なぜ、俺は『病』墜ちしたサイコパスなJK(彼女ではない)と、束縛がヤバ過ぎる同棲生活を送っているのか?

夏目くちびる

文字の大きさ
9 / 12
第一章 ヤンデレと呼ぶには、少し症状が進み過ぎている

8縛 不安定な女

しおりを挟む
「おかしいですよね。どうして秘密にしていたんですか?」
「そうじゃない、もう知ってると思ってた」
「私が時生さん以外の男の情報を、脳みそにインプットするワケないじゃないですか。あんな存在、オケラ以下です」


 ……こいつ。


「俺の友達をオケラ呼ばわりとは、ムカつくじゃねぇか。取り消せよ」
「あ、いや……」


 ちょっとした、叱咤のつもりだった。しかし、京はバツが悪そうに目を逸らしてオロオロすると、あろうことか涙を浮かべて、軽い過呼吸になってしまった。


 マズイな、想定外だ。


「す、す、すいません。取り消します、き、嫌いにならないでください。お、おね、お願いします……」
「落ち着け、何もそこまで気に病まなくても」


 どうやら、俺が少しでも怒りの感情を向けると、こうして震えてしまうらしい。だから、思わず「言い過ぎた」と謝ってしまった。男の仲の事だし、そこまで怒ってるワケじゃないんだけどな。


「ごめんなさい……」
「いや、もういいってば」


 発言の非を認めて、一言謝ってくれればそれで済む話なのに。京は、俺に対する一つの要因が、関係の全てに影響を及ぼすと考えている節がある。


 間違っているワケではないが、普通に考えれば『信じられない常識外れな事』以外、一回のミスや失態でコミュニティを追放、もしくは関係の削除をされる事なんてあり得ない。


 大抵はチリツモなのだ。なのに、京にはそれが分からない。壊れた心は、こういう些細な場面でも著しく作用している。


 一か、零か。彼女の中には、それしかない。かなり、深刻だ。


 要するに、京の視野はに狭くなっているのだ。文字通り、『非常』に。だから、俺がキレる事を何でも『信じられない常識はずれな事』だと捉えてしまうのだろう。そのせいで、少し声を大きくすれば、いつものようなサイコな人格は鳴りを潜める。


 こういうやり方は、大嫌いだ。自己嫌悪に陥りそうになる。


「でも。でもでも、やっぱり仲が良すぎます。私と話している時よりも楽しそうです。信用しているように見えます。どうしてですか?あんな風にされたら、時生さんは私より近衛さんを好きなんじゃないかって勘違いしちゃうじゃないですか。不安になってしまうじゃないですか。嫌です」


 かと言って、京はやっぱり自分を曲げない。言葉を取り消したのは俺の怒りを鎮める為であって、遥に対するモノではないのだろう。


 そこのところの意識は、早い内に改善しなければならない課題の一つだ。


「好意の意味は、男女で別だろ」


 俺は、彼女に「好き」や「嫌い」の感情を話したことはない。と言うよりも、事情やら理由やらきっかけやら迷惑やら。色々と複雑過ぎて、自分でも彼女をどう思っているのかが分からないのだ。
 それでも言葉を当てはめるなら、『庇護』とか『心配』とか。そういう言葉が、今の俺が向けている情緒に適当なんだと思う。多分ね。


 ただし、京の中では俺が『愛している』事になっている。一緒に生活して、そういう風に認識してしまったようだ。地雷が増えて困っているが、爆発する可能性が高いため訂正するつもりはない。


「同じです。猫とウズベキスタン。全然関係ない二つですが、『純粋にどちらが好きなのか?』という質問には答えられますよね?」


 こういう、妙に揚げ足を取るのがうまいのも、京の厄介なポイントだ。ルールの裏をかくには、もう少し準備が必要になるだろう。


 本当に、課題は山積みだな。


「そういう意味で言えば、今は誰より京が大切だ。安心してくれ」


 大切。好き嫌いを誤魔化すために、敢えてこの言葉を使った。ビビらせた分、メンタルを回復させなきゃいけないからだ。


 ……これじゃ、DVの手口と同じだな。極力、怒り方は間違わないようにしないと。


「……って、なんで噛むんだよ」
「嬉しいからです、ちゅるちゅる」


 しまった!テンションが上がり過ぎて、逆に心に負荷がかかった!


「ちょ、離れろって。つーか、解決したんだから連中に合流し……。だから!脚を絡めるなと言ってるのに!」
「うや、しゅき」


 京の思考回路がショートして、脳みそのCPU使用率が100%になってしまったらしい。こんなパターン、聞いてない。なんだよ、「うや」って。


「もう分かったっての!ホント、誰かに見られたらどうするんだよ!」
「……ぶぅ。時生さんは、いつも照れすぎです。これくらいのスキンシップは、当然じゃないでしょうか」
「当然じゃねぇんだよ!場所を選ぶんだよ!理性のない人間なんて猿と同じだ!もっと知性と品格を大切にしやがれ、このアホタレ!」
「だって、時生さんに抱き着くと何だか変な気分になるんです。蕩けそうになります」
「とろ……っ!む、無自覚だったら何言ってもいいと思ってんじゃねぇぞ!」
「な、なんで今ので怒るんですか。別に、普通の事しか言ってないのに……」


 ま、まさか、こんな形で無自覚が作用して来るだなんて。


 その方がエロい。これは、困った事になったぞ。


「とにかくだな、今は人を待たせてるんだ。早く行くぞ」
「まぁ、いいですけど。半歩後ろを歩きますね、妻として」


 なんでそういう事は知ってるんだよ。


「……そう言えば、先ほど『場所を選ぶ』と言いましたね」


 心臓が、跳ねた。その理由が恐怖ではなかったことを自覚して、いつもよりも俺の不安を逆撫でしたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...