異世界聖女召喚(仮)

如月 桜

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14.浄化

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 数日前から様子がおかしくなったのは気づいていた。
 それまでは普通に話をしていたのに、話しかけても生返事しか返ってこなくなった。
 出会ったその日は、いてくれないと困るといったその口は、その言葉を吐き出すことすらしなくなった。
 何がいけなかったのだろうか。
 光のが昔から言っていた。人間とは複雑怪奇な思考を持っていると。
 こいつも、もとは人間だったという。
 だから、我には理解できない何かを考えているのかもしれない。
 そう思いつつも、しばらくは様子を見ることに徹していた。
 適当に放っておけばまた、元通りやかましくわめくようになるだろう、と。
 しかし、いつまでたっても、この娘はおとなしいままだった。
 まるで、火が消えたようにおとなしくなった娘は、ふとした時に空を見上げる。
 見上げて、そのまま動かなくなって、そして、どこかへと消えてしまいそうなぐらいに、気配が希薄になる。
 気づいたら名前を呼ぶようになっていた。
 呼べば振り向きこちらを見るだろうか。
 そう思いながら呼べば、娘は何の反応も見せなかった。
 おいしいものが食べたいと言っていた。
 ならば、と思い、町に立ち寄る際、目についたものをいろいろと買い求めてみた。
 移動中の食事に町で買い求めたものを出しては見るが、やはり、反応がない。
 口に合わないのだろうか、いや、でも、おいしいとあの時は言っていた。
 ならば、もっと何か・・・・・・。
 娘の興味を引くものを考えるのに、何も思いつかなかった。
 最終手段の光のに聞いてみると、光のは、しばらく悩んでから、甘いものでも上げてみれば、と返してきた。
 甘いもの。
 貴族たちが好んで食べるようなものか。
 眷属を呼び出し、夜、娘が眠っている間に空をかけ街へと急いだ。
 なじみの職人のいる工房を訪れ、無理を言い飴玉の入っている瓶を買った。
 工房を出るときに「これか」と小指を立てて聞かれたが、それにこたえる余裕すらなく、急ぎ娘のところへと戻った。
 急ぎ買い求めたというのに、結局、今もまだ、あの飴玉は娘の口に入ることすらない。
 今日もまた、野宿をする。
 火を焚き、昨日町で購入しておいた食事を出す。
 あたたかな食事を出し、食べるように促すのに、返事すら返ってこない。
 名前を呼んでも、返事もなく、振り返りもしない。
 今日もまた、反応が悪い。
 そう思いつつも、辛抱強くこちらのほうを向く時を待つ。
 そう、待っていたのに、娘は一歩を踏み出した。
 我のほうへと踏み出した一歩ではなく、我から遠ざかるために踏み出した一歩。
 一歩が出れば二歩目は早かった。
 焦った。
 声を交わさずとも、そばにいるのならばまだよいと思っていた。
 それなのに、この娘は我から遠ざかろうとしている。
 我から、逃げようとしている・・・・・・。
 気づいたときには、娘の腕をつかみ、無理矢理振り向かせてた。
 いつの間に、こんな瞳をするようになったのだろうか・・・・・・。
 まるでガラスのように、でも、その中にははっきりと見える。
 我へとむけてくる不信感が。
【どこへ行く気だ】
 そう、問うても返事が返ってこない。
 なぜそう聞かれたのかすらわからないのだろう。
 無意識のうちに踏み出したのだろう。
【モモ】
 声をかけても、返事が返ってこない。
 娘のエバーグリーンの瞳に移る黒い影が絶えず揺れ動いているのが見えた。
 こんな顔をするようになっていたのか。






――――――浄化・・・・・・






 唐突に娘から流れ込んできたその言の葉。
 瞬間、暗く垂れこめていた雲がはれ、世界に新たな風が吹き荒れた。
【お前・・・・・・何を・・・・・・】
 あれほど危険だから使うなといったのに、なぜ。
 そういう思いから出た言葉に、娘はただまっすぐ、我のことを見上げ、
「あなたの願い、叶えたよ」
 久々に聞いた娘の声はひどく、弱弱しく聞こえた。
「だからもう、私は必要ないよね」
 娘が何を言っているのかわからなかった。
「――――――――さようなら」
 気づいたときにはすでに、娘の姿はどこにもなかった。
 光のが眠っている石がただ地面の上に残されたのみだった・・・・・・。
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