりも接近するのはNG。相手の女子が俺の匂いを嗅いで、好きになってしまうからだそうだ。そんなワケがあるか、アホ。


 そして、極めつけは担任の中根なかね先生と話をするのがダメ、という事だ。理由はもちろん、先生が女だから。


 ただし、これに関しては勉強に支障をきたすという事で、一会話に付き一呼び出しで妥協がされている。その代わり、帰ってから嫉妬の後始末に追われる。ふざけんなよな、マジで。


「遅かったですね」
「トイレに行ってた」


 言うと、京は「ふぅん」と妖しげに呟いてから、背中に回って手を取り指を甘噛みした。毎度のことながら、本当に意味の分からない行動だ。


「やめろ、アホ」
「……近衛さんと、とっても仲がいいんですね」
「まぁ、あいつとは入学前からの知り合いだからな」


 目線だけ下に向けると、京は腕の下からほとんどゼロ距離で俺を見上げていた。蒼白な肌と、漆黒の瞳。生気の感じられない顔は、ゾクリと恐怖を駆り立てた。
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