こいちゃ![R-18]

蒼い色鉛筆

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③本編↓未工事(すごいえちえち)背後注意でお楽しみください。

どうも、鷹橋です。 フィナーレ

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由海広ユミヒロ燃夏モカは緊張していた。

ストーカー行為を素知らぬ顔で行う
鷹橋、その友人の二人にカフェで
会う約束をしていた。

今日、この決断で全てが変わる。

二人で合わせた休みの日に、
スーツをぴしっと着こんで
身だしなみも整える。

移動中の車内で静かに手を繋ぐ。

この温もりを手離すのがとてもつらい。

燃夏の表情も固くなる。

「俺は…海さんの決定を尊重しますから…」

「…ごめんね、ありがとう…。」

由海広にはそれしか言えない。
代わりに手を握りしめる。

鷹橋と燃夏が初めて対面した、
彼ら二人の馴染みのカフェ。

休日の空いた時間に来たからか、
客は顕著に少ない。

決断をするには丁度良い環境だ。

大声では言えないし、自分たちが苦しい。

燃夏がキョロキョロ辺りを見る。

数人の常連客と、女二人が座る席の後ろに
白髪の長いスーツ男が座ってるだけ。

先に到着していた
女二人を見て思わず身構える。

こちらに気づいた二人は、
にたにたと笑顔を浮かべている。

何度連絡しても、面会を頼んでも
拒絶してきたくせに。

由海広のたった一本の電話に即答で
「お茶会」を承諾してきた。

まるでこちらの動きを読んでいるように。

自分たちの都合良く動くことを
先読みされているようで気持ちが悪い。

由海広と少し距離を取り、
対面の椅子に二人で座った。

こちらを上から見下している。
勝利を確信しているのだろう。

「やっと正しい決断が分かりましたの?」

「愛きゅん、もかきゅんのこと
すごーっく大事にするよぉ?」

「……今日はその話について伺いました。
開始して…、よろしい、でしょうか。」

由海広の感情ない声に燃夏は肝を冷やす。

女性相手にどもらない彼は違和感が
すごいが、仕事モードでなんとか
ギリギリ保っているのだろう。

燃夏は邪魔せず、むしろ息を潜める。

彼はいつも通りカフェモカを注文し、
届いたそれを大事に
手の平に収め姿勢を正す。

大人の表情の由海広はいつもかっこいい。

「構いませんわよ。」

狐顔の鷹橋が目の端を縦に歪ませる。
ご主人が狐なら子分は狸だな。
ぐりぐりと好奇の目玉を見開いている。

「ワタシが由海広さんとお付き合いして、
燃夏さんは愛ちゃんと結婚する。
正しくて、素敵ですわ。お友達としても
よろしくですわ。」

「………。」

由海広はすぅ、と目を閉じて
ゆっくり切れ長の瞳を細めた。

彼の決断で、運命が変わってしまう。
それに従うと決めた燃夏は
隣で座ってることしか出来ない。

心臓が高鳴る。
手汗がひどい。

ごくりと生唾を飲み込むとーーーー



「お断りします。」



毅然とした由海広さんの声は
カフェ中に澄んで、刃のように広がる。

「…はっ??」

燃夏は、理解が追い付かない呆けて
老けた顔をする二人を見て思わず
笑いが込み上げるが、あくまで無表情を
貫く。真剣に、真面目な表情で…。

「な、な、なに言ってるのよ?は?
ふざけてるの?まだ付きまとったり
脅しが足りないかしら?あぁ馬鹿は
死ぬまで馬鹿なのね。ほんと低俗。」

鷹橋がぶるぶる震える指先を
由海広に向けて早口で捲し立てる。

しかし由海広の心は微塵も揺らがない。

「私、たちは…、どちらもあなた、方と…
お付き…、合いできません……。
そして、迷惑、行為も…やめて下さい。」

深々と頭を下げる彼を見て
女二人がわなわなと震える。

「そんなっ、そんな贅沢許されるのは
ワタシだけっ…!ワタシは鷹橋の娘よ!?
女王様なのよ!!従いなさい!!」

「もかきゅん~、実は盗撮願望、あり?
愛きゅん的にはそれもあり~、
このまいかめらでいっぱい私生活を
撮って、世界中の人に自慢しなきゃ~」

狐と狸が化かされて、
必死にべらべら話してくれる。

「この前の…、話と違いますわっ…!
確かに仕掛けた盗聴機で、あなた方が
仲違いし、別れ話をーーー」

「やはり、盗聴機を、仕掛け…たのも…
お二人…、いえ、ご友人ですね?」

由海広の視線が向くと、
愛きゅんがびくっと体を震わせた。

「ゆ、ゆ、許さないんだから~!
愛きゅんおこだよ!謝らないと今度は、
見たくない汚いものを郵送でたくさん
おくりつけて、もっと監視できる
ように部屋中を荒らしてーーー」

「そうよ、ストーカー?当たり前でしょ。
男同士で乳繰り合う馬鹿二人はワタシの
オモチャなのよ?もっと嘆いて、
後悔して、怯えて、反省をーーーー」



パンッ!



背後で乾いた音がする。
喚く二人がしん、と黙る。
本を閉じて、それを胸に抱いた白髪男が
ゆっくり立ち上がり、こちらを向いた。

にこにこ笑顔の、
頭髪と合わない若そうな男だ。
銀のメガネを掛けているが
左のまぶたに赤い傷がある。
グレーのスーツが由海広ほどではないが
上品さと教養を感じさせる。

この男が、そうだったのか…!
燃夏は一人納得する。

「お話聞かせて頂きました。」

響くような低音。
おっとりとハキハキ男は話す。

「な、なによあんた、誰よ…。
わ、ワタシを誰と知ってるんですの…?」

由海広の頬に汗が伝う。

白髪男を見上げて、目で合図をした。

「知っておりますよ。鷹橋タカハシ音無ネム28歳、
趣味は写真撮影。鷹橋会社の社長の
一人娘で好きな宝石はルビー、そして」

「ま、まま待ちなさい!ワタシの
個人情報をペラペラとっ…!
あ、あなたは誰よ!ワタシたちの
交際問題に口出ししないで下さいませ!」

言えと言ったり言うなと言ったり。

相変わらず自分の都合で左右する女だ。

しかし、よどみなく語りかける男に
確実に恐怖している。
視線が釘付けになり、怯えている。

白髪頭は紳士的に美しい角度で
頭を軽く下げ、会釈した。
笑顔は崩れない。



「これは失礼。僕は蛇蔵タクラ・アンダーソン。
職業は…検察官です。」

「ひっ…!!」

「えっ…!?」

女二人が同じ顔して恐怖で目を剥いた。

立場的にはけいさつの上位にあたる
犯罪を取り締まり、起訴する仕事…
それが検察官だ。



燃夏は数日前の出来事を思い浮かべた。


暗闇で抱擁ハグした由海広は、
小声であることを伝えた。

ーー今のは盗聴機に聞かせたんだ。ーー

ドラマの世界の話かと、
彼の言うことが分からなかった。
そして速やかに車内に移動し、
事情を話してくれた。

そのときの由海広は普段と変わらない
輝きのある、大人の由海広だった。

「ごめん!ごめんねモカくん!!」

「……?」

状況が分からず、
すごい勢いで謝る彼をぱちくりと見返す。

「…実はモカくんには
話してないことがあったんだ。」

「…え?」

それを聞いたときは寂しさと、
彼の表情を見てどこか安堵があった。

「私はけいさつと、もう一つ。
弁護士センターにも駆け込んだんだ。」

話しながら、窓の外を警戒しながら
彼は懐の名刺を取り出した。
促されるまま受け取り、名前を見た。

ー検察官ー
蛇蔵・アンダーソン

「検察官、ですか…?」

刑事ドラマでしか
聞いたことない職業に頭を傾げた。

由海広さんは真面目な顔で
ゆっくり頷いた。

「待ち時間のソファで膝を抱えて
震えていたら、この人が話しかけてきた。
カップのお茶を持って、
事情を聞いてくれた。
私は、とにかく話した。
誰かに助けを求めずにいられなかった…
も、勿論一番助けられてるのは
モカくんだからね?」

申し訳なさそうに
彼が最後に言葉を付け足した。

「…は、い。」

少し惨めな気持ちになるが、
話の続きを聞いた。

「とても良いお茶…じゃなくて、
真摯に話を聞いてくれた。
そして私の順番待ちを遮り、
彼が自分から担当することを
名乗り出てくれた。」

「それを海さん、ほいほい信じて…?」

心配して思わず口を挟むと、
久しぶりに由海広はくすっと笑った。

「この時は大分人間不信だったから、
すぐには信じられなかったよ。
だけど…彼は数日で私が知らない
鷹橋さんの情報を大量に集めたんだ。
そこで信頼してもいいかと思った。」

「なるほど…」

名刺で初めて見た男に嫉妬する。

しかし由海広を手助けするなら
自分だって協力を惜しまない。

「時々彼に会った。…相談だけだけどね。
家にも、数度入ってもらった。」

「え!!!」

「部屋を調べてもらっただけだよ。
そしたら、案の定盗聴機が見つかった。
小さい電化製品にしか見えなかった。」

盗聴機と聞いて大げさな機械が
思い浮かぶ自分はもう古いのか…。
海さんより若いのに…。

部屋に男を招いた話も、
海さんの話を今は信じるしかない。

「手紙、の話は…したよね。思わず彼に
電話して助けを求めたんだ。
そしたら彼は、自分の恋人を
信じなさいと言ってくれた…。」

ほっとした表情の由海広にちょっと
ジェラシーの炎を滾らせる。

しかし彼が少し怯えた表情をするので
すぐそちらに集中した。

「彼は…、まるで蛇だ。挑発的に、
相手を誘きだそうとイキイキ話した。」

そして、大声で盗聴機に聞こえるように
一芝居打つように指示したそうだ。

「ごめんね、モカくん。
怒鳴ったり、怖い顔して…、本当に
ごめんね…。あんなの嘘だから。
モカくんには感謝してもしきれないし、
本当にあ、愛してるからっ…。
ごめんなさい…!嘘ついて…!」

「そ、そんな…俺こそ、
本当にごめんなさい。隠してた訳じゃ
ないんです、ただ、俺いつもちょっと…
その、モテるから慣れてて…」

土下座する勢いですがるように
謝る彼を反射的に許す。
事情を知った今、反抗する気はない。

「ふふ、知ってる。上手くいけば
明日には鷹橋さんに別れ話があったと
情報が伝わるはず。…演技だからね?」

可愛い瞳で捨てないで、
と主張されると思わず抱き締める。

「良かった…、良かった…!!」

「…いいの?…あんなにひどいこと
言ったのに…許してくれるの…?」

「当たり前でしょ!良かった…、
海さん、本当に…、本当に…。」

「…ありがとう、モカくん…。」

彼の温もりはいつもと何も変わらない。
肌の柔らかさ、お茶の良い香りを
感じて、やっと心から休まる。

大好きな海さんを肌に感じる幸せ。
安心ができる。

「私も…、良かった…。」

ハグを返す彼の声が涙に震える。
…落ち着いてから話の続きを聞いた。

「…海さん、そのあとは?」

「あ、…うん。君の自称彼女さんと
鷹橋さんをカフェに呼び出す。
恐らく交際を受ける申し出と思って
来てくれるはずだから、私たちも
そんなをしにいく。」

「なるほど、俺頑張ります…。
だけど最終的には断るん、ですよね?」

海さんは腕の中で力強く頷く。

「私が好きなのはモカくんだけだから…」

掠れたセクシーな声で囁かれると、
股間が元気に反応する。

「う、嬉しい…。」

「あ、まって…っ、今触られると
最後まで言えなくなっちゃうから、
説明させて…?」

キスしようとすり寄るだけでセックスまで
想定して焦る海さんが可愛い。

だめ、と言う風に口を指で塞がれる。
今は仕方なく話を先に聞く。

蕩けた甘い顔をした海さんは
きりっと真面目な顔になる。

「交際の申し出のふりをして、断る。
彼女らは激怒するだろう。
自分をこけにされるのだから。」

「そうですね…」

女二人押さえ込むなんてなんてことない。
しかし、その手段は悪手だし、
海さんに考えがありそうだ…。

「アンダーソン検事が私たちの傍で
事実と起訴する証拠を集めてくれる。
私たちは、その餌になる。」

「えさ、ですか…?」

「彼は蛇だ…。リスクはあるけど、
確実な罠を張り巡らせてる。」

「………。」

少し考え、すとんと受け入れる。

「分かりました。俺は海さんの味方で
恋人です。海さんの決定を尊重します。」

「…ありがとう、モカくん…!
本当に、本当に…救ってくれて…
ありがとう。愛してくれて…ありがとう。」

「っ…。」

強く抱きしめられると、
安心と喜びにムラムラが沸き上がる。

そっと彼の唇を指でなぞる。

「…その前に、ご褒美ください…。」

「ん…、勿論沢山あげるから…おいで♡」

そのまま車内で素敵な一夜を
過ごした話は一応置いといて。




 
作戦は面白いほど上手くいった。

アンダーソン検事の右手には
ボイスレコーダーもしっかり握られている。

「証拠は山のようにあるんですが…
僕としても確信が欲しくて聞かせて
頂きました。これほどの悪人を裁くと
思うと、胸が躍りますねっ!」

検事は声を弾ませて
ますます良い笑顔になる。

「起訴内容はストーカー規制法の
第二条第一項目第一号から…まあ、
それは後々、覚えるまで教えて
あげますから、ご安心を。」

「そんなっ…、ワタシは女王様…。
お父様に頼めば、犯罪の一つや二つ…!」

鷹橋が確認するように検事を見上げた。

ひどい冷や汗で化粧が溶け始め、
40代に老け込んだ。

検事は涼しい顔で懐の書類をめくる。

「鷹橋グループの鷹橋 虎太朗様。
僕独自の調べでありますが、
年商はたったの数億円…。」

億のお金をたったと言い切れる
この男は何者だろうか。

しかし、こちらが安心できる
笑顔を浮かべた。

「犯罪を揉み消すにはちょーっと
足りませんねぇ…。あ、そうそう。
なるべく活きのいい弁護人を仕立てて
下さいね?それを断片まで踏み潰すのが
僕の快感なんです。」

「そんな…、そんな、うそよ…っ、
ワタシは、ワタシはーー」

ガタガタ震えだし、暗い顔で俯く二人を
検事はじっと見て書類を丸めて
つい、と顎を持ち上げ顔を上に向けた。

「あぁダメですよ、
ちゃんと上を向いて。こちらを向いて…
そう、よく見えるように。」

「な、に、なになに、止めてくださいー」

検事は口が横に裂けるほど
愉悦の表情で怯える二人を見た。

「そう、その顔です。たまりませんね。
悪人の絶望する顔が大好きなんです。」



「あなたはせいぜい、
いいとこのお嬢ちゃん。
悪役令嬢には役不足です。
牢屋でもっと練習しましょうね。」

「あ、あ…」

「ひ、ひっ…!」

こちらからは見えないが、
検事を見て二人は失神寸前になっている。

「さて。」

いつの間にかカフェ中の注目を浴びていた。
けろりと手を鳴らした検事は、
あっさり告げた。

「これで閉幕。淑女二人の人生潰れた
最終局面フィナーレでしたね。」

その言葉を聞いて
やっと…やっと、燃夏は安堵した。

終わった…。終わったんだ。

「………。」

「!!」

由海広が、隣で気絶する。
ものすごいびっくりしたけど、
とても安らかな呼吸に安心する。

ずっと気を張ってたんだもんな…。

「イケメンのけいさつ官が来ますよ~、
さあさあ、お二人さん駆け足♡」

検事がこちらに手を振りながら
放心してるストーカー犯を引きずっていく。

カフェ中が見守る中、
立ち上がり頭を深々と下げた。

これで、あの話も海さんにできる…。

長い悲劇の終幕ほど、
ほっとするものはない。

耳を澄ませて聞いていた常連客かんきゃく
拍手を聞きながら、
見えないように海さんの手を握る。

悲劇の主人公を、一番間近で
称えられる喜びに誇りを感じる。


「終わったんだよ、海さん。」










ーーーーーーー
ご注意
(必読)

※新章はストーカー行為をするキャラが
登場します。
作者は犯罪行為の助長や促し、
公認をしているわけではありません。
一つのお話としてご覧下さい。

※また、性差別な発言、同性愛の
否定のような表現もあります。
お話として表現しておりますが、
作者は愛の形や性別に差別はないです。
あくまでもお話として、の表現になります。

※このお話はフィクションです。
実在する名前、団体とは全く
関係ありません。

気軽に読んで頂くことが最大の喜びです



おしまい!!!
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