42 / 62
42.いじめ
しおりを挟む
部屋に戻された私は、メアリーと私が連れてきたもう一人のメイドによって有無を言わさず風呂に放り込まれ、頭のてっぺんから足の先まで綺麗に洗われた。
メアリーほど情報を与えていないメイドは私の酷い姿を見て口をアングリ開けて固まっていた。
「なぜ奥様がこんな・・・、なぜ・・・」
そうブツブツ呟きながら私の頭を洗っていた。
ごめんね・・・、びっくりさせて。ちなみに折角洗ってもらっても、またすぐ汚れます。
すっかり綺麗になって、すっきりした気分で昼食を頂き、また新たな気持ちで屋根裏に向かおうとした時、メアリーに呼び止められた。
「奥様。まさかお忘れになっているとは思いませんが、夕食は大旦那様とご一緒ですからね」
「?? 分かってるわよ?」
「早めにお戻りを。また一から綺麗にしないといけないでしょうから」
「・・・」
「6時にはお戻りを。私はお迎えに行けませんので。時間厳守でお願いします」
「はーい・・・」
こうして、研究室を探っている間は、日に二回もお風呂に入る羽目になってしまった。
やっぱり大掃除を先にした方が効率が良かったかも・・・。
★
研究室に通い始めて三日目。
毎日毎日、体中埃まみれ、頭には蜘蛛の巣を付けたまま廊下を行き来していれば、使用人の目にバッチリ留まる。
影でヒソヒソと私のことを話している使用人たちの姿を目撃し、少しばかり焦りを覚えていた。
私自身のことをどう悪口言われても構わないのだが、行動自体を怪しまれ、不審がられ、後を付けられたり、探られたりしたら厄介だからだ。
とは言っても、捜索を止めるわけにもいかない。
エリオットとケイトにさりげなくフォローしてもらわないと。
そう思っていた矢先。
夕方、屋根裏部屋の研究室を出て廊下を歩いていた時だった。
いつものようにボロボロの汚い恰好の上、三日も経つのに何の成果も無く、いつも以上にガックリ肩を落として歩いていた私の横を、一人のメイドとすれ違った。
「え?!」
気が付いたら私は床に転んでいた。どうやら足を引っかけられたらしい。
驚いて顔を上げると、醜く笑った中年女のメイドが私を見下ろしていた。
「あら、若奥様でしたか? あまりにも汚くて気が付きませんでした」
そこに二人のメイドが加わってきた。
「本当に汚いですわ。こんな方がレイモンド家の若奥様だなんて恥ずかしい! 何かの間違いではないでしょうか?」
「大旦那様に認められていないのでしょ? 掃除夫ですら入らない汚い部屋を掃除させられるなんて」
「あはは! 本当! 使用人以下ですね!」
転んで倒れている私を起こそうともしないどころか、私を囲み、訳の分からないことをしゃべりながら見下ろして笑っている。
一瞬、意味が解らず、ボケーっと見上げていたが、だんだん彼女たちの会話の意図が分かってきた。
要するに虐めだ。きっと。
どうやら私はレイモンド家から蔑まれた嫁と勘違いされている。
それもそうか。毎日汚い恰好でガックリと肩を落として歩いてたら、そりゃあ哀愁漂うもんね。
つまり、そんな女主人なんて誰も庇う者もいないし、虐めてもどうってことないとでも思っているのだろう。ああ、なんて浅はかな・・・。私がここに来てまだ日も浅いのに、僅かな情報だけで私の立場を弱いものと確信するなんて。
それにしてもまさかの虐め・・・。引くわ・・・。
誤解を解こうと立ち上がろうとしたその時、
「少し綺麗にした方がいいですよ、若奥様。いや、掃除婦さん?」
そのセリフと共に頭に水が降ってきた。どうやらバケツの水を掛けられたようだ。
「冷たっ!」
思わず叫ぶ。
その叫びを聞いて、キャッキャと笑う声。
その声に、何かがブチっと切れた。
私はユラ~っと立ち上がると、
「あなた達、お名前は?」
そう言いながら彼女たちに近寄った。
彼女たちは汚い上に濡れた私に触れたくないとばかりに、ニ三歩さがった。
「ねえ、お名前を教えて下さる? 女主人として知っておかなければならないのに、ここに来て日も浅い上に、他のことにかまけてしまって、使用人の皆さんのお名前を覚えていないの。教えてちょうだい」
にっこりと微笑みながら、じりじりと三人に近づいた。逆にメイドたちはジリジリと後ずさりする。
「あら? もしかしてお名前が無いの?」
「そ、そんなわけないでしょう!」
「じゃあ、教えて下さらない?」
いきがるメイドに私は余裕の笑みを見せる。
「そ、そんなこと、何であなたなんかにっ」
「あなたなんか? 私はレイモンド家の女主人ですわよ?」
「何をえらそうに! こんな格好して女主人って! すぐ捨てられますよ! あなたなんて!」
「そうかしら? まあ、そうだとしても、今はまだ捨てられていないかられっきとしたレイモンド侯爵夫人です。さあ、質問に答えなさい」
私は語気を強めた。
悔しそうに睨み返してくるメイドたちはみんな中年女性だ。私みたいな小娘にこんな風に問い詰められてなんと情けない。
「いいわ。そうまでして教えるのが嫌なのなら、知っている人に聞きます。一緒にいらして」
私は一人のメイドの手首を掴んだ。最初に私の足を引っかけた女だ。
「何するのよ!?」
女は私の手を振り払おうとしたが、私も負けじと離さない。
手首を掴んだまま、ズンズンと廊下を歩く。
メイドは必死に逃げようと抵抗した。終いには掴んでいる私の腕を空いている方の手でバシバシ叩いた。
それでも私は手を放さず、ズンズン歩く。
辿り着いたその場所は・・・。
その部屋の扉にメイドはヒュッ息を呑んだ。
そりゃそうだろう。
ここは義父の執務室だ。
メアリーほど情報を与えていないメイドは私の酷い姿を見て口をアングリ開けて固まっていた。
「なぜ奥様がこんな・・・、なぜ・・・」
そうブツブツ呟きながら私の頭を洗っていた。
ごめんね・・・、びっくりさせて。ちなみに折角洗ってもらっても、またすぐ汚れます。
すっかり綺麗になって、すっきりした気分で昼食を頂き、また新たな気持ちで屋根裏に向かおうとした時、メアリーに呼び止められた。
「奥様。まさかお忘れになっているとは思いませんが、夕食は大旦那様とご一緒ですからね」
「?? 分かってるわよ?」
「早めにお戻りを。また一から綺麗にしないといけないでしょうから」
「・・・」
「6時にはお戻りを。私はお迎えに行けませんので。時間厳守でお願いします」
「はーい・・・」
こうして、研究室を探っている間は、日に二回もお風呂に入る羽目になってしまった。
やっぱり大掃除を先にした方が効率が良かったかも・・・。
★
研究室に通い始めて三日目。
毎日毎日、体中埃まみれ、頭には蜘蛛の巣を付けたまま廊下を行き来していれば、使用人の目にバッチリ留まる。
影でヒソヒソと私のことを話している使用人たちの姿を目撃し、少しばかり焦りを覚えていた。
私自身のことをどう悪口言われても構わないのだが、行動自体を怪しまれ、不審がられ、後を付けられたり、探られたりしたら厄介だからだ。
とは言っても、捜索を止めるわけにもいかない。
エリオットとケイトにさりげなくフォローしてもらわないと。
そう思っていた矢先。
夕方、屋根裏部屋の研究室を出て廊下を歩いていた時だった。
いつものようにボロボロの汚い恰好の上、三日も経つのに何の成果も無く、いつも以上にガックリ肩を落として歩いていた私の横を、一人のメイドとすれ違った。
「え?!」
気が付いたら私は床に転んでいた。どうやら足を引っかけられたらしい。
驚いて顔を上げると、醜く笑った中年女のメイドが私を見下ろしていた。
「あら、若奥様でしたか? あまりにも汚くて気が付きませんでした」
そこに二人のメイドが加わってきた。
「本当に汚いですわ。こんな方がレイモンド家の若奥様だなんて恥ずかしい! 何かの間違いではないでしょうか?」
「大旦那様に認められていないのでしょ? 掃除夫ですら入らない汚い部屋を掃除させられるなんて」
「あはは! 本当! 使用人以下ですね!」
転んで倒れている私を起こそうともしないどころか、私を囲み、訳の分からないことをしゃべりながら見下ろして笑っている。
一瞬、意味が解らず、ボケーっと見上げていたが、だんだん彼女たちの会話の意図が分かってきた。
要するに虐めだ。きっと。
どうやら私はレイモンド家から蔑まれた嫁と勘違いされている。
それもそうか。毎日汚い恰好でガックリと肩を落として歩いてたら、そりゃあ哀愁漂うもんね。
つまり、そんな女主人なんて誰も庇う者もいないし、虐めてもどうってことないとでも思っているのだろう。ああ、なんて浅はかな・・・。私がここに来てまだ日も浅いのに、僅かな情報だけで私の立場を弱いものと確信するなんて。
それにしてもまさかの虐め・・・。引くわ・・・。
誤解を解こうと立ち上がろうとしたその時、
「少し綺麗にした方がいいですよ、若奥様。いや、掃除婦さん?」
そのセリフと共に頭に水が降ってきた。どうやらバケツの水を掛けられたようだ。
「冷たっ!」
思わず叫ぶ。
その叫びを聞いて、キャッキャと笑う声。
その声に、何かがブチっと切れた。
私はユラ~っと立ち上がると、
「あなた達、お名前は?」
そう言いながら彼女たちに近寄った。
彼女たちは汚い上に濡れた私に触れたくないとばかりに、ニ三歩さがった。
「ねえ、お名前を教えて下さる? 女主人として知っておかなければならないのに、ここに来て日も浅い上に、他のことにかまけてしまって、使用人の皆さんのお名前を覚えていないの。教えてちょうだい」
にっこりと微笑みながら、じりじりと三人に近づいた。逆にメイドたちはジリジリと後ずさりする。
「あら? もしかしてお名前が無いの?」
「そ、そんなわけないでしょう!」
「じゃあ、教えて下さらない?」
いきがるメイドに私は余裕の笑みを見せる。
「そ、そんなこと、何であなたなんかにっ」
「あなたなんか? 私はレイモンド家の女主人ですわよ?」
「何をえらそうに! こんな格好して女主人って! すぐ捨てられますよ! あなたなんて!」
「そうかしら? まあ、そうだとしても、今はまだ捨てられていないかられっきとしたレイモンド侯爵夫人です。さあ、質問に答えなさい」
私は語気を強めた。
悔しそうに睨み返してくるメイドたちはみんな中年女性だ。私みたいな小娘にこんな風に問い詰められてなんと情けない。
「いいわ。そうまでして教えるのが嫌なのなら、知っている人に聞きます。一緒にいらして」
私は一人のメイドの手首を掴んだ。最初に私の足を引っかけた女だ。
「何するのよ!?」
女は私の手を振り払おうとしたが、私も負けじと離さない。
手首を掴んだまま、ズンズンと廊下を歩く。
メイドは必死に逃げようと抵抗した。終いには掴んでいる私の腕を空いている方の手でバシバシ叩いた。
それでも私は手を放さず、ズンズン歩く。
辿り着いたその場所は・・・。
その部屋の扉にメイドはヒュッ息を呑んだ。
そりゃそうだろう。
ここは義父の執務室だ。
123
あなたにおすすめの小説
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
第18回恋愛小説大賞で、『奨励賞』をいただきましたっ!
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです
風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。
婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。
そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!?
え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!?
※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。
※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる