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第六話

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ハラハラと自分の役目が終わったかのように綺麗に落ちていく黄色の葉たち

桃中事件から更に過保護に拍車のかかった兄さんと一緒に並木道を歩く。
今日は日曜日、学校も休みで半日家でゆっくり過ごした後夕方には一緒にご飯の具材を買いに行こうとスーパーへの道をゆっくりと歩いているところだ。

桃中事件から兄さんは女の子への不快感が大きく見えるようになり、今では女の子に[一緒に帰ろ]と誘われても正直に[嫌だ]と答えてしまう程。
その度に理不尽に睨まれるのは俺なんだけど、それにすら兄さんは過敏に反応して女の子へキツめの睨みを効かせる。
その効果もあってか最近は女の子達からの嫌味も減り、凄く快適な生活を送れているのも事実。




「唯兎、今日のご飯は何がいいかな」



いつも通り俺に対してはとても甘く、優しい笑顔でふんわりと包んでくれるような声色で接してくる兄さん。
これを欲してる女の子が多いのか、と思うのなんだか遠い目をしてしまうのは仕方ないと思う。
…ごめん、こんな悪役弟が独り占めして…




「唯兎…?」



思わず遠い目をしながら溜息を吐いてしまったのが兄さんに見られ、歩いてた足を止めて兄さんに肩を掴まれる。




「唯兎、何かあった?疲れてる?もし誰かに嫌な事されたらすぐに言って」




とんでもなく美しい顔でとんでもない真顔で顔を覗き込まれる。
過保護にも程があるとは思うが、普段俺が巻き込まれる事は兄さんの周りの女の子達がテンション上がって来たせいだったりするから兄さんが心配するのも無理はないのかもしれない。…と思うことにする。




「…なんでもない、何食べたいか考えてただけ」

「そう…?ならいいけど…」



納得していないような顔をしつつも俺がこれ以上何も言わないぞ、という意志を見せれば兄さんは大体折れてくれる。
仕方ないね、と言ったような優しい笑顔を見せてポンポンと頭を撫でてくるのもセットだ。




「今日はハンバーグにしよ、兄さんのハンバーグ食べたい」

「いいね、それじゃあ唯兎にはポテトサラダ作ってもらおうかな」




今日の献立はハンバーグとポテトサラダに決まったところで目的地であるスーパーに着いた。
カートとカゴを持ち店内に入ると、子連れのお母さんや老夫婦が仲良く買い物をしている姿が見られる。

入ってすぐにある野菜コーナーで必要な野菜を次々入れているところで目に入ったのは美味しそうなさつまいも。

焼き芋…大学芋…サツマイモのスープもいいなぁ…

さつまいもを眺めながら前を歩く兄さんの後を着いていく。
ダメダメ、無駄遣い禁止。
俺が食べたいからって無駄に買う必要なし。

ふるふると頭を振り、さつまいもから意識を逸らすために他の野菜を眺める。
ジャガイモ入れた、にんじん入れた…玉ねぎも入れたし…。



「あ、兄さん。そろそろ牛乳も買わないと」

「そうだ、そろそろ無くなりそうだったね」



兄さんはよくホットミルクを俺に作ってくれる。
俺もそれが好きでねだる事もあり、我が家では必ず牛乳はストックしておく流れが出来ている。

朝起きた時に兄さんも飲むし、割と重要な飲み物である。
牛乳を2本カゴの中に入れた時、兄さんが[あ]と声をあげる。



「唯兎、食器用洗剤もそろそろ無くなりそうなんだ。詰め替え用持って来てもらっていい?僕はこのままお肉コーナー行くよ」

「ん、わかった」



少し離れたところにある洗剤コーナーに行き、いつも使ってる食器用洗剤を探す。
だが、残念なことにいつも使っている洗剤の詰め替え用が売り切れているらしい。
さてさて、だとしたら次に安いものを選んで…
いつも使ってる物より10円程高い物を選び、兄さんの元へと向かった。



「兄さん、いつものなかったからこれでいい?」

「ん?大丈夫だよ、ありがとう」



カゴの中に洗剤を入れればポンポンと頭を撫でてくる。
周りの目もあり、恥ずかしくなりその手を避けて前を歩いてみると後ろからクスクスとおかしそうな笑い声が聞こえて来た。
後ろを見るとただただ嬉しそうな、楽しそうな兄さんが笑っている。



「…なにか楽しいことあったの」

「んー?僕は唯兎と一緒なら全部楽しいよ」



心からそう思っているような、そんな笑顔を見せるものだからむず痒くなり兄さんに軽く突進をして反発する。
そんな行為も兄さんからしたら可愛いものらしく、ずっと笑顔で俺を見てくる。



「…兄さん、最近恥ずかしい…」

「えー?そんな事ないよ。唯兎と一緒だから全部嬉しいし、楽しいって事は凄く幸せな事なんだよ」



幸せ

何故か引っ掛かりを覚えてチラッと兄さんの顔を盗み見る。
でも兄さんは変わらずニコニコと笑顔で買い物を続けていた。

なんだろう
幸せって言葉を聞いてから胸がざわついている
これはもしかしたら【弟の嫉妬】なのかもしれない
でもいつもみたいに兄さんにぶつけるような嫉妬ではなく、ただただ悲しみを感じているような…

原作ゲームをプレイしていないから妹からの知識しかないけど、悪役の弟はハッピーエンドで施設へ…バッドエンドでは首を吊るらしい。
そのハッピーエンドで施設へ行く時の言葉が妹の涙腺を崩壊させたらしい…んだけど…
その時の妹を宥めるのに必死で、どんな言葉だったかが思い出せない。
とにかく妹が泣きながら「私が幸せにしてあげるからね!!!」なんて言ってたのは覚えてるんだけど…

うーん?と思い出すことに集中してると兄さんに腕を掴まれた。



「唯兎、前見ないと棚にぶつかるよ」

「あっ、ごめん」



目の前にはパンの棚、兄さんが止めてくれなかったらこのまま突っ込んでいただろう。



「そろそろお会計行こうか」



その一言で買い物は終了となり、帰路に着く。
帰り道、俺が飲み物の袋を持つって言ってるのに兄さんはやんわり[いいから]と俺に重い方の袋を渡そうとせず、仕方なく俺は軽めの方を持ち兄さんの横を歩く。

そのまま家に着くと丁度夕飯時。
兄さんに先に風呂に入るよう言われ、外で冷えた身体をお風呂で温める事になった。
その間に兄さんはハンバーグを作り始めててくれるようで俺も風呂から出たらすぐにポテトサラダを作る事になる。

頭を洗い、体を洗い、湯船に浸かる。
前までは湯船に浸かる事なく風呂を終わらせてたんだけど、兄さんに

「ちゃんと湯船で身体温めなさい!風邪引くでしょ!」

と珍しく怒られてしまったため、今ではしっかり湯船に浸かる事にしてる。

でもあまり浸かっているとのぼせてしまうため少し早めに風呂から上がる。
体を拭き、頭を拭き、服を着る。
そのまま風呂場から出て兄さんの元に行くと



「…髪は?」

「大丈夫だよ、そのうち乾くから」

「…髪は?」

「……乾かします」



兄さんは本当に過保護だ。
風邪引くから湯船に浸かりなさい。
風邪引くから髪乾かしなさい。
俺に怒るときは大体俺の体調を心配してのことだ。

髪をしっかり乾かし、俺も台所に立つ。
兄さんがジャガイモを茹でてくれてたおかげですぐに完成するであろうポテトサラダを作り始める。
兄さんもハンバーグを焼き始めてるから丁度よく出来上がりそうだ。

黙々と作業をする俺に他愛もない話を聞かせながらハンバーグを焼く兄さん。
料理はあっという間に出来上がり、食卓へ並べる。



「飲み物入れるね、席座ってて」



俺を椅子に座らせるとパタパタと飲み物を撮りに行く兄さん。
そのくらい俺がやるのに、と思いつつそれを言う前に椅子に座らせられたから黙って兄さんを待つ事にする。

兄さんが飲み物を乗せたお盆をテーブルに置くとそこには作った覚えのない料理が乗せられていた。



「え、兄さん…これ」

「唯兎ジッとさつまいも見てたでしょ、食べたいかなって思って風呂入ってる間に作ってたんだ」



テーブルには俺が食べたいと思ってた大学芋が並べられている。
ハンバーグに大学芋、なんてアンバランスだけどね。
なんて笑いながらも俺のために用意してくれた美味しそうな大学芋。



「じゃあ唯兎、いただきます」

「い、いただきます」



目の前に置かれた大学芋を箸で掴み、口に運ぶ。
丁度よく甘く、ほんのり温かい大学芋に自然と頬が緩む。



「美味しい?」

「うん、凄く」


良かった、なんて笑いながらも兄さんも箸を進める。

ハンバーグも大学芋も、自分で作ったけどポテトサラダも。
全部美味しい。



「兄さん、大学芋…ありがとう」



美味しい大学芋を口に運んでまた口元が緩む。
そんな俺を兄さんが眺めて幸せそうな顔をしていたのは俺は気付かなかった。





そうだ、思い出した。

ハッピーエンドで施設に送られる際。

兄さんが泣きながら悪役の弟を見送るとき、弟は










「兄さん、俺の分も…幸せになってね」

「兄さんの幸せ、今まで奪ってごめんなさい」









そのまま、施設で首を吊ったんだ。

悪役の弟はハッピーエンドでもバッドエンドでも首を吊ってたと妹は泣いていた。

思い出した。

だから「幸せ」という言葉に反応したんだ。



俺はそうはならない。

悪役になんてならない。

弟の嫉妬は強く残るけど。

それでも兄さんには幸せになって欲しいから。






おれはそうはならない。







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