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9 ギルドとサラマンダー

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    大きな建物、それも2階建てだ。

    看板には【冒険者ギルド】と書いてある。

    小さくて痩せ細った両手をギュッと拳にして(よし、入るぞ!)と、気合いを入れ大きな扉を見上げた。


    子供には少し重い扉を開けて中に入ると驚いた。


    だって、王都より賑やかだし、このような場所はこの世界で初めてだから。

    大柄な人や顔に傷がある人、際どい格好のお姉さんと様々な冒険者さんたちがいる……けど……なんか見られてるし、もの凄ぉぉぉぉぉく視線が刺さって痛い。

    冒険者ギルドに子供が来るって、ほとんどないからだよね。

    でも、第一印象は大事だから(ペコリ)控えめな会釈と「おはようございます」満面な笑顔で挨拶をすると、冒険者さんたちも笑顔で会釈したり手を振ってくれる人もいれば逆に「ガキが何の用だよ!?」「汚ねぇガキだなぁ!!」「ここで物乞いすんじゃねぇぞっ!!」などと心無い言い方をする冒険者もいた。

    その言葉に一瞬歩みが止まったが、聞こえないふりをした。

    冷遇や暴言、躾という名の暴力はまだマシな待遇だ。私はこの数年、叔父家族から受けた酷遇が脳内を過ぎったが、自分の服をギュッと握り、心無い言葉を無視をして移動した。

    そして、キョロキョロと周りを見渡し奥まで進むと。

(受付はどこに……あ、受付嬢みっけ!)

    受付のお姉さんに買取りは出来るのかを聞いてみることにした。

    トコトコトコ……と、小さくて可愛い小動物のように受付まで走り、綺麗な受付のお姉さんに話しかけた。

「あの……薬草やキノコなどを買い取ってほしいのですが、可能でしょうか?」

「あら、冒険者ギルドへようこそ。

    えぇ、買い取れますよ。見せていただけますか?」

「はい、コレです……」

    と伝えながら、プルプルとつま先立ちになり精一杯手を伸ばし、売る物を受付台に1つづつ丁寧に置いた。

    受付のお姉さんは真剣な表情で、一本づつ丁寧に見ていたかと思いきや「マスター!ギルマスーー!!」と、叫びながら奥へと走って行っちゃった。

(まさか、偽物じゃないよね?

    いやいや、でも……大丈夫。

    神様と女神様から頂いたチートだから大丈夫よ)

    と、両手を見ながら一人で悶々と考えていると。

    奥の部屋から大きな男性が現れ、怖くてプルプルと震えながら縮こまっていたが、小さな私を笑顔にする為なのか、服のボタンを一つ一つ外していき、次の瞬間だった。

    マスターはバサッと、いきなり服を脱ぎ、筋肉を自慢気に主張している【ギュッギュッ、ムキムキ!】それもいろんなマッチョポーズを決めて披露している。

    驚きのあまり小さな両手で顔を覆い隠し、人差し指と中指を閉じたり開いたりしながら動かし半裸を見たり見なかったりを繰り返していた。

    受付のお姉さんは片手を額に当て「はぁぁ」と呆れていた。

(服を脱いでまでマッチョ自慢しなくてもいいのに)

    そんなイケおじマッチョさんがなんだか面白くて「ぶふっ」と、つい吹いてしまったが、先ほどまで呆れていた受付のお姉さんも私の笑いにつられて吹いていた。

「ぶふっ」

    笑われたイケおじマッチョさんの眉がピクリと動き、両手を腰にあて口を開いた。

「おい、何を笑ってやがる。

    カッコイイだろぅが!

    嬢ちゃんもそう思うよな?

(んっ?  髪はボサボサ、身体中の汚れと細っこい体……可愛いのに口減らしにされたのか?)」

    私は苦笑いになってしまったが(コクコク)と作り笑いを浮かべてうなずいた。

「ギルマス、幼女とはいえ女性です。

    早く服を来てください!」

「あぁ……わりぃ、わりぃ。

    さてと、買取りのことだったな。

    んっ!  これは(じぃぃぃぃ)嬢ちゃん凄いじゃねえか!

    薬草や毒消し草、魔力草は鮮度が良いし、ハーブ系は瑞々しくて良い。

    何よりこれだ【五色キノコ】は滅多に採取が出来ない代物。

    何より、全てがパーフェクトだ!」

    パーフェクトと言われた言葉が嬉しくて顔がニヤけそうになったが、今は商談中。真剣な顔に戻し。

「買い取ってくれますか?」

    ドキドキと高まる心臓「こんなの売り物にならない」と伝えられたらどうしようと思う不安が押し寄せていたが、イケおじマッチョさんの言葉を待った。

    すると!

「あぁ、もちろんだ。

    むしろ全て買い取りたいぜ!!」

「あっ、自己紹介がまだでしたね。

    私は、受付のローラン。よろしくね」

「俺はこのギルドでマスターをしているテオルだ!

    マスター、ギルマス、テオル、呼び名は嬢ちゃんの好きなように呼びな」

    ローランとギルマスにペコリと頭を下げ。

「わたく……、わ、私は……」

(二人に名を明かしていいの?

    もし、名を明かしたあと王国に通報されたり寝首をかかれたら?)

    国を出るまでは油断してはいけない。

    ローランとギルマスが善良で信用に値する人だと、確信が出来るまでは隠さなくてはいけないんだ。

    だから、名前は……。

「私はです。

    家族は……不幸事があり、いません。

    今は、生きるために必要な薬草やキノコなどを採取しながら、日銭を稼ぎ、一人で旅をしています」

    これで、一人で旅をしているという辻褄が合うよね?

    ふと、二人を見上げると。

(えぇぇぇぇ!  何で泣いてるのぉぉ?)

「……ズズズーーッ。

    そうか、辛かったな。

    もう大丈夫だからな?」

「泊まるところもないんでしょ?

    お金なんて要らないわ。

    ここで寝泊まりと食事をすると良いわ」

    ローランの言葉は嬉しいけど、自分の汚れた格好を見たあと、二人を見あげて思ったことを伝えた。

「あ、あの、私汚いのでどこかの床の隅で休ませてもらうだけでいいです」

    と、私は顔を俯け遠慮がちに言うと、ローランとギルマスは一瞬驚いた顔をしたが、ローランはフルフルと左右に顔を振り、ギルマスは腕を組んで眉を下げ体を屈めたあと、大きな手で頭を優しく撫でてくれた。

「何言ってやがんだ!

    小動物のように可愛いレインが床にいたら人さらいに会っちまうだろうが。

    ローラン、レインを綺麗にしてやってくれ」

「えぇ、分かってるわ。

    レイン行きましょう」

    二人に深々と頭を下げて、瞳いっぱいに涙をためて震える声で感謝した。

「…っ、…あ、ありがとう…ございます」

「遠慮なんてしなくていいんだ。

    嬢ちゃんは頑張ったんだ、そのご褒美と思えばいい」

「では、次行く場所が決まるまでの間、お世話になります。

    あと、泊り代や食事代は採取で得たお金でお支払いします」

「はあっ?  宿代なんていらねぇよ!」

    ギルマスは片手をブンブン振って断られたが『この世は弱肉強食』って言葉があるけど、私はそんなのは嫌。子供だからとチヤホヤなんてされたくない。

(だから!)

「お支払いしま……」

    言葉を遮るギルマス。ローランはため息をついていた。

「お嬢ちゃんみたいな、幼子から金なんて取ったりすると神獣様に怒られちまうぜ!

    それより、お嬢ちゃんはいくつだ?」

(神獣様ね)

「私は5歳です。

    それと、年齢関係なく、宿代と食事代はお支払いしたいし【何かを得るには対価が必要】ということを学びたいんです!」

    ギルマスには「エライッ!」と大きな声と凄い顔で泣かれた……イケメンが台無しだ。

    このあと、ローランに綺麗に身体中を洗ってもらい、サッパリしたところで部屋まで案内してもらって。

「狭いけど、ここを自由に使ってね」

「ありがとうございます。

    狭くないですよ、私にとっては広いです」

    ローランが仕事に戻ってから、再び部屋を見渡したけど、壁際にベッドがあり反対の壁側には丸い形のテーブルと椅子。そして、小さなクローゼットが置いてある。正面には窓があり、普通のビジホ並みの広さだ。

    椅子を移動させ、靴を脱いでその上に立ち、窓を開けると。穏やかな風が頬を通り過ぎて行く。

    気持ち良い風だなぁ。

    王都からの追っ手に油断大敵。

    でも、何故かは分からないけど、ここにいた方がいいって予感がしている。この街から移動してはいけない気がする。

『ピュルル』

    マロンの鳴く声の方向を見ると大きな森があった。何度か迂回するマロン、きっとあの森に何かあるんだろう。

「マロン、おいで」

    窓際に降り立ち、毛繕いをするマロンの身体をソっと撫でた。

    明日は、ここから見える南の方の森に採取に行こう。

「マロン、パンを持って来るから、ここで待っててね」

    テーブルに移動したマロンはくちばしを後ろの羽毛にうづめる姿勢をとり、眠ったのを確認した私は、部屋を後にした。

    ゆっくりと階段を下りると、ローランがトレイに入れてくれた食事を受け取り、食堂の隅の隅っこに座り。周りを観察しながら食事を済ませ、お水を飲んでいると目つきの悪い男性と目が合い、勇気を出して手をフリフリと振ると……相手も手をフリフリと振り返してくれた。

    嬉しい気持ちになり(ニコリ)と微笑んで再度手を振りながらローランにギルマスの所へ案内してもらい、南の森のことを尋ねた。

   
   
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