異世界聖女召喚(仮)

如月 桜

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12.

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 翌朝、宣言通りノアは日が昇る前に起こしてきた。
【おい、起きろ】
 ゆさゆさと身体を許される行為にわずかに目を開けると、見慣れたイケメンがいた。
「―――――あと少し・・・・・・」
【無理だ。待てない。今出ないと、日が昇る】
「日が昇ったらどうしてだめなの?」
 仕方なく起き上がる。
 眠い目をこすりながら聞くと、ノアはいそいそと私の身だしなみを整え始めた。
 部屋にあったブラシで髪をすいて、昨日おばあさんにもらった髪飾りをつかって、長い髪を編み込みし始めた。
 器用にやるなぁと眺めていると、結び終わったのか、椅子に掛けてあったマントをいそいそと着せて、昨日と同様にフードをかぶせられた。
【絶対に手を放すんじゃないぞ】
 しっかりと私の手を握り、忘れ物がないことを確認してから二人で部屋を出た。
 階段を下り、階下の食堂へと行くと、すでに人の気配がした。
 わずかに緊張が走ったのがノアの強く握られた手から分かった。
 ゆっくりと階段を下りると、真っ先に声をかけてきたのは宿の奥さんだった。
「おはよう、早いね。悪いけど、朝食ができるまでもう少しかかるんだよ」
 そういう奥さんに、ノアは急用ができてすぐに出なければならなくなったことを伝え、カギを返却した。
「そうかい、大変だろうけど、気を付けるんだよ」
 急用=妻である私の体調が悪化した、という風にとらえてくれたようで、特に引き留められることもなく、宿を後にすることができた。
 朝もやが立ち込める中、昨日まであんなに煙臭く感じていた町の空気が澄んでいるような気がした。

―――――ノア、町の空気が・・・・・・

――――自分がやらかしたことわかったか?

―――――これ、昨日の浄化?のせいなの・・・・・・?

――――無意識にやって、町中まで浄化しているからな。気づかれる前に出るぞ

 再度、私の手をしっかりと握り直し、ノアはまっすぐ町をかこっている壁のほうへと向かっていった。
 ちらほらと火のともっている窓が見える。
 少しずつではあるが、住民も起きて動き始めているらしい。
 昨日とは別の門まで来ると、今回もノアが冒険者カードを見せ、私のカードはないことを説明する。
 引き止められることもなく門をくぐると、ノアの足がさらに速く進んだ。
 こっちは、小走りにも近い速度だが、自分がやらかしてしまったことのせいで、ノアが焦っているのだから、ここはおとなしくついていくしかないな。
 かなり町から離れたところまで来ると、ノアはあたりを見回し、そして、街道からそれた。
 木が覆いしげるなかへと入っていくと、すぐさまライオンの姿になって、私を背に乗せると走った。

―――――ねぇ、浄化ってそんなにやばいことなの?

 あいかわらず森の中を突き進んでいるノアへとテレパシーで聞くと、ノアは、【あの町はまずいな】と返してきた。

―――――なんで、あの町はいけないの?

――――あの町は、国境の要に位置してるからな。国の中枢に近い貴族がいるんだ。特に、あそこの町にいる貴族はもともと、冒険者をしていてな、禍の存在も知っている

―――――禍の存在知ってるといけないの?

――――知っていて、なおかつ、あそこの貴族は祓うことができる存在がどういうものかを知っているからな

 このぐらいでいいか、というと、ノアは足を緩めた。
「禍を祓う存在って、そんなにすごいの?」
【奴らは禍を祓うことができ、なおかつ、人族がこの世界の支配者になるために勇者召喚を行った。まぁ、結果的には術式自体は失敗なのだがな】
「召喚対象をころしちゃぁ、失敗だよねぇ」
【まぁな。で、召喚を行った。多大な被害を出したのに、なぜか勇者が現れなかった。だから、どこか別の場所に召喚され勇者がいるだろうと、奴らは思ている】
「それって、普通なら召喚術が失敗したって思うところじゃないの?私ならそう思うんだけど」
【召喚の儀を行った時の被害の程度で成功かどうかがわかるようになってる。失敗をしていれば、代償を支払うことはないから、召喚の儀を執り行っていた者たちに被害は出ない。だが、召喚自体が成功すると、勇者の生死にかかわらず、召喚の儀を執り行っていた者らに代償が支払われることになている。その時の勇者の質にもよるが、まず、間違いなく、今回の召喚で死者が数人出ているはずだ。それだけ、お前の勇者としての質が高すぎたからな。だから、連中は必死になって、召喚された勇者を探しているはずだ】
 無意識に光魔法を使い、浄化までするとなると、相当な素質だな。
 ため息とともにそういうと、ノアは足を止め、私を下ろした。
 すぐさま人の姿へと戻り、アイテムボックスから、昨日のうちに何個か買っておいた屋台で売られていたものを取り出して、渡してくれた。
 このころにはすっかり朝日も昇っていた。が、どこかどんよりと空は曇っていて、今にも雨の降りだしそうな空模様だった。
 急いでノアが出してくれたパンとスープのセットをかきこむと、ノアはまた、ライオンの姿になって、私に乗るように言ってきた。
「でもさぁ、なんで、そんなに必死になって探してるってわかってるのに、人の住んでる町にいったの?」
【光のがいる山からドワーフの国に行くのに、一番近いからだ。あと、お前の食糧が必要だろ】
「あー、まぁ、そりゃぁ、食べ物は必要だけど・・・・・・てか、ドワーフなんているんだ」
【いるぞ。ほかにも竜族や、魔族もいるな。天族は、禍がはびこるようになってからは、どこかに身を隠しているのか見かけなくなったが・・・・・・獣人族とエルフは人族が乱獲したせいでだいぶ数を減らしてはいる。が、常に移動をしながら小さな集落を形成しているな】
「へぇ、そうなんだぁ」
【人族の領域で見かけるエルフと獣人族は、まず、奴隷として連れられているから、むやみに話しかけるなよ。お前が反対に奴隷にされるからな】
「―――――助けてあげることもできないの?」
【奴隷の首輪は主以外には外せないようになってる。下手に触ると奴隷が死ぬぞ】
「―――――――わかった・・・・・・」
【もうしばらくは人族の領域が続く。できるだけ紛れることのできる町を選択はするが、認識齟齬の魔法を後でかけておいてやるから、町中で絶対に魔法は使うなよ】
「清浄もだめなの?」
【だめだ。寝る前のは我がやるからおとなしくしてろ。エルフの魔法はただでさえ目立つからな。絶対に使うなよ】
「はぁい。それで、なんで、ドワーフの国にまで行くの?」
【ドワーフの国は、他種族に寛容なんだ。魔族も他種族に寛容ではあるが、あそこは魔族の魔法に触発された獣が魔物化していて危険だから、さすがにレベル1のお前を連れていくには危険すぎる。だから、ドワーフの国までいって、冒険者カードを作る】
「あぁ、カードを作るために行くんだ」
【ついでに、あそこまでいくと、低級の魔物がいるからな、レベル上げもできるぞ】
「お、やっと、異世界っぽくなるのね」
【のんきだなぁ】
「だって、難しいことわかんないもん。とりあえず、今はノアがやることを信じるしかないしさぁ。私はのんきに、おいしいもの食べたい、ってことぐらいしか考えることがないんだもんっ」
 ノアの背の上で胸をはりながらいうと、ノアはくつくつと走りながら笑った。
【ならば、ドワーフの国へ行くと楽しいかもしれぬぞ】
「へ?」
【あそこは研究熱心な者らが多いからな。お前が気に入るような食材もあるかもしれぬぞ】
「え、ほんと!?うわぁ、楽しみだなぁ・・・・・・あ、てか、他種族に寛容ってことは、ドワーフの国に行ったら、フードかぶっとかなくってもいいってこと?」
 今日も今日とて、フードを目深くかぶっているのだが、これ、ショッピングとかウィンドウォッチングするときってじゃまなんだよねぇ・・・・・・。
【まぁ、被らずとも問題はないだろうが、好機な視線はまぬがれぬぞ?】
「そんなに珍しいの?エルフって」
【まぁ、まず、見ることは少ないだろうな。たまに、ドワーフや魔族などとのハーフエルフや、先祖返りのエルフなどはいるが、まず、間違いなく、純血種のエルフは見ることはないな】
「純血種って」
【お前のステータスの種族は、エルフってなってるだろ】
「うん」
 いわれて、ステータスと念じると、目の前にステータスの画面が現れる。
 確かに、種族のところには”エルフ”としか書かれていない。
【町中で見かけるエルフの大半は種族の表記がハーフエルフになっている。先祖返りもほぼ間違いなく”ハーフエルフ”表記だな。お前の”エルフ”ってのは、混じりけのない純血種ってことだ】
「へー・・・・・・」
【ちなみに、純血種のエルフは我らと竜族に次ぐ、長命な種だ】
「そういえば、ノアっていくつなの?」
 ライオンの時のしゃべる方は、すっごいおじいさんっぽい感じのしゃべり方だし、神獣ってぐらいだから、きっと、ものすっごく長生きなんだろうなぁ、と思って聞いてみると、ノアは【さぁな】と答えた。
「さぁなって・・・・・・」
【忘れた】
「わすれたって・・・・・・自分の年でしょ?」
【100を過ぎたころから数えるのはやめたぞ。いつ生まれたのか、ということすら、覚えてはおらぬ】
「誕生日忘れるぐらいに長生きなのね・・・・・・」
【気になるのならば我を鑑定すればよかろう。できぬわけではなかろう?】
「それって、失礼なことじゃないの?」
【普通はな】
「じゃぁ、いいや」
【我は気にせぬぞ?】
「のぞき見する趣味ないもん」
 そんな悪趣味してないもん、とふいっと顔を背ければ、ノアはまた、くつくつと笑った。
【まぁ、お前とは永い付き合いになりそうだからな。おいおい、昔話をする機会もあるだろう。お前が死ぬまで、我が面倒を見るのであろう?】
 からかうようにそういう、朗らかな声音でいうノア。
「ノアのお嫁さんにされちゃったからねぇ」
 と、こちらも冗談交じりに左手の指から手首にかけて施された装飾を眺めながら言うと、ノアはさらに笑った。
【一応、それは、正式なものだからな。まぁ、お前に好いた者が現れるまでは虫よけにでもつけておけ。ドワーフの国や魔族領に入れば、そういった視線を向けてくる者らも多いからな――――――少し飛ばすぞ】
 空を見上げ、周りの景色を確認しながら言うノア。
「確かに、今にも雨、降りそうだもんね・・・・・・」
 ぎゅっと鬣をつかみ、空をわずかに見上げて返事をすると、ノアは、ちがう、と言った。
【あれは、雨雲ではない―――――”禍”だ】
 たすんと、軽い足音を立て、立ち止ると、ノアは空を見上げそういった。
「―――――――――あれが、禍・・・・・・?」
【あぁ】
「―――――ずっと、雨雲なのかと思ってた・・・・・・」
【人族の者らも、大半が雨雲と思っておる。だが、いつまでたっても晴れぬ雨雲を不審に思っておる者らも多くいる】
「――――――晴れることが、ないんだね・・・・・・」
【あの”禍”は、はじめはもっと薄いもので、なおかつ、国境に存在していた。しかし、いつの間にかあれは、おもく水を含んだ雨雲のようなものへと変わり、そして、今はこの世界全体を包み込んでいる】
「――――――どこまで行っても、空気が臭いの」
 そろりそろりとノアの背から降りると、空を見上げながらぽつりとつぶやくように言った。
「どこまで行っても、空気が臭いの。まるで、何かを焦がしたかのような臭いがするの」
 今日、朝目が覚めた時はそんなにおいはしなかったのに。
「ねぇ、ノア・・・・・・私は、この世界をきれいにすることは、きっと、簡単にできると思う」
 そう、きっと、簡単にできてしまう。
 昨日の夜と同じように、空気もきれいになればいいな、って願ったら、すべてを浄化してしまったから。
 だから、きっと、きれいに浄化をしてしまうことはものすごく簡単なのだと思う。
 でも、本当にただ、浄化をするだけでいいのだろうか・・・・・・?
 この空を覆いつくしている禍はどうして現れたのだろうか・・・・・・。
 ノアは他種族がいがみ合い始めたからできたといった。
 でも、この禍は他種族に寛容な国でさえ覆いつくしている。
 それは、他種族のみが関係していることなのだろうか?
 もっと、何か、大きなものが関係をしているのではないのだろうか?
 本当に、私は、逃げ続けていいのだろうか・・・・・・。
 ノアは安全のために清浄は使うなといった。間違って浄化を使ってしまわないために・・・・・・。
 でも、思ってしまった。
 それでは、いつになったらこの世界を浄化することができるのだろうか。
 この世界を、本当の意味で、浄化することができるのだろうか・・・・・・。
 ノアは世界を浄化してくれといった。動けないセイを助けてくれ、と・・・・・・。
 それは、ノアの願いだ。
 神様が本当に私のことを望んで、私に浄化をお願いしたのかといわれると、ノアが“神様がそう言っている”と言っていた言葉を聞いただけで、神様本人から伝えられたわけではない。
 ノアは私を“守る”と言ってくれた。
 それは、何から“守る”のかというと、これまでのノアとの会話からするに、“人族から”ということになるだろう。
 今は確かに私自身の種族は“エルフ”になっているが、私は本来ならば“人族”に位置する存在だ。
 もし、勇者召喚の儀が本当の意味で“成功”していれば、私は、地球と同じ姿でこの世界へと召喚され“勇者”となっていたはずだ。
 私が今“エルフ”という肉体を得ているのは、確かに“神様”の意向なのかもしれないが、そのあとの行動は、果たして本当に神様が私に“願ったこと”なのだろうか・・・・・・。
 異世界にきて数日、初めて私は、考えてはいけないことを考えてしまった。











 疑ってはいけない相手を、疑ってしまった。
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