異世界聖女召喚(仮)

如月 桜

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16.聞いてないよ!そしてむちゃぶり

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【――――――モモ】
 しばらくたっても、口を開こうとしないモモに、ノアが声をかける。
「――――――――――――聞いてない、聞いてないからねっ!!」
 ぶつぶつと何かを言っていたモモが、がばりを顔を上げ、ノアのほうを見上げ叫んだ。
【な、なにをだ・・・・・・】
 思わず一歩後ずさるノアに、モモは思いっきり詰め寄り、そして、ノアの服をつかみ、
「セイが男の人だなんて、聞いてないよっ!!!」
【あ、あー・・・・・・】
 長年の経験上、セイを女だと勘違いする人間が多くいたことを思い出し、何となく、モモの言いたいことを感じ取ったノアは、生返事を返せば、モモは、「あぁああああ」と叫ぶと、頭を抱えて座り込んでしまった。
「あたし、セイの前で服着替えちゃったよっ、素っ裸になって、下着付け替えたよ!?」
【あぁ・・・・・・だ、だが、アイツは一応、その、心は乙女というておるし・・・・・・】
「でも、男の人だよね!?嫁入り前なのにっ!!!好きでもない人に素っ裸見られたよ!?これ、ふつぅに考えて、お嫁に行けれないって叫んでいいよねっ!?」
 がばりと立ち上がり、ノアの服をつかみ、がくがくと揺らすと、いや、とか、まぁまて、とかノアがいうが、こちとらそれどころではないんだっ!!
「お嫁にいけないっ!!!」
【あー、まぁ、ちょっと、落ち着け、な?とりあえず、お前は、一応は世間様的には、お嫁に行っているっていう扱いだからな、だから、落ち着け】
 と、モモの左手につけてある装飾のことを指していえば、モモはさらに声を上げた。
「それ、偽装だよね!?」
【いや、まぁ、たしかに、偽装ではあるが・・・・・・・】
「ひどい、ひどいよっ!!ある日突然、知らないエルフの身体で記憶がよみがえるとか、気づいたらお前死んでるとか、異世界に飛ばされてきてるとか、かと思ったら、偽装で結婚させられるし!!!異世界に召喚されたヒロインには、王子様とか、イケメンのかっこいぃ騎士とか、つきものじゃないの!?」
【あー、とりあえず、訂正をするとだな、イケメンの騎士はいたとしても、まともな王子ってのはいないからな、あんま夢見るなよ】
「まともな王子様いないの!?異世界ファンタジーの定番の王子様はっ!?かっこいぃ王子様プリーズ!!!」
【あー、とりあえず、落ち着け、あ、甘いものでも食べるか?この前、知り合いのところへ行って買ってきたものがあるんだ】
 そういうと、ノアはアイテムボックスから色とりどりの飴玉が入っている少し大きめの瓶を取り出し、きゅっ、と音を立て瓶のふたを開け、ピンク色の飴玉を取り出すとモモの前に突き出してきた。
 食べろ、と言わんばかりの動作に、一瞬たじろぎはしたが、久々の甘いものの誘惑に負け、モモは口を小さく開けた。
 小さく開けた口の中へとノアが飴玉を放り込む際、唇にノアの指が触れて、一人赤くなったりしているモモなどお構いなしに、ノアは【落ち着いたか?】と、聞いてくる。
 むしろ、まったく違う意味で興奮してしまいました。
 心の中でそうはいっても、それを口にすることはできず、上気している頬を両手で覆い隠し、モモはもこもこと舌の上で飴玉を転がした。
「あまぁい」
 しばらくしてやっとこさその一言を口にできたモモに、ノアも安堵の息を漏らした。
【落ち着いたようでよかった】
「いや、別の意味で落ち着かないんですけどね」
【ん?】
「なんでもないです――――――でさぁ、まともな王子様いないって、どゆこと?】
 とりあえず、話を戻すモモに、ノアは、あぁ、と声を漏らし、
【人族の王子は、まぁ、エルフ愛好家の変態国王に育てられたために、かなり性格が歪んでいるだろ】
「ん、まぁ、親が親ならしょうがないよね」
【ドワーフのところは国となっているが、王がいるかといえば、厳密にはいない。いろいろな街の長たちが国をまとめる王のような役割を担っているからな。まぁ、各街の長の子を王子と言えなくもないが、あそこはもともと職人気質のものが多いからなぁ・・・・・・】
「各街の長をまとめる人っていうのもいないの?」
【昔はいたが、それぞれの要望とかを聞いたりまとめたりすることに時間が割かれて、本来の自分のやりたいことができない、ということで、一人にその任を任すのはよそうということになったんだ】
「へぇー、そうなんだぁ」
【で、魔族は、一応魔王っていうやつがいるんだけど、そいつがまぁ、ものすごくひねくれた性格をしていてな・・・・・・あそこの一族は、おおむね、まぁ、ひねくれていてな・・・・・・魔王の子も、十数人いるんだが、どいつもこいつもひねくれていて・・・・・・】
「――――――――――ちなみに、どんなひねくれかたをしているの・・・・・・?」
 怖いもの見たさに聞いてみれば、ノアはしずかーに、視線をそらした。
「―――――――えーっと、ほかの種族は!?」
【―――――他は・・・・・・竜族は村という集落でまとまっている。あそこは子供自体が生まれにくいからな。全体的な数が少ない。最年長のものが一応長という役割を担ってはいるが、それぞれ自由な気質だからなぁ・・・・・・人の中に紛れて旅をしたりしている奴がほとんどだ。なので、王という存在もなければ、その子という存在もない】
「なんてフリーダムな・・・・・・」
【同じく種族全体の数が少なくて、纏め上げる長というものはいるが、王子となれば、違うだろうな】
「――――――異世界の王道、かっこいぃ王子様って夢だったんですね・・・・・・」
【どうしても、王子様がほしいなら、自分で国でも興せばいいだろ】
「いや、自分で国を興してどうすんのよ。あたしが子供産んで初めて王子様の完成じゃん」
【かっこいい王子様ってだけならそれが一番手っ取り早いぞ?昔は巫女が世界の王だったからなぁ】
「いやいやいや、たしかにかっこいぃ王子様はほしいけどさぁ、そうじゃなくって、かっこいぃ王子様にプロポーズされるっていうのが理想じゃん!?せめて夢ぐらい見させてよ!!――――――――――ってまって、ノア、国を興せばいいって、そんな簡単にできるもんじゃないでしょ!!なに、さらっと簡単そうに言ってんのよ!!第一、あたしに国興しなんてできるわけないじゃん!!」
 さらっと言ってくれたけど、それって、ものすっごぉおおおおくめんどくさいし、大変だし、第一、世界の覇権争いに加わりたくないんですけど!!
【そうか?】
「むりむり!!第一、土地もないのに、どうしろっての!?」
 わざわざ人族とか魔族とかドワーフさんとかに喧嘩売ってまでやりたくないし!
【土地だけでいいなら、腐るほどあるぞ】
「はぁっ!?」
【この世界に切り開かれてない土地なんて腐るほどあるぞ?あと、未発見のダンジョンとか】
「なにそれ、どゆこと!?」
 世界の覇権争いとかいっちゃってたよね!?てことは、それぞれに国分けされていて、そんでもって、よくある隣の芝は青いってやつじゃないの!?
【あのな、知らないやつが大半だけどな、未開の地ってやつがゴロゴロあるんだよ】
「なんで、そんなにいっぱい未開の地があるのに、エルフや獣人族は逃げ隠れしながら生活したり、人間は支配したがったりするの?」
【向こうのほうにでかい山が見えるのわかるか?】
 そういいながら、ノアはずぅっと向こうの空に見える山を指した。
 てっぺんは雲を突き抜けていて、白っぽいから多分雪も被ってるんだろうなぁ。
【あの山がな、ずぅっと続いていてな、ぐるっと今、この世界で生きてるやつらの土地をかこってるんだよ】
「山越えしようとした勇者はいないの?」
【過去に何度かはいたな。でもなぁ、どんなに強靭な体をもってる竜族ですら超えることができなかったんだよ】
「そんな無謀な山越えを私にしろと」
【誰がお前にそんな過酷な道を進めるか。安全な道が別にあるんだよ】
「安全な道があるのに、なんで誰もいかないんだよ」
【ちょっとしたダンジョンの奥にその道があるから、誰にも見つかってねぇんだよ。ついでにそのダンジョンもまだ、未開だ。走破したやつはいないぞ】
「レベル1の私にどうしろと!?」
【入口あたりは低級モンスターいるから、気合でレベル上げろ】
「むちゃくちゃいうね!!」
 きりっとした視線でこちらを見ながら言ってきたノアへと叫び返せば、ノアはくつくつとまた笑った。
【まぁ、冗談は置いといて】
「冗談なのかっ!!そうだよね、異世界にきて、まだひと月もたってない小娘に、国を興せなんて、なんちゅぅむちゃぶりなんだろうなっておもったよ!!」
【山を越えなくっても、精霊界わたっていけば、至極安全に超えられるぞ】
「まさかの山越えダンジョン越えが冗談なの!?」
 え、まじで、この人、私に国興しさせようとしてらっしゃる!?
【お前だって、逃げ隠れしながらの生活はいやだろ?】
「――――そりゃぁ、いやだけどさぁ」
【あっさり世界を浄化した奴が、どの種族からもほっとかれるわけないだろうが。どこに行っても住みにくいぞ。それならいっそのこと自分で住みやすい国を作ったほうが早いだろ。仲間がほしいってんなら、移動しながら生活してるエルフを呼べばいいだろ。あいつらだって逃げ隠れしながらの生活に疲れてるだろうから、一も二もなく食いついてくるぞ】
「―――――――」
【お前がやりたいなら、どこまでも付き合ってやるぞ】
「―――――――でも・・・・・・」
【お前が死ぬまで面倒見るって約束しただろうが。初日のあの勢いはどうした?むしり取るぐらいに人の鬣を握りしめていたモモはどこに消えた】
 くつくつと笑いながら言うと、ノアは私の前に膝をついて、そして、左手をすくうようにとった。
【どんな時も、お前を守ると、これをかけるときに誓った。それに嘘偽りはない】
 そういうとノアは装飾の施されている手の甲へと唇を寄せた。
「ひゃぁっ」
 思わず情けない声を上げ、後ろへと後ずさる。
「そっ、そういうの、きんしっ!!!た、だだでさえノア、かっこいぃのに、そんなことするのだめ、絶対っ!!」
 種族違うし、あいて神獣だし、ていうかライオンだしっ!!!
 危ない扉を開いてしまう前に、これ以上はダメ、禁止!と叫べば、ノアはきょとんと首を傾げ、それから、これでもかというぐらいに意地悪な笑みを口元へと浮かべた。
【そうか、我はイケメンという分類に入るのだな。王子にはなれそうにはないが、王にはなれそうだしのぉ】
 にやりと不敵に口元が歪んでいますよ、ノアさんっ!!
【ふむ、長い年月を生きてきたが、これほど、心躍るものはなかったぞ。礼を言うぞ、異界からきた巫女よ】
「の、のあさぁん・・・・・・トリップしてないで、かえってきてぇ・・・・・・?」
【そうと決まれば、善は急げというしのぉ。光の、すぐに精霊界をわたり、山向こうの地へといくぞ】
 人の姿なのに、ライオンのときと同じ口調になってますよ、ノアさん!!!
 ていうか、ちょっと、セイに声をかけながら人を抱っこしないでくださいっ!!
 無駄にイケメン顔が近すぎてやばいんですって!!!
【話はまとまったのん?】
 ニコニコしながら戻ってきたセイは、お土産と言わんばかりに、何かを抱えていたが、ノアに抱きかかえられている私を見て、ニヨニヨと笑った後、手に持っていた大量のそれらをぽいっとアイテムボックスへと放り込んだ。
【精霊界なら、この先の湖に入口が開いてるわね。さぁ、急ぐわよ!!ノア、乗って!!】
【うむ、助かる】
 ひょいっと、重力なんて感じさせずに人を抱えたまま熊になったセイの背中に飛び乗ると、セイはさっさと走り始めてしまった。
【それで、どうするの?山向こうなんか行って】
【どうせこれからモモはいっそう住みずらくなるからな。それぐらいならば、山向こうの未開の地に国でも作ればよいという結論に至ったまでだ】
【あぁ、確かにねぇ。町の様子見てきたけど、聖女さまだ、巫女さまだぁーって、一般人まで騒いでいたからねぇ・・・・・・王都のほうまで行ったら、さらに過ごそうだし、魔族は、早々に聖女探しに乗り出していそうよねぇ・・・・・・あいつらが本気を出したら時間の問題だから、さっさと精霊界にわたるわよっ!!さすがにあいつらも精霊界には入れないからねん】
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