44 / 62
44.隠し扉
しおりを挟む
ズルズルと中年女を引きずりながら廊下を歩き、義父の部屋からある程度離れた場所で手を放した。その途端、メイドはその場にへたり込んだ。
私はその女の前に仁王立ちし、彼女を見下ろした。
その様子を、お友達の二人が青い顔で伺っている。一応義父に言われた通りタオルを持ってきたようだ。タオルを胸にギュッと抱きしめている。私は無言で二人に向かって片手を差し出した。
一人が駆け寄ってくると私にタオルを差し出した。その手はブルブル震えている。
「命拾いしたわね、あなた達」
受け取ったタオルで頭を軽く拭きながら、チラッと震えながら立っている二人を見る。
二人は私と目が合うと慌てたようにへたり込んでいる中年メイドの隣に並んで膝を付いた。
「これに懲りたなら、二度と愚かな真似はしないことね。次は無いわ」
「はい・・・。ほ、本当に申し訳ございません・・・」
三人は床に額を擦り付けながら蚊の鳴くような声で謝る。カスカスな声。何とか絞り出している感じだ。
「蔑んだ人間に助けられた代償は大きいわよ。覚えておくことね。それと・・・」
私は三人が見ていないことをいい事に、男らしく片手でガシガシと頭を拭きながら、
「エリオットとケイトを私の部屋へ呼んでちょうだい。その前に二人には、あなた達自らの口で今回ことを詳細に説明しなさいね。彼らから聞く報告と私が受けた被害と齟齬がないように」
そう言うと、三人は頭を下げたままカチンと固まってしまった。
「執事とメイド長と相談した上で、処分を決定します」
私はそう言い捨て、床にへばりついた三人をそのままに部屋へ向かった。
お風呂から上がり、ちょうど着替え終わっと頃に、エリオットとケイトがやってきた。
部屋に入り私を見るなり、二人揃って同時に床に膝を付いて頭を下げた。
「若奥様! 此度のことは誠に申し訳ございません! 私共の監督、教育不足で、ご不快な思いをさせてしまいました!」
「そうね。かなり不快な思いをしたわ」
私はソファーに腰かけながらわざと抑揚なく答えた。そんな冷めた言いっぷりに二人は私の怒りをしっかり感じ取ったらしく、さらに深く頭を下げた。
「改めて教育をし直してください、使用人たち全員。特にあの三人は徹底的に根性を叩き直してちょうだい」
「承知致しました」
二人ともガックリと肩を落としている。信頼していた部下の裏切りとも言える愚行とそれを見過ごした己の不始末、さらに彼らの本性を見抜けなかった器量の無さ、それらを大いに反省しているようだ。
「それから、私がどんなに怪しい恰好で歩いていても詮索しないようにさせてね」
二人は私がどんな理由で侯爵邸にやって来たのが知っているのだからしっかりフォローしてもらわないと。
「はい。若奥様」
神妙に返事をする二人を立たせると、メイド三人からどのように報告を受けたかを改めて聞く。それを隣で聞いていたメアリーの顔がどんどん険しくなり、最後には般若になっていた。
エリオットとケイトを部屋から下がらせた後、
「奥様・・・。彼女たちの根性を叩き直す役目は是非ともこの私が・・・」
扉を閉めて私に振り返ったメアリーの顔は義父より怖かった。
★
翌日から薄汚い私を見てもヒソヒソと話す輩はいなくなった。
これで無駄に神経を削る必要がない。調査に集中できる。
とは言え、何の成果も無いのは変わりなく、午後の調査に向かう私の足取りは重い。
今回はこのまま一つのヒントも得ることなく王都の邸に帰ることになりそうだ。
トホホとばかり肩を落としながら私は屋根裏部屋に向かった。
誰もいない研究室。入ってすぐにため息が漏れた。ほぼ見尽くしてしまった周囲を見回し、しばし途方に暮れる。
ここで見つかったのは薬草の専門書と調合法を研究した書類ばかりだ。それを見ても難しくて理解できない上に、調合法はもう確立しているので必要ない。さらにはジャックマン親子が体に負担を掛けない薬を研究してくれている。
私はだんだん何のためにここにいるのか、ここを探って何になるのか分からなくなってきていた。
「役立たずだな、私って・・・」
ネガティブな考えがぶわっと広がる。それを振り払うようにブルブルっと頭を振ると両手でバチンっと頬を叩いた。
「ネガるな、私! 役立たず上等! 何もしないより良いしっ!」
自分に活を入れ直した。そして本棚に戻すのも面倒で出来上がった本の山の間をすり抜けながら机に向かった。
散らかし放題の部屋。自分ではスイスイを避けて歩いていたつもりだが、床に転がっていたペンだか何かを踏んでしまったようで軽くよろけてしまった。とっさに本の山に手を付いた。しかし、その山も適当に汚く積んでいるだけで頼りない塔だ。すぐに傾き、またまたバランスを失う。慌てて近くの本棚に捕まった。すると・・・。
「うわぁ・・・!」
その本棚が私の体重に押され、スルスルと動いたのだ。
「わ、わ、わっ!」
スルスルと動く本棚に捕まったまま、私は成す術もなくそのままペチャンっと倒れ込んだ。
もうっ! 何でこの棚だけ移動棚なのさ!?
私は転んだまま位置が動いた本棚を恨めし気に睨みつけた。そしてその棚が移動したおかげで日の目を見た壁を見上げた。
「え・・・?」
私の目に飛び込んできた光景。
その壁には小さな扉があったのだ。
私はその女の前に仁王立ちし、彼女を見下ろした。
その様子を、お友達の二人が青い顔で伺っている。一応義父に言われた通りタオルを持ってきたようだ。タオルを胸にギュッと抱きしめている。私は無言で二人に向かって片手を差し出した。
一人が駆け寄ってくると私にタオルを差し出した。その手はブルブル震えている。
「命拾いしたわね、あなた達」
受け取ったタオルで頭を軽く拭きながら、チラッと震えながら立っている二人を見る。
二人は私と目が合うと慌てたようにへたり込んでいる中年メイドの隣に並んで膝を付いた。
「これに懲りたなら、二度と愚かな真似はしないことね。次は無いわ」
「はい・・・。ほ、本当に申し訳ございません・・・」
三人は床に額を擦り付けながら蚊の鳴くような声で謝る。カスカスな声。何とか絞り出している感じだ。
「蔑んだ人間に助けられた代償は大きいわよ。覚えておくことね。それと・・・」
私は三人が見ていないことをいい事に、男らしく片手でガシガシと頭を拭きながら、
「エリオットとケイトを私の部屋へ呼んでちょうだい。その前に二人には、あなた達自らの口で今回ことを詳細に説明しなさいね。彼らから聞く報告と私が受けた被害と齟齬がないように」
そう言うと、三人は頭を下げたままカチンと固まってしまった。
「執事とメイド長と相談した上で、処分を決定します」
私はそう言い捨て、床にへばりついた三人をそのままに部屋へ向かった。
お風呂から上がり、ちょうど着替え終わっと頃に、エリオットとケイトがやってきた。
部屋に入り私を見るなり、二人揃って同時に床に膝を付いて頭を下げた。
「若奥様! 此度のことは誠に申し訳ございません! 私共の監督、教育不足で、ご不快な思いをさせてしまいました!」
「そうね。かなり不快な思いをしたわ」
私はソファーに腰かけながらわざと抑揚なく答えた。そんな冷めた言いっぷりに二人は私の怒りをしっかり感じ取ったらしく、さらに深く頭を下げた。
「改めて教育をし直してください、使用人たち全員。特にあの三人は徹底的に根性を叩き直してちょうだい」
「承知致しました」
二人ともガックリと肩を落としている。信頼していた部下の裏切りとも言える愚行とそれを見過ごした己の不始末、さらに彼らの本性を見抜けなかった器量の無さ、それらを大いに反省しているようだ。
「それから、私がどんなに怪しい恰好で歩いていても詮索しないようにさせてね」
二人は私がどんな理由で侯爵邸にやって来たのが知っているのだからしっかりフォローしてもらわないと。
「はい。若奥様」
神妙に返事をする二人を立たせると、メイド三人からどのように報告を受けたかを改めて聞く。それを隣で聞いていたメアリーの顔がどんどん険しくなり、最後には般若になっていた。
エリオットとケイトを部屋から下がらせた後、
「奥様・・・。彼女たちの根性を叩き直す役目は是非ともこの私が・・・」
扉を閉めて私に振り返ったメアリーの顔は義父より怖かった。
★
翌日から薄汚い私を見てもヒソヒソと話す輩はいなくなった。
これで無駄に神経を削る必要がない。調査に集中できる。
とは言え、何の成果も無いのは変わりなく、午後の調査に向かう私の足取りは重い。
今回はこのまま一つのヒントも得ることなく王都の邸に帰ることになりそうだ。
トホホとばかり肩を落としながら私は屋根裏部屋に向かった。
誰もいない研究室。入ってすぐにため息が漏れた。ほぼ見尽くしてしまった周囲を見回し、しばし途方に暮れる。
ここで見つかったのは薬草の専門書と調合法を研究した書類ばかりだ。それを見ても難しくて理解できない上に、調合法はもう確立しているので必要ない。さらにはジャックマン親子が体に負担を掛けない薬を研究してくれている。
私はだんだん何のためにここにいるのか、ここを探って何になるのか分からなくなってきていた。
「役立たずだな、私って・・・」
ネガティブな考えがぶわっと広がる。それを振り払うようにブルブルっと頭を振ると両手でバチンっと頬を叩いた。
「ネガるな、私! 役立たず上等! 何もしないより良いしっ!」
自分に活を入れ直した。そして本棚に戻すのも面倒で出来上がった本の山の間をすり抜けながら机に向かった。
散らかし放題の部屋。自分ではスイスイを避けて歩いていたつもりだが、床に転がっていたペンだか何かを踏んでしまったようで軽くよろけてしまった。とっさに本の山に手を付いた。しかし、その山も適当に汚く積んでいるだけで頼りない塔だ。すぐに傾き、またまたバランスを失う。慌てて近くの本棚に捕まった。すると・・・。
「うわぁ・・・!」
その本棚が私の体重に押され、スルスルと動いたのだ。
「わ、わ、わっ!」
スルスルと動く本棚に捕まったまま、私は成す術もなくそのままペチャンっと倒れ込んだ。
もうっ! 何でこの棚だけ移動棚なのさ!?
私は転んだまま位置が動いた本棚を恨めし気に睨みつけた。そしてその棚が移動したおかげで日の目を見た壁を見上げた。
「え・・・?」
私の目に飛び込んできた光景。
その壁には小さな扉があったのだ。
112
あなたにおすすめの小説
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
第18回恋愛小説大賞で、『奨励賞』をいただきましたっ!
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
婚約が白紙になりました。あとは自由に生きていきます~攻略対象たちの様子が何やらおかしいですが、悪役令嬢には無関係です~
Na20
恋愛
乙女ゲーム"この花束を君に"、通称『ハナキミ』の世界に転生してしまった。
しかも悪役令嬢に。
シナリオどおりヒロインをいじめて、断罪からのラスボス化なんてお断り!
私は自由に生きていきます。
※この作品は以前投稿した『空気にされた青の令嬢は、自由を志す』を加筆・修正したものになります。以前の作品は投稿始め次第、取り下げ予定です。
※改稿でき次第投稿するので、不定期更新になります。
私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです
風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。
婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。
そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!?
え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!?
※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。
※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる