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42.いじめ
部屋に戻された私は、メアリーと私が連れてきたもう一人のメイドによって有無を言わさず風呂に放り込まれ、頭のてっぺんから足の先まで綺麗に洗われた。
メアリーほど情報を与えていないメイドは私の酷い姿を見て口をアングリ開けて固まっていた。
「なぜ奥様がこんな・・・、なぜ・・・」
そうブツブツ呟きながら私の頭を洗っていた。
ごめんね・・・、びっくりさせて。ちなみに折角洗ってもらっても、またすぐ汚れます。
すっかり綺麗になって、すっきりした気分で昼食を頂き、また新たな気持ちで屋根裏に向かおうとした時、メアリーに呼び止められた。
「奥様。まさかお忘れになっているとは思いませんが、夕食は大旦那様とご一緒ですからね」
「?? 分かってるわよ?」
「早めにお戻りを。また一から綺麗にしないといけないでしょうから」
「・・・」
「6時にはお戻りを。私はお迎えに行けませんので。時間厳守でお願いします」
「はーい・・・」
こうして、研究室を探っている間は、日に二回もお風呂に入る羽目になってしまった。
やっぱり大掃除を先にした方が効率が良かったかも・・・。
★
研究室に通い始めて三日目。
毎日毎日、体中埃まみれ、頭には蜘蛛の巣を付けたまま廊下を行き来していれば、使用人の目にバッチリ留まる。
影でヒソヒソと私のことを話している使用人たちの姿を目撃し、少しばかり焦りを覚えていた。
私自身のことをどう悪口言われても構わないのだが、行動自体を怪しまれ、不審がられ、後を付けられたり、探られたりしたら厄介だからだ。
とは言っても、捜索を止めるわけにもいかない。
エリオットとケイトにさりげなくフォローしてもらわないと。
そう思っていた矢先。
夕方、屋根裏部屋の研究室を出て廊下を歩いていた時だった。
いつものようにボロボロの汚い恰好の上、三日も経つのに何の成果も無く、いつも以上にガックリ肩を落として歩いていた私の横を、一人のメイドとすれ違った。
「え?!」
気が付いたら私は床に転んでいた。どうやら足を引っかけられたらしい。
驚いて顔を上げると、醜く笑った中年女のメイドが私を見下ろしていた。
「あら、若奥様でしたか? あまりにも汚くて気が付きませんでした」
そこに二人のメイドが加わってきた。
「本当に汚いですわ。こんな方がレイモンド家の若奥様だなんて恥ずかしい! 何かの間違いではないでしょうか?」
「大旦那様に認められていないのでしょ? 掃除夫ですら入らない汚い部屋を掃除させられるなんて」
「あはは! 本当! 使用人以下ですね!」
転んで倒れている私を起こそうともしないどころか、私を囲み、訳の分からないことをしゃべりながら見下ろして笑っている。
一瞬、意味が解らず、ボケーっと見上げていたが、だんだん彼女たちの会話の意図が分かってきた。
要するに虐めだ。きっと。
どうやら私はレイモンド家から蔑まれた嫁と勘違いされている。
それもそうか。毎日汚い恰好でガックリと肩を落として歩いてたら、そりゃあ哀愁漂うもんね。
つまり、そんな女主人なんて誰も庇う者もいないし、虐めてもどうってことないとでも思っているのだろう。ああ、なんて浅はかな・・・。私がここに来てまだ日も浅いのに、僅かな情報だけで私の立場を弱いものと確信するなんて。
それにしてもまさかの虐め・・・。引くわ・・・。
誤解を解こうと立ち上がろうとしたその時、
「少し綺麗にした方がいいですよ、若奥様。いや、掃除婦さん?」
そのセリフと共に頭に水が降ってきた。どうやらバケツの水を掛けられたようだ。
「冷たっ!」
思わず叫ぶ。
その叫びを聞いて、キャッキャと笑う声。
その声に、何かがブチっと切れた。
私はユラ~っと立ち上がると、
「あなた達、お名前は?」
そう言いながら彼女たちに近寄った。
彼女たちは汚い上に濡れた私に触れたくないとばかりに、ニ三歩さがった。
「ねえ、お名前を教えて下さる? 女主人として知っておかなければならないのに、ここに来て日も浅い上に、他のことにかまけてしまって、使用人の皆さんのお名前を覚えていないの。教えてちょうだい」
にっこりと微笑みながら、じりじりと三人に近づいた。逆にメイドたちはジリジリと後ずさりする。
「あら? もしかしてお名前が無いの?」
「そ、そんなわけないでしょう!」
「じゃあ、教えて下さらない?」
いきがるメイドに私は余裕の笑みを見せる。
「そ、そんなこと、何であなたなんかにっ」
「あなたなんか? 私はレイモンド家の女主人ですわよ?」
「何をえらそうに! こんな格好して女主人って! すぐ捨てられますよ! あなたなんて!」
「そうかしら? まあ、そうだとしても、今はまだ捨てられていないかられっきとしたレイモンド侯爵夫人です。さあ、質問に答えなさい」
私は語気を強めた。
悔しそうに睨み返してくるメイドたちはみんな中年女性だ。私みたいな小娘にこんな風に問い詰められてなんと情けない。
「いいわ。そうまでして教えるのが嫌なのなら、知っている人に聞きます。一緒にいらして」
私は一人のメイドの手首を掴んだ。最初に私の足を引っかけた女だ。
「何するのよ!?」
女は私の手を振り払おうとしたが、私も負けじと離さない。
手首を掴んだまま、ズンズンと廊下を歩く。
メイドは必死に逃げようと抵抗した。終いには掴んでいる私の腕を空いている方の手でバシバシ叩いた。
それでも私は手を放さず、ズンズン歩く。
辿り着いたその場所は・・・。
その部屋の扉にメイドはヒュッ息を呑んだ。
そりゃそうだろう。
ここは義父の執務室だ。
メアリーほど情報を与えていないメイドは私の酷い姿を見て口をアングリ開けて固まっていた。
「なぜ奥様がこんな・・・、なぜ・・・」
そうブツブツ呟きながら私の頭を洗っていた。
ごめんね・・・、びっくりさせて。ちなみに折角洗ってもらっても、またすぐ汚れます。
すっかり綺麗になって、すっきりした気分で昼食を頂き、また新たな気持ちで屋根裏に向かおうとした時、メアリーに呼び止められた。
「奥様。まさかお忘れになっているとは思いませんが、夕食は大旦那様とご一緒ですからね」
「?? 分かってるわよ?」
「早めにお戻りを。また一から綺麗にしないといけないでしょうから」
「・・・」
「6時にはお戻りを。私はお迎えに行けませんので。時間厳守でお願いします」
「はーい・・・」
こうして、研究室を探っている間は、日に二回もお風呂に入る羽目になってしまった。
やっぱり大掃除を先にした方が効率が良かったかも・・・。
★
研究室に通い始めて三日目。
毎日毎日、体中埃まみれ、頭には蜘蛛の巣を付けたまま廊下を行き来していれば、使用人の目にバッチリ留まる。
影でヒソヒソと私のことを話している使用人たちの姿を目撃し、少しばかり焦りを覚えていた。
私自身のことをどう悪口言われても構わないのだが、行動自体を怪しまれ、不審がられ、後を付けられたり、探られたりしたら厄介だからだ。
とは言っても、捜索を止めるわけにもいかない。
エリオットとケイトにさりげなくフォローしてもらわないと。
そう思っていた矢先。
夕方、屋根裏部屋の研究室を出て廊下を歩いていた時だった。
いつものようにボロボロの汚い恰好の上、三日も経つのに何の成果も無く、いつも以上にガックリ肩を落として歩いていた私の横を、一人のメイドとすれ違った。
「え?!」
気が付いたら私は床に転んでいた。どうやら足を引っかけられたらしい。
驚いて顔を上げると、醜く笑った中年女のメイドが私を見下ろしていた。
「あら、若奥様でしたか? あまりにも汚くて気が付きませんでした」
そこに二人のメイドが加わってきた。
「本当に汚いですわ。こんな方がレイモンド家の若奥様だなんて恥ずかしい! 何かの間違いではないでしょうか?」
「大旦那様に認められていないのでしょ? 掃除夫ですら入らない汚い部屋を掃除させられるなんて」
「あはは! 本当! 使用人以下ですね!」
転んで倒れている私を起こそうともしないどころか、私を囲み、訳の分からないことをしゃべりながら見下ろして笑っている。
一瞬、意味が解らず、ボケーっと見上げていたが、だんだん彼女たちの会話の意図が分かってきた。
要するに虐めだ。きっと。
どうやら私はレイモンド家から蔑まれた嫁と勘違いされている。
それもそうか。毎日汚い恰好でガックリと肩を落として歩いてたら、そりゃあ哀愁漂うもんね。
つまり、そんな女主人なんて誰も庇う者もいないし、虐めてもどうってことないとでも思っているのだろう。ああ、なんて浅はかな・・・。私がここに来てまだ日も浅いのに、僅かな情報だけで私の立場を弱いものと確信するなんて。
それにしてもまさかの虐め・・・。引くわ・・・。
誤解を解こうと立ち上がろうとしたその時、
「少し綺麗にした方がいいですよ、若奥様。いや、掃除婦さん?」
そのセリフと共に頭に水が降ってきた。どうやらバケツの水を掛けられたようだ。
「冷たっ!」
思わず叫ぶ。
その叫びを聞いて、キャッキャと笑う声。
その声に、何かがブチっと切れた。
私はユラ~っと立ち上がると、
「あなた達、お名前は?」
そう言いながら彼女たちに近寄った。
彼女たちは汚い上に濡れた私に触れたくないとばかりに、ニ三歩さがった。
「ねえ、お名前を教えて下さる? 女主人として知っておかなければならないのに、ここに来て日も浅い上に、他のことにかまけてしまって、使用人の皆さんのお名前を覚えていないの。教えてちょうだい」
にっこりと微笑みながら、じりじりと三人に近づいた。逆にメイドたちはジリジリと後ずさりする。
「あら? もしかしてお名前が無いの?」
「そ、そんなわけないでしょう!」
「じゃあ、教えて下さらない?」
いきがるメイドに私は余裕の笑みを見せる。
「そ、そんなこと、何であなたなんかにっ」
「あなたなんか? 私はレイモンド家の女主人ですわよ?」
「何をえらそうに! こんな格好して女主人って! すぐ捨てられますよ! あなたなんて!」
「そうかしら? まあ、そうだとしても、今はまだ捨てられていないかられっきとしたレイモンド侯爵夫人です。さあ、質問に答えなさい」
私は語気を強めた。
悔しそうに睨み返してくるメイドたちはみんな中年女性だ。私みたいな小娘にこんな風に問い詰められてなんと情けない。
「いいわ。そうまでして教えるのが嫌なのなら、知っている人に聞きます。一緒にいらして」
私は一人のメイドの手首を掴んだ。最初に私の足を引っかけた女だ。
「何するのよ!?」
女は私の手を振り払おうとしたが、私も負けじと離さない。
手首を掴んだまま、ズンズンと廊下を歩く。
メイドは必死に逃げようと抵抗した。終いには掴んでいる私の腕を空いている方の手でバシバシ叩いた。
それでも私は手を放さず、ズンズン歩く。
辿り着いたその場所は・・・。
その部屋の扉にメイドはヒュッ息を呑んだ。
そりゃそうだろう。
ここは義父の執務室だ。
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